とある友人とのコト

今日は、15年もの付き合いになる友人について(本人の許可を得て)書いておきたいと思います。

彼女は「相手の気持ちを読む」ことがとても苦手で、ものすごくはっきり言わないとこちらの意図を理解してくれません。

彼女といると、よくこういう感じになります。

友人「ちきりん、今度◯◯っていう映画に行こうよ!」
ちきりん「いいよ」

で、映画を観た後にお茶をしながら、
ちきりん「ねえ、今○○の展覧会やってるから今度いかない?」
友人「うーん、あんまり興味ないからいいわ」


同じコトは何度も繰り返されます。

お互いが関心を持つことに誘い、相手がそれに付き合う。

それにより双方の世界や視野が広まり、かつ、時間と空間を共にし続けることで経験や感動を共有でき、お互いへの理解が深まる。

結果として「昔つきあってた人が好きだった歌手やスポーツの大ファンに(自分も)なっていく」ことってあるでしょ?

友人であれ恋人であれ、夫婦であれ共に働く組織や団体の仲間であれ、私にとってはそれこそが他者と関係性を築くことの意義であり喜びです。


でも彼女から見える世界はそうなってはいません。

彼女は、私が「友人に誘われたから=友人が行きたがっているから、自分としてはそこまで興味がなくてもつきあって行動を共にする」ことがあるなんて、想像したこともなかったというのです。

つまり彼女に誘われた時、私が「いいよ」と言ったのは、「たまたま私も彼女と同じくらい、その映画を観たいと思っていたからのはず」だと思うわけ。

てか、それ以外の理由なんて考えられないらしい。


最初に「彼女は相手の気持ちを読むのが苦手」と書きましたが、別の言い方をすれば、彼女には自分が誘った時の相手の答えが、
「いいよ」の場合と
「あっ、それ! あたしも行きたかったんだ!」の場合の違いが理解できないのです。

だから「いいよ」と言われた時も常に、「あっ、それ! あたしも行きたかったんだ!」って意味だと理解するのです。


彼女はこうも言います。
「映画でも展覧会でも、ひとりで行ける友人から誘われても、自分が一緒に行く意義があるとは思えない。だから関心がなければ断るのはごく自然なこと。もしちきりんに何か障害があり、ひとりでは行けない事情があるなら、喜んで同行し世話をする」と。

彼女にとって「自分がたいして興味のないことでも、友人につきあう場合」とは、「友人になにか、ひとりでは行けない事情があるときだけ」らしいのです。

それ以外の理由で、「関心はなくても、友達だからつきあう」ってことはないらしい。


これって、奥さんに買いものにつきあってと言われても「オレは興味ないから行かない。それに、それくらいひとりで買いに行けるでしょ?」っていっちゃう夫と同じです。

そういうのが繰り返されると妻側には「あたしはあんたの趣味にも結構つきあってあげてるんだけどわかってる?」「なんてワガママなの?」とフラストレーションが溜まります。そしてどこかで衝突するのですが、すると彼女はこう言うんです。

「ひとりではなく私と一緒に行きたいなら、はっきりそう言ってくれないとわからない。一緒に行きたいと言われたら喜んで一緒に行く。単に行きたいかどうか聞かれただけだから、興味がないと答えただけだ」と。

友人をどこかに誘うとき「ひとりでももちろん行けるけど、あなたと一緒に行きたいので、一緒に行ってくれないか?」と毎回、言わなくちゃいけないなんて、(ラブラブ期の恋人じゃあるまいし)正直、私にはものすごく面倒なコミュニケーションです。

そもそも彼女以外の友人に関しては、こんなことは起こりません。

それぞれが「いつもつきあってもらってるから or  前回はつきあってもらったから、今回は私がつきあおう」とお互いに一歩ずつ歩み寄る。

譲ったり譲られたりするから(相手の誘いを断る回数が)アンバランスになることもないし、なにより「そうやって共通の思い出を増やし、お互いの世界が拡がるからこそ友達って(恋人や家族って)すばらしい」と思ってる。

★★★

彼女は自分のことを「発達障害じゃないかと思うくらい人の気持ちがわからない」と言います。「だから、とにかくはっきり言ってほしい」と。

長いつきあいなので、私もそれは理解しています。でも、15年もたつのにまったく私の気持ちを理解してくれない友人との関係には、ときに絶望を感じ、ものすごく哀しくなったりもします。

彼女は、TPOにあわせて行動を変えることも苦手で、銀座の三越で値引きできないか聞いたりするし、高級レストランのビュッフェでも子供みたいにお皿を山盛り(てか、てんこ盛り!)にします。

私が「ここはそういうお店じゃないよ」と注意をすると、すぐに直します。でも応用が利かないので「まったくおなじ場面」でない限り、同じようなことが繰り返されます。


ちなみに、「ミシュランで三つ星の、予約の超取りにくいレストラン」なら彼女も「ここは高級レストランだ」と理解し、ゆっくり上品に(=TPOを理解できている大人のように)食べるのですが、

そういうわかりやすい看板がなく、「とはいえ雰囲気から見て、ここは明らかに上品に食べるべき場所でしょ?」っていう店では、明示的にそう言われないと理解できません。

「言葉」として明確化されると理解できるけど、「周りを見て判断する、状況から判断する」のはできないのです。


ある商業施設で、彼女はお金を入れた緑のポーチをレジに忘れました。
しばらくして「緑のお財布を忘れたお客様、係員までお申し出ください」という館内アナウンスがありました。

それを聞いた彼女は「財布忘れるなんてバカだねー」と笑っていました。
なのに数時間後(その商業施設を離れた後で!)「さっきアナウンスされてたの、あたしのだ!」と言い出すのです。

館内アナウンスを聞いた時、なぜ自分のだとわからなかったのかと問えば、「私がお金を入れていたのは緑のポーチだった。でも館内アナウンスでは緑の財布だと言っていた。だから分からなかったのだ」と。

例え彼女がお金を入れていたのが「財布」ではなく小さなポーチであったとしても、拾ったほうからしたら「お金が入ってたんだから、ポーチじゃなくて財布だと理解して当然」だと思うけど、彼女にとってそれはあくまで「ポーチ」なので、「財布」と言われたら分からないのです。


ある時から彼女は私のアドバイスをスマホにメモるようになりました。そこには「ビュッフェでは料理を山盛りにしない。たくさん食べたいなら、一皿ずつ食べ終えてから次の料理を取りに行く」とか

「友達なら一緒の時間を楽しむことが大事。興味のなかったことでも一緒にすごすことで共通の思い出ができ、関係が深まる」

「お得だと言われてキャンセルできない条件で予約をすると、後から変更する自由度を手放してしまうことになる」

などと書いてあります。

正直いって、大人が大人にするアドバイスではありません。でも、こういうことをひとつずつ、言葉にして伝えていかないと、彼女との良好な関係は維持できません。


彼女にはすばらしいところがたくさんあります。

他人のために苦労することを厭いません。どちらかがやらねばならない面倒な作業を喜んでやってくれます。

ものすごく素直で、アドバイスしたことを(自分が納得できれば)真摯に守ろうとします。

明るくてポジティブでなにひとつ根に持ちません。私も彼女といることで、いろんなことを学べます。

組織で働くのは向かず、すぐに辞めてしまったようですが、その後は自立して(私などよりよほど)稼いでいます。


こんなに空気が読めないのに、なぜそんなに稼げるのか。

彼女に言わせると「ややこしいコトの多い仕事なのでまともな人ならウツになるかも。幸か不幸か私には嫌みや皮肉を理解する能力がないから、何を言われてもストレスにならない。

それに、断りたいことは相手の気持ちも考えずスグ断れるので、儲からない仕事や非合理な案件には巻き込まれない」とのこと。

たしかにね。

彼女のやってる仕事。私には絶対ムリです。

だからね。「自分は空気が読めないから、食べていけないかも」とか思う必要はありません。

弱みと強みは表裏一体。私のように人の気持ちや物事の裏の裏まで読めてしまうと、かえってできない仕事も増えてしまったりするんです。


★★★

このように、彼女といるとあまりに(アドバイスという名の)小言ばかりを(自分が)言っているような気もして、時には気が滅入ります。

彼女は「ちきりんのアドバイスはいつもとても役立つ」と喜びますが、私のほうは「親でも教育係でもないのに、なんでここまで言う必要が?」とも思います。


でも私はそのうち彼女が(私が言葉にだして言わなくても)私の気持ちをわかってくれるようになると(今はまだ)期待しているし、彼女も、そうなりたいと思っているようです。

彼女はニコニコしながら言います。「今回、詳しく教えてもらえたからよく理解できた。次からは大丈夫!」と。

あまり期待してはいませんが、それでも私はこれからも彼女とご飯を食べにいったり、遊びに行ったりするでしょう。

呆れることも多いし、小言ばかりになる自分にも腹が立つけど、その一方、裏表がなく、素直で天真爛漫な彼女の振る舞いに癒やされたり、見習いたいと思えることも多いから。

★★★

そして最後に「なぜこの話をブログに書いたのか」を記しておきましょう。

それは「この話、きっと誰かの役にたつ」と思えたからです。

友達のことが理解できない誰かの
友達のことがとても身勝手に思えてしまう誰かの
友達のモノの考え方があまりに自分と違い、これじゃあとても理解しあえないと諦めてしまいそうになっている誰かの

役にたつんじゃないかと思えたので、あえて書いてみました。



そんじゃーね。

追記)念のため、彼女は「生きづらい人」などではありません。バリバリ稼いで大いに遊んでおり、悩みレス、ノーストレスで人生を謳歌しています。むしろ何でも(不必要なほど深く)考え込む私のほうがよほど生きづらいかも。


半年前、「最近のフィンテックすごいね」と話したら「それ、フィンランドの会社?」と聞かれ吹き出しました。基本、まったく社会に関心がないので、将来不安とかもありません。マジで羨ましい性格です。

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