人間をトコトン堕とす霞ヶ関の闇

文部科学省の幹部官僚が次々と汚職で逮捕されています。

ひとりは息子の東京医科大学への裏口入学を依頼する代わりに、同大学へ補助金付きの国家事業選定を約束した佐野太被告(元・科学技術・学術政策局長)。

佐野被告の息子は同大学を落ちて浪人中、大学側も同事業への申請に落ちており、お互いの“浪人”状態をバーターで解決しようとした受託収賄&贈賄の罪です。

大学側は理事長と学長が容疑を認めて辞職。

佐野被告は(息子があなたの大学に入りたがっている、という話はしたが、裏口入学を頼んだわけではない、といかにも公務員的な屁理屈をこねて)容疑を否定してますが、

メディアに流れている(検察も入手してる)高級料亭での会話内容を聞く限り、ちょっと逃げられそうにありません。

よりによって教育を司る文部科学省の局長が、息子の裏口入学を(国家権力と国家予算を使って)依頼するというとんでもない事件は、世の中に大きな衝撃を与えました。


もうひとり、新たに逮捕されたのも文部科学省、国際統括官の川端和明容疑者でこちらも局長クラス。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)出向時代に(把握されてるだけで!)140万円分以上もの接待を受け、特定企業の受注に便宜を図った容疑らしい。

最初の事件でブローカーとして暗躍し、既に逮捕されてる谷口浩司被告つながりで発覚したみたいですが、この人、霞ヶ関の汚職ブローカーっぽいので、今後も芋づる式に逮捕者がでてくるかもしれません。


★★★


ここで注目すべきは息子の裏口入学を依頼した佐野被告と東京医大の理事長らの会食音声テープ。

非常に生々しい内容なのですが、あれを聞いての私の感想は、「こんなの、初めての汚職じゃないよね」ってことです。

佐野被告はこういう場にすごく慣れており、その声からも口調からも、「今、自分は大変な罪を犯しつつある」という怖れや躊躇がまったく感じられません。

金銭的な見返りを受けて特定業者に便宜を図ったり、高級料亭で民間人にご馳走してもらうのが初めてとはとても思えない手馴れた態度なんです。


なんでそう思ったか?

私は霞ヶ関の官僚達が、どうやってここまで墜ちていくのか、そのプロセスをけっこうリアルに見てきたからです。

一定レベル以上の大学の卒業生なら、霞ヶ関の官僚を目指す同級生のひとりやふたり、知ってるはず。大学によっては「山ほど」そういう先輩や後輩がいます。

学生の頃の彼らは「霞ヶ関に入って国家権力と税金配分権を手に入れ、民間では不可能な権勢を存分にふるいたい!」などと考えたりはしてません。

ただただ純粋に「世の中にインパクトを与える大きな仕事がしたい」「弱者を救いたい」「よりよい社会を実現したい」と考えてるわけです。


それが、霞ヶ関で 20年、30年と働くうちに、完全におかしくなっていく。

自分ではまず払えないような高級レストランで勧められるままに飲み食いし、一円も払わずに店を出ると黒塗りのハイヤーが(もちろんタダで)家まで送ってくれるような状態を「ごく当たり前」に感じ始め、

その対価が、自分が裁量権を持っている国家権力と税金配分権であることを理解しながら、ブレーキが効かなくなるどころか、いつしか罪悪感のカケラさえ失ってしまう。

人間ってここまで変わってしまうのか・・・というのは、私がこれまでの人生で理解した、本当に残酷な現実のひとつです。


今、霞ヶ関を目指している学生さんは「自分だけはそうならない」と考えてるかもしれません。まだそういう犯罪に染まっていない若手官僚も「自分は大丈夫」と思っているかも。

でも、それはとても難しい。

なぜならそこには、世間知らずで世の中の荒波に揉まれたこともないピュアな人間を確実に堕とし、壊していくための非常にパワフルで、巧妙かつシステマティックな仕組みがあるからです。


霞ヶ関に入りたての若手官僚の中には、民間企業との打ち合わせで出された 2000円ほどの弁当にさえ手を付けない人がいます。

賄賂になりかねないから食べられないと、そういって持参したコンビニのパンを食べる人までいるんです。

ところが、この若手官僚を上司の課長と一緒に料亭に招待すれば、課長に誘われた若手は「僕は行きません」などとは決して言いません。

何年入省かが何より大事なほどヒエラルキーが確立している霞ヶ関では、上司の命令は絶対です。

そして、既に接待に慣れきっている上司が上機嫌で飲み食いする隣で、「僕はこれを食べられません!」などと言ったりできる若手は存在しません。


対面に座る霞ヶ関ブローカーは、後悔と緊張で体がこわばったまま箸の動きもぎこちない若手官僚を下目でのぞき込みながら、

「アホなやっちゃな。この前は弁当にさえ箸がつけられなかったのに、上司の前ではなにひとつ言えへんのか」と心の中で軽くバカにしつつ、

慣れた手つきで「まあまあまあ」とかいいながらお酌を続けます。

「ほらみたことか」って感じでね。


ゴルフも接待も視察という名目の温泉旅行も、まったく同じ。

ウブで世間知らずの若手官僚を明らかに過剰な接待に慣れさせる方法なんて、プロのブローカーにとっては赤子の手を捻るより簡単です。

最初の頃、接待に慣れない若手官僚は、次回にブローカーが霞ヶ関を訪ねてきた時(ちなみに彼らはしょっちゅう霞ヶ関に出入りしてます)、廊下の隅でこわごわ呟きます。

「先日は調子にのってつい御世話になってしまいましたが、ああいうことはもう・・・」

「いやいやいや、わかってますよ。ご安心ください」

ブローカーは笑ってます。

心の中で。


中には「先日のお代、やっぱり自分で払います」とまで言ってくる若手もいます。接待を受けてしまったことを後悔し、後からでも問題を正したいと思うのでしょう。

すばらしい。

でもね。

それってもはや若手官僚に払えるような額じゃありません。

「いやいやいやいや、気を遣わせてしまってすみません」 

お前なんかに払えるレベルの店じゃねえんだよ、と毒づきながら、ブローカーは平身低頭で謝ります。自分が悪かったと。


最初はそうやって、2000円の弁当さえ食べるのを渋っていた若手官僚が、視察に呼ばれて行ってみたら高級温泉で豪華な食事が出てきたり、(時には女性が現れたり)、

いろんな段階を経て少しずつ罪悪感がマヒし、

いや、

いろんな段階を経ながら少しずつ感覚をマヒさせられ、

そのうち自分から「愚息がそちらの大学を志望してまして・・・」と切り出すに至るまで、数年だったりは決してしません。

人間を確実に堕としていくには、数年なんて短すぎて不可能だから。

必要なのは最低でも 20年から 30年。


長すぎる?

まったく長すぎません。

だってこの「人間を確実に堕とす」ために必要な期間は、

「入省したばかりの若手官僚が、国家権力と税金配分権を手に入れる局長クラスに上りつめるまで」の期間とちょうど同じだから。


今回、佐野被告が接待を受けながら息子の裏口入学を依頼している音声テープを聴いて、「こんなの初めてじゃないよね」と思ったのは、このプロセスを知ってるからです。

初めての接待を高級料亭で受ける官僚は、もっとめちゃくちゃオドオドしています。


かわいそうなくらいに

恐怖で震え上がってる。


こんな慣れた様子でリラックスして飲み食いし、言質を取られない巧妙な形でバーターを持ちかけたりとてもできたりしません。

どれくらいこういうコトに慣れているか。どれくらい、こういう接待ややりとりが日常的なことであったのか。

実態を知る人には本当によくわかる音声テープでした。


★★★


あたりまえですが、巧妙な罠をしかけて人を堕落させる霞ヶ関ブローカーはあらゆる業界にいて、今回は文部科学省が挙げられたけど、他の省庁もまったく同じです。

こうやって、日本でもっともお勉強が得意だった人たちが次々と墜ちていくプロセス、彼らの良心や志を着実に(薄ら笑いしながら)破壊していくブローカーの手練手管を見ていると、ほんとに人間って怖いなと思います。

20代の頃の、あの、誰よりも高い志と清い心をもっていたはずの同級生達が、こんなふうに変わっていくなんて・・・


★★★


以前に勤めていた民間企業で、上司に言われてほんとにそうだと思った言葉があります。

「うちの会社は生活必需品を作ってるわけじゃないし、大量の人を雇ってるわけでもない。だから大不況や大災害に襲われたとしても、誰も助けてくれない。

うちのような企業が長く生き残るには、市場から評価され続けるしか道はないんだ」と。


公務員組織なら、時代が変わってなんの価値も提供できなくなっても、許認可権や補助金配分権をもってるだけで、あらゆる民間企業がひざまずいてくれる。

生活必需品を作ってる産業なら、災害で壊滅的な被害を受けたら国が税金で助けてくれる。

大量の人を雇用してる大企業なら、経営に失敗して倒産の危機にみまわれても、国がファンドまで作って救おうとしてくれる。


一方、うちみたいに「無くなっても誰も困らない企業」は、市場=客からの支持がなくなったらすぐに潰れる。

だからこそ市場が求めているものを敏感に意識できるようになるし、高い価値を提供し続けるためには、市場の変化に合わせ、自分も常に変化し続けないといけない。

変化を怖がったり、変化を嫌がったりしていても、組織が潰れない公的組織や大企業とはまったく違う。

人はこういう不安定な組織で働いてこそ、市場で求められる人材になれるんだと。

そう言われたんです。


「社会のために働きたい」「世の中のためになる仕事をしたい」と思ってるピュアな若い学生さんは今もたくさんいるんでしょう。

そういう人に伝えたい。

あなたが本当にそう思うなら、

どういう場所で働きはじめるべきか。

現実的に、よくよく考えてみて欲しい。

闇にまみれた世界で、自分だけキレイに頑張るのはほんとーに難しいのだから。



そんじゃーね


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