キンドル・ダイレクト・パブリッシング体験記録

キンドル本の電子出版( Kindle Direct Publishing, KDP = いわゆる“セルフパブリッシング”) を体験し、ひとりで電子書籍を作ってみてどうだったか。

「Chikirinの日記」の育て方

「Chikirinの日記」の育て方

  • 作者:ちきりん
  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Kindle版


今日はそのプロセスについて書いておきます。“だいたい時系列”に並べると、KDP に必要な手順は下記の通りとなります。

追記:下記は2013年当時の体験記であり、現在のKDPの出版方法とは異なる部分も多々あります。ご注意ください


1.アマゾン KDP に登録
・銀行口座などを登録するだけなので、ごく簡単です。
・なので、2や3を先に済ませてから、登録すればいいと思います。


2.アメリカの源泉徴収を免除されるための申請
・めんどくさいです。
・KDP で本が売れるとアメリカで印税収入が発生するため、この手続きを行わないと、アマゾンが 30%の源泉徴収を行いアメリカの税当局に収めます。(そして、取り戻せません)
・これを避けるためには、アメリカの税当局に申請して固有ナンバーを付与してもらい、それをアマゾンに提出する必要があります。


・書類の記載方法はアマゾンのサイトにもあるし、ググるとサンプルも見つかるので、なんとかなります。(みんな言ってることが少しずつ違ってて混乱しますが)

・めんどくさいのはその後です。日本居住者の場合、アメリカ税当局には国際ファックスを送る必要があり、すると数週間後に書類が送られてくるので、今度はそこに載ってる情報をもとに別の書類を作ってアマゾンにエアメールする必要があります。

・ネット上でデジタル出版しようとしてるのに、ファックスとエアメールって・・・

2016/09 追記)現在、amazon.co.jp で販売された本のロイヤリティに関しては、アメリカでの源泉徴収はなされないようです。なので amazon.com で売れた本のロイヤリティが気になる人以外は、2の手続き自体が不要です。なお、これは私の個人的な理解にすぎません。正確を期したい方はアマゾンにお問い合わせください。


3.本を書く
今までに書きためたコンテンツのある人はいいけど、そうでない人は、まずはこれを終わらせてから後のことを考えましょう。

コンテンツ製作に 3ヶ月かかるとしたら、その間に、上記 1や 2の手続きが変更されることも十分に考えられますしね。


既に「出版したいコンテンツが手元にある」という方も、本を作るとなるとブログとは異なり、ただ文章を書けばいいというわけではありません。

構成を考えて目次を作り、タイトル(書名)を決め、図や写真を入れたい場合は、画像サイズなどの調整も必要になります。

電子書籍なので文量は自由ですが、ある程度の量は書かないと、いくら安い価格設定をしても売れないでしょう(だいたいの文量はアマゾンの販売サイトでも開示されます)。


また、ブログやツイッターなど、ネット上では著作権の扱いが曖昧になってる部分もありますが、有料で売るための出版物に使う素材(文章にしろ画像にしろ)に関しては、著作権の所在に十分に注意しましょう。

紙の本ほど神経質になる必要はなくても、言葉の表記方法の統一や、資料出典、事実確認なども、一通り行っておくべきでしょう。


4.文章ファイルを mobi っていう形式にする
・これも面倒です。
・mobi はアマゾン様ご指定のファイル型式です。
・私は、MS Word → ePub → mobi と変換しました。
・MS Word → mobi という方法を選ばなかったのは、ネット上に「トラブった」「巧くいかなかった」という体験談がたくさんあったからです。
・ePub editorの“sigil”を使う方も多いようなのですが、初めて使うアプリが多くなりすぎると使い方を覚えるだけでも面倒なので、今回は上記の方法を選びました。

・他にもいろんな方法があるので、ググってみてください。
・ただし、指南サイトや体験ブログは必ずそれが書かれた日付を確認しましょう。まだ過渡期なので、細かい点はどんどん変更されています。半年前にベストだった方法が、今、ベストだとは限りません。
・これはキンドル出版の指南本も同様で、一年も前に書かれたノウハウ本を鵜呑みにするのは危ないです。


・このファイル変換という作業なんですが、原稿を仕上げ、最後に一回だけ変換するならたいした問題じゃありません。でも実際には、文章を仕上げる段階で何度も校正をかける必要が出てきます。

たとえば誤字を一文字修正するだけでも、mobi ファイルや ePub ファイルを直接に書き直せるわけではないので、最初のファイルに戻って修正し、再度ファイル変換をする、というプロセスを繰り返すことになります。短気な私はこのプロセスで何度も「きー!」ってなりました。


また、今回の私の本は、
・横書き
・写真や画像なし
・リンクもなし
・目次に階層がない
という、超シンプル構成でしたが、縦書きにしたいとか写真多用とかルビを振りたいとか言い出すと、何かとトラブルも増えるので、相当に面倒だと思います。


なお、私が MS Word → ePub に使ったのは、ライブドアブログの有料オプションです。1ヶ月350円だっけかな。ePub → mobi にはアマゾンの previewer をダウンロードして使いました。

ライブドアブログの ePub 書き出し機能は簡単で使いやすいけど、目次の階層化の方法がわからず、サポートに問い合わせてみたところ、

ご連絡をいただきました書き出しにつきましては、現在対応をしておりませんので、ご了承いただきますよう、お願いいたします。


ご連絡をいただきました内容につきましては、社内にて検討させていただき、より一層のサービス向上に努めさせていただきます。

とのことでした。ぜひ“社内で検討”してほしいです。


5.表紙を作る
こんなんでよければパワポで作ればいいです。ツールというより絵心(デザイン力)が問題です。


予算があるならクラウドソーシングに発注するとか、ネット上から素材を購入して使うのもありでしょう。なお、“フリー素材”と言われているものの多くは用途が“非営利”活動限定なので、商業出版(ですよ、コレは一応)には使えないと思われます。

KDP のヘルプページには表紙画像として望ましい縦横比やピクセル数が書いてあるんですけど、「ピクセルって何?」というレベルの私には、大きさを整えるのも大変でした。


6.推敲のための実機テスト

出版する前には、プレビューアーを使って「ほんとにちゃんと表示される?」というのをチェックします。アマゾンのサイトでも(PC上で)プレビューできますが、改行や空白の開け方なども含め、やっぱり実機でチェックしたいという人も多いでしょう。

私はキンドルFire とキンドル・ペーパーホワイトを持っているので、そちらにファイルを送って実機で確認。読みながら推敲し、修正個所は最初のファイルに戻って直し、それを再度ファイル変換してキンドル端末に送って・・・というプロセスを 5回くらい繰り返しました。

端末を持っていない iPhoneと iPad に関しては、発売後(みなさんへの告知前)に、知人に依頼してチェックしてもらいました。

このプロセスもめちゃ面倒ですねー。紙の本だと著者は赤ペン入れるだけで、あとは出版社のスタッフが全部やってくれます。一人で全部やるなんてホントばかげてます。


7.出版手続き=本のアップロードなど
販売サイトに載せる紹介文を書き、価格を決め・・その他、こまごました事項の記入を求められますが、難しいことは何もないです。表紙と文章ファイルをアップロードすれば完了です。


8.審査に合格!?
出版までに内容の適格性がチェックされます。48時間以内に審査が終わるということですが、私の場合は 20時間程度でした。

ブログの内容を書籍化する場合は、「そのブログが本当に自分のブログか?」などをチェックされるようです。パクリ文章の出版を避けるためですね。

ネットでダウンロードした韓流スターの写真を勝手に入れるなんてこともモチロンできません。エロっちい画像や犯罪誘発系などもチェックされると思います。規約をきちんと読みましょう。

無事に審査が終わるといよいよ販売が始まります。ちょっと感激!


9.売る
売ることに関しては苦労のない私が言うのはナンですけど、普通はここが一番大変なんじゃないかと思います。「とりあえず出せればいい」なら気にする必要もありませんけど。


10.直す
誤字率ゼロという方もあるのでしょうが・・・私の場合はブログ同様、最初に出した後、読者の方からの指摘を受け、何回かファイルを差し替えています。

・修正ファイルをアップロードしても、既に購入した方のファイルが修正されるわけではありません。
・修正ファイルをアップロードするたびに、審査期間が必要となります。私の場合、概ね24時間以内でした。
・誤字脱字を直す場合、ついつい中間ファイルであるePubファイルを直したくなりますが、そういうことをすると、「最終バージョンのファイル」がどれだかわからなくなり、混乱を起こします。
必ず自分で、「最初にアップロードしたバージョンはこれ、現在の最新ファイルはコレ」とバージョン管理できるようにしておきましょう。


以上がキンドルで本を出すときの手順(方法)です。


本を作るにはいろんな分野のスキルが必要で、ひとりでそれを全部持ってる人っていないと思います。出版社だって中で分業してるわけですから、著者がひとりで全部やるのは、画期的ともいえるけど、非効率ともいえます。

<自分の得意・不得意な分野に○をつけてみましょう!>

1)文章を書くのが、得意 or 不得意
2)構成を考えるのが、得意 or 不得意
3)校正して文書を整えるのが、得意 or 不得意
4)表紙のデザインをするのが、得意 or 不得意
5)ファイル変換などの IT的な分野が、得意 or 不得意
6)売るというマーケティング的な分野が、得意 or 不得意
7)英文での税務書類作成、提出などの事務部分が、得意 or 不得意


今日のエントリに書いたのは、あくまで「私にとって何がどの程度、面倒だったか」ですが、人によって得意な部分は異なるので、苦労する部分もまた、人によって相当の違いがあるはずです。

とはいえ、何度も「キー!」ってなりはしますが、なんとかなるレベルでもありました。今回は一種の実験だったのですべて自力でやりましたが、次回からは、

1)表紙は自分では作らない。公募します。
2)もしかしたら校正の人を雇うかも。誤字脱字のチェックをひとりでやるのは超大変


ePub や mobi へのファイル変換については、次回からも外注しないでしょう。最後の最後まで文章を自分で直したいので、ここは面倒でも自分でやります。

ただ、次回は写真やリンクをいれたり、目次を階層化したりしたいので、それまでに何かもっといい方法が現れていることを祈りたいです。(理想的にはライブドアブログさんに頑張ってほしいです!)


以上、ノウハウ集とまでは言えませんが、KDP に関心のある方に少しでも役立つといいなと思って書いておきました。

紙の本の自費出版だと、数百万円も払って専門出版社に依頼する人もいるようですが、電子書籍のセルフ・パブリッシングならコストは時間と手間ヒマだけです。みなさんもトライしてみてはいかがでしょう?



そんじゃーね!


iPhone, iPad, Android端末で読みたい方は、まず、それぞれのストアからキンドルアプリをダウンロードしてください。


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