売って稼ぎたいだけ? 文化で?

4月13日夕方(現地時間)、ニューヨーク大学のゲーム大学院で、梅原大吾さんと、Seth Killianさんの対談が行われます。Seth Killianさんは元格闘ゲーマーで、カプコンで働いてたり、EVO(アメリカの有名ゲーム大会)の主催側でもあった人です。


NYにいたら絶対見に行きたかったなー。そろそろブログネタが枯渇し始めてて、新たなネタを仕入れたいという切実な理由も・・・

二人とも格闘ゲームのプロフェッショナルだけど、話の内容はそれ以外のことにも触れるみたい。まっ、あたしの期待としては、ぜひ Killian氏にはビール片手に対談してほしいもんだよ。(意味わからない方はこちらのエントリを

梅原さんに聞いたところ、「学校から講演・対談に呼ばれるのは今回のNYUが初めて」とのこと。つまり日本の大学・学校からは、まだ講演や対談に呼ばれたことがないらしい。


いかにもの話よね。京セラが創業期、日本の大企業に商品を持ちまわったのにどこも買ってくれなかった。

ところがアメリカに持っていったら「これはスゴイ!」ということで、あちこちの企業が買ってくれた。日本企業はそれをみて、「アメリカで売れてるなら」と、京セラとの取引を始めた。

古典的な話だけど、構造は全く変わってない。梅原大吾を最初に講演に呼ぶ大学は、クールジャパン推進会議だのポップカルチャー分科会だのを税金投入して開催してる日本じゃなく、アメリカの大学だってこと。

NYUは世界でも屈指の名門大学で、ゲーム大学院は2008年に作られてる。ウエブサイトによると、ゲームを重要な文化創造活動と捉え、ゲームに関する研究はもちろん、ゲームデザインやゲーム制作に関する授業や公開講座を提供し、今回もゲーム大会を主催してる。 →  NYUゲーム大学院のサイト


で、クールジャパン推進会議って何やってんの?


★★★


そういえば梅原さんて格闘ゲームでは日本人初のプロゲーマーらしいけど、スポンサーしてる企業もマッドキャッツっていうゲームの周辺機器メーカーなんです。日本で市場シェアが低かったマッドキャッツは、彼をスポンサーすることで、日本での売り上げを拡大した。


これもやや不思議。なんで、彼のスポンサーがアメリカの会社なんだろう?


日本には、ゲームの会社ないの? 

テレビゲームで大成功した会社、ゲーム本体やソフトで大儲けした会社、アーケード運営してる会社とか。

実は同じ種類の周辺機器を作ってる日本の会社もあるんです。でも彼らは、梅原さんがゲームシーンに登場してから15年間、何もアクションせず、結局マッドキャッツに彼を取られてる。(結果として市場シェアや価格決定権も失ってる)


てか、少々分野が違っても、ゲーム業界のイメージがよくなったら、めちゃくちゃ得する会社で、かつ、めちゃくちゃ儲かってるゲーム会社もあるじゃん? ゲームの中で分野が少々違うとか、どーでもよくない?

ゲーム業界全体の地位が向上したら、すべてのゲーム関連企業には大きなメリットがあるでしょうに。


彼がプロになったのは29歳の時で、本人も「今頃かよ。自分は15歳から世界一だったのに。今頃プロになるのかと思った」って言ってました。ホントそうだよね。

それでもアメリカの会社が手を上げなければ、梅原さんでさえ別の仕事に就かないといけなかったかもしれない。もしかしたらまた、介護の仕事に戻ったかもしれない。彼みたいな人を「ゲームでは食べていけない」状態にするって、もったいなくない?


その一方で、霞が関に大御所が集まって、「日本のポップカルチャーをどう世界に広めるか」、話し合う。


なんの冗談?


★★★

この本の中でも彼は、「日本のゲーセンで世界一になった」と言ってるんです。「日本のゲーセンはすごいレベルが高い。あそこですべて学んだ」って。

それなのに、「日本が世界に誇れる文化を生んだ場所」として、「ゲーセン」を理解している人がどれくらいいる?

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

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もし日本企業しかなかったら、今も彼はプロじゃないし、大学にも呼ばれてない。アメリカ企業にスポンサーされ、アメリカの一流大学に招聘されて話すジャパン・ポップカルチャーのシンボリックアイコン、DAIGO, the BEAST, UMEHARA.


★★★

ニューヨーク大学ゲーム大学院の使命は、「ニューヨークを、ゲームという重要分野におけるイノベーションの中心として確立すること」だと書いてある。(It is part of our mission to establish New York City as a center of innovation in this important field.)


日本のクールジャパン推進会議&ポップカルチャー分科会の使命は何なの?
日本のアニメや漫画やゲームを輸出して稼ぐこと?
カルチャー輸出で外貨を稼ぐ韓国を真似したいの?


テレビが売れなくなったから、他に輸出できるものを探したい。日本にはアニメや漫画やゲームなどのすばらしいコンテンツがあるし、芸術的においしいスイーツや料理がある。だからそれをもっと海外に輸出しようよと。この発想はよくわかる。

でもね。日本には、それらのカルチャーに対する根本的な尊敬の念が欠けている。それが重要な文化のひとつであり、研究に値する知的分野であり、っていう社会意識がない。

だから Legend と呼ばれるほどのゲームの達人にも、それを生んだゲーセンという場所にも、一流という概念をかぶせられない。これは漫画やアニメなど、他の分野に関しても全く同じ。


そして、それがために「人気があるから、もっと売って外貨を稼ごう」という発想にはなっても、知的におもしろい分野だから研究しよう、そういう道に進む人をもっと増やして、世界のエクセレンスを集めよう、という発想にならない。

クールジャパン推進会議が考えようとしてるのは「今あるものをどう売るか」だけど、NYUが目指してるのは、「ゲームにおける将来のイノベーションを、ニューヨーク発で起こしたい!」ってことなんだよ。


本当に韓国だけが目指すべきモデルなの?


日本って文化を創り出す国なんじゃないの?
テレビやアニメを売って外貨を稼ぐ国なの?


ほんと、

自分のアタマで考えよう

自分のアタマで考えよう

 →「思考と分析、その微妙かつ決定的な違い


そんじゃーね



追記: http://wired.jp/2015/06/08/video-game-hall-of-fame/