JAL年金の変更決議が示すこと

今日の日経朝刊の一面トップ記事は、JALの企業年金制度の改正案(減額案)が賛成多数に必要な3分の2を集めた、という話だった。

やっとこさ賛意を得たのは、「既に退職しているOBが今後貰う年金は3割減、まだJALで働いている現役社員が将来貰う年金は5割以上の減になる」という案だ。

現役社員はまだこれから稼げる立場とはいえ、削減率はOBより2割も多い。既に“高給”正社員として定年まで勤め上げ、一部退職金も受け取り済みのOBに比べ、現役社員には今後、リストラ、賞与減、退職金減が待っている。持ち株会の株式は紙切れだし、年金額の半減は厳しいだろう。


にもかかわらず、現役社員の方は、今月4日には早々と減額案賛成数が3分の2を超えていた。そして先週末に減額賛成数は9割を超えた。活発な組合員もいるJALとしては驚くほどの団結力といえる。

理由は明確だ。現役社員にとっては、将来の年金なんかより「今、自分の働いている会社が潰れるか潰れないか」の方が重要だ。年金減額に賛成することによって倒産が回避できるなら、その方が余程マシと彼らは考える。だって厳密に言えば、法的整理では雇用契約だって破棄されかねない。そうなったら彼らは年金どころか雇用を失いかねない。


ところがOB側の意思は対照的だった。昨日まで減額議決に必要な3分の2の賛成(票数で5957人)は集まっていなかった。先週土曜日の9日に、賛成は約4000人と変更成立までまだ1900人もの票が必要、という状態だったのだ。

ところが、この連休中に事態は急展開した。政府と主要銀行(株主でもある)が法的整理をほぼ決断と報じられたからだ。もしも減額合意が成立しないままに法的整理となれば、おそらく減額幅はOBも含め6割以上になる。そのため、ここに来てOBの人達はいきなり態度を変えた。「それよりは自主減額の方がまだましだ」と思ったのだ。

で、連休後半の二日間で1900人が動き、週明けの12日午後に賛成数は5991人に急増。削減に必要な5957人を34人上回った。ただ、それでもまだ現役社員側の賛成率とは、かけ離れた賛成率だ。



・・・このふたつのグループの“投票行動の違い”が意味するところは、いったい何か?


結局のところJALのOBにとっては、JALが潰れるかどうかなんてどうでもいいってことだ。彼等にとって大事なのは、JALではなく自分達の年金だから。

それはあくまでJALの存続を第一に希望する現役社員とは全く違う考え方だ。今回はっきりしたのは、まさにこの“違い”だ。


そしてこれにより、もしも日本の財政がJAL同様に破綻しそうになった時、「既に年金を貰う側になっている人」がどういう判断をし、選挙でどういう投票行動をするかも、よーくわかった。

彼等はJALのOBと同じように考えるのだろう。「日本国なんてどうなってもいい。俺の年金さえ払ってもらえれば」と。


現役世代の人は、「将来の年金じゃなくて、今、国が破綻しないことの方が大事だろ!? 年金減額や財政緊縮に賛成してよ!」と叫ぶのだが、年金をもらっているOB達は聞く耳を持たない。「若いモンで借りられるだけ借りて、年金は払ってくれよ」と言い続けるのだ。

そして選挙では「どんなに将来の財政負担が増えても、高齢者の年金だけは減額しません!」という公約を掲げる政党に票を投じる。

人間というのは、何はともあれ「自分が優先」であり、国のためとか、自分が今まで40年も働いてきて、育てて貰って、お世話になった会社(JAL)や国のためとか、かわいい後輩や孫のためとか、そーゆーのでは結局ナイんだな、ということ。“将来が大事な人”と、“今が(今さえ)よければいい人”ってこれだけ投票行動が違うもんなんだなと。それが今回クリアに見えたかな〜と思えた。


今回のJAL破綻は、日本の財政破綻の日の縮図かもしれない。テレビや新聞のニュースを興味深く追いながら、この巨大な日の丸飛行機が墜ちていく姿を傍観している私やあなたの視線は、将来の“その日”、この巨大な日の丸国家が墜ちていく姿を緊張しながら見守る、世界の、そしてアジアの人達の視線ときっと同じだ。




重要)おちゃらけですので、真に受けないようにしてください。