いい人生の探し方 第四話

このエントリは連載モノです。

いい人生の探し方 リアルストーリー 第一話
いい人生の探し方 リアルストーリー 第二話
いい人生の探し方 リアルストーリー 第三話

今回からは Mさんへのインタビューを通して、私が学んだことをまとめていきます。

他者に弱みを見せられるという強さ

Mさんが最悪の状態から立ち直ることができたのは、「知り合いや友達に弱みを見せることができた」からでしょう。

試験に落ち、無職で職歴無しのまま 30代に突入。しかも子供を連れて離婚。

つい最近まで最難関試験に挑む大学院生だったのに、突然そんな状態に陥ってしまったら、昔の友達から連絡があっても無視して引きこもり、

「あたしのコトなんて放っておいて!!!」
「オレに話しかけるな!」 みたいになってしまいそう。


そういう態度をとっていると、みんなそのうち 「そっとしておいてあげたほうがいいのかな?」 と思い始め、意地を張ってるうちに連絡線が切れてしまったりもする。

そしてそのまま長期にわたり、社会的な引きこもり生活に・・・

弁護士や博士号など、世の中から尊敬される難しい資格を目指していた人ほど、プライドが邪魔して弱みが見せられないことも多い。


でも Mさんは、「すべてから逃げ出したいほど惨めな自分」を、昔からの、なんの苦労もしていなかった頃の友達の前にさらすことができました。

友達からかけられる声や、差し伸べられる手を、無視したり振り払ったりしなかった。

これが、彼女が立ち直ることができた理由でしょう。

彼女には「弱い自分を見せる」という強さがあったんです。


★★★


親や先生はよく子供に「他者(ヒト)に迷惑をかけてはいけない」と言います。

「ヒトに迷惑さえかけなければ何をしてもいい」という言い方も、「人に迷惑だけは、かけてはいけない」と聞こえます。

まじめな人ほどこういう言葉を真に受け、困った状況に陥っても我慢を続けたり、「ヒトに迷惑を掛けてしまうダメな自分」を許せず、気に病んで心を壊したり。

なかには、(母子家庭や障害のある家族を抱えて餓死に近い死に方をするなど)誰にも迷惑をかけずに死んでいこうとする人まで現れる。


「他者(ヒト)に迷惑を掛けてはいけない」というのもまた、多くの人が脱却しなければならない学校的価値観のひとつなんじゃないでしょうか?

学校的価値観に関してはこちら↓

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最近、「自分が辞めるとバイト先が回らないから」「バイトの家庭教師とはいえ、自分が辞めると教え子の子供達が困るから」といった理由で、ブラック環境にあるバイトを止められない人がいるらしい。

そういう人達もきっと小さい頃から「他者(ひと)に迷惑をかけてはいけない」と教えられているのでしょう。

みんな「良い子」すぎるし、「しつけが行き届きすぎ」なのです。


ホントはそんなコトより、

・人間はひとりでは生きていけない。だから「助けてあげること」と「助けてもらうこと」を覚えないとダメだよ、とか


・大事なのはヒトにいっさいの迷惑をかけないことではなく、少々の迷惑をかけられても寛容に受け止めること。そうすれば、みんなもっとラクに生きられる、とか


・人に迷惑をかけてでも、とにかく生き残ることが大事な時もある、とか


・「ヒトに迷惑をかけちゃいけない」と思う人の善意は、時に利用される。だから「一定以上、理不尽なことには我慢すべきではないんだよ」

みたいな、生きていくために必要となるリアルな知恵を教えたほうがマシな気がする。

これも上記の対談であたしが言ってる「学校にマジメに通ってた人ほど、社会でつらい思いをしてる」というのの一例ですよね。


それともうひとつ。Mさんの言葉で印象に残ったのが、

「忘れる」という大事な機能


「人間は忘れるコトができるから強いと思いました。

あんなに好きだった人と離婚することになったし、ご飯が喉を通らないくらいショックだったことでも、数年たてば平気な顔で振り返ることができる。

忘れられるから幸せになれるんだと思った」って言葉。


ホントそうだよね。

心をもつ人工知能を開発するというのなら、この「忘れる」という機能を人工知能にも備えるべき。

「忘れることのできない頭脳」なんて、まともに生きていけるとは思えないから。



そんじゃーね


第五話へ


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