住宅政策に関する議論の予習

昨年末から月に一度お届けしている木下斉さんとのワントピック対談。

今月は明日、夜の 20時から「日本の住宅問題」について話をします。

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※動画は既に削除済みです


対談にあたり、木下さんから「事前にこの本を読んでおけばよいですよー」と推薦されたのが下記。

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読んでみたらものすごく中身の濃い本だったので、明日の対談に備え、内容サマリーを作ってみました。

以下、自分用のメモなので箇条書きです。

明日の対談をお聴きになる際は、下記のサマリーだけでもみておいていただけると理解がラクかもしれません。


1.都心以外では「広くて高品質な賃貸物件」が存在しないため、質の高い住宅に住みたければ「買うしかない」

・市場が効率的であれば「賃貸か購入か」という経済的な比較は無意味
・なぜなら、市場が効率的であれば損得差は常に価格で調整されてしまうから。

・しかし実際には、不動産は取引コストが高すぎる市場。つまり、市場は効率的とはいえない=市場の失敗が起きている。

・このため公的部門が市場介入する必要があり、住宅市場は「需給」だけでなく「政治=政策」に大きな影響を受ける。

・日本では賃貸契約における借り手の保護が手厚すぎる。
=契約年数が過ぎても簡単には退去させられない。物価があがっても、継続して借りている人にたいしては家賃の値上げも困難。

=このため賃貸経営者は家賃の高い賃貸物件を保有・提供しようとしない。(トラブル時の損失が大きくなるため)

・そもそも賃貸物件のオーナーの大半は個人や個人設立の法人であり、大きなリスクはとれない。
=このため賃貸物件は、リスクの少ない単身者向けワンルームばかりとなってしまう。

・結果、賃貸市場には「狭くアニメティも貧弱な家」しか存在しないため、住宅に一定以上の広さや質を求める層は、自分で家を買わざるを得ない。

★★★

・例外的に、「広く、質の高い賃貸物件」が存在するのは東京の都心部

・このエリアには外資系企業に勤務する外国人や、芸能人、高所得者など、広い家を求め、かつ「家賃を払わず居座るリスク」の低い借り手が多く存在する。

・このため、良質で広い物件を貸し出すオーナーも現れ、東京都心部では、「賃貸で、質の高い、広い部屋に住む」という選択肢が存在している。


2.住宅を「使い捨て」にする大量生産・大量廃棄モデルがさまざまな問題を生んでいる

・日本の住宅の寿命は30年から40年、欧米の家は80年から100年
・居住用住宅の売買に占める中古物件の割合は、日本は10%ほどだが、欧米では半分以上

・つまり日本は、古くなった家を空き家として放置しながら、「一代しか住めない使い捨ての家」をどんどん建てる「使い捨て」住宅文化。

・焼け野原になった終戦直後は圧倒的な住宅不足だったが、1970年代には既に家の数のほうが世帯数より多くなっていた。なのに、それ以降もどんどん新築の家が建てられている。

・経済成長のためには(家であれ他の商品であれ)次々と新しいものを買い、古くなったら使い捨てるほうがいい。このため日本の住宅政策は、「新築の家を建てることの支援」に偏っていた。

・しかし「使い捨て(大量生産・大量消費)」は社会全体としてはコストが高い。
なぜなら、
1) 割高な新築物件を無理して買わざるを得ず、経済的負担が大きい
2) 空き家問題が深刻になる

3) 廃棄物が大量に発生する
4) 立て替えではなく「別の場所に新たに建てる」ため、住宅地が郊外に広がり、行政のインフラ維持コストがかさみ、かつ、多くの人が「車が無いと暮らせない生活」を余儀なくされる。

・購入者は、使い捨てとなってしまうような商品を、一生かかるほど長いローンを組んで買わざるをえず、住宅ローンのために、生活に余裕がなくなる。

・無理をして家を買うため、持ち家に住んでいるのに老後に経済的に困窮する人も少なくない。

★★★

・ここでも例外は都心部。
・東京を中心とする首都圏では、中古マンションをリフォームして使い続けるトレンドがでてきた。既に流通量で新築を上回る。

・が、都心部でも一戸建ては今でも「使い捨て」=一代住むとゴミになる家

3.低所得者向け住宅政策がお粗末すぎる

・政府による住宅補助には次の3つの方法がある
1) 公営や公団住宅の供給
2) 住宅ローンに関する金融補助
3) 賃貸物件に住む人への家賃補助

・これまで日本政府は「買う」ことにのみ手厚い補助をし、「借りるより買う」方向に国民を誘導してきた。

・一方、欧州の先進国は、賃貸物件への家賃補助が日本より多い。ドイツ、フランス、イギリスなどは15%から20%の人が賃貸の家賃補助を受けている。

・日本は大企業勤務の単身者や公務員など、恵まれた雇用状態にある人だけ(企業による)家賃補助や住宅提供(社宅)を受けている。(格差拡大の一因)

★★★

・日本の住宅の 5%は公営住宅だが、「国による個人の住宅の直接供給」を増やすと不公平感が生まれる。

・公営住宅の建設は1970年代がピークで、2000年以降、新築は激減し、ほとんどが立て替え。

・当初の公営住宅は都心など便利な場所に建てられており、価格も安くはなく、かつ、大人気で倍率が高かった。また、そこに住むのは中間層だった。

・しかし、経済成長とともに都心での建設が不可能となり立地が郊外へと移動。
・これに伴い公営住宅は、中間層ではなく「貧困層向け」へと変遷していく。

・貧困層が集まるという理由で、自治体は公営住宅を増やすことを嫌がるようになる。

・公営住宅が増えないなか、家賃補助もなく、「家を買うこと」だけを推進する日本では、低所得者は無理してローンを組むか、低品質な賃貸物件に住み続けるしか選択肢がない。

4.地方における住宅地の「水平拡大」という無秩序

・日本は、都市空間の拡がりをコントロールするという意識が他の先進国に比べて希薄。都市空間を無秩序に拡大し、社会コストを増大させている。

・都市空間のコントロールに使われる規制
1)ゾーニング(用途制限、開発制限)
2)建ぺい率や容積率の設定

・1968年の新都市計画法において次のようなゾーニングが行われた。
1)開発してよいのは市街化区域のみ
2)市街化調整区域は、開発不可

・しかし、開発不可の市街化調整区域は地価が落ちるために、ごく限定的に設定され、開発可能な市街化区域が広めに設定された。

・このため地方では、人口が減り続ける中でも、郊外に新興住宅地が拡がり続けている=水平方向への無秩序な住宅エリアの拡大。

・人口が減るなかで居住エリアが拡大するため、自治体のインフラ維持コストが増大し、十分なメンテナンスができなくなっている(水道管の破裂など)。

・また、「車がないと生活できない郊外」への住宅地の拡大は、住民に一生涯、自動車維持コストを払わせることとなり、経済的にも生活を圧迫している。

・人口減少が続く地域における住宅開発は抑制するのがあたりまえ。しかし、人口減少に焦る自治体にはそれができない。

・1970年頃から市街地(市の中心部)の再開発に予算が付くようになったが、その頃から経済成長率が下がり、再開発は進まなくなった。

・地方における集住を促すコンパクトシティも上手くいっていない。

1) 青森市と富山市が有名だが、いずれも郊外の人口は大きくは減っていない。
2) 青森市の再開発ビルは既に破綻。便利な駅前に生活に必要な施設を作っても、実際に移住する人はごく僅か。

3) 地方で郊外の持ち家に住んでいる人(主に高齢者)を引越させるのは、とてつもなく難しい。やるなら莫大なインセンティブが必要で、地方自治体にはそれを払える財力はない。

・以上、地方の問題まとめ
1)周辺地域への無秩序な住宅地の拡大
2)中心部再開発、コンパクトシティ政策の失敗

5.都市部における住宅地の「垂直拡大」という無秩序

・狭い土地にたくさんの人が住めるよう、人口集積地では「上方向」「縦方向」への拡大(住居の高層化)が起こった。

・集合住宅による都市空間の拡大の歴史
1)軍艦島(長崎県の端島)が最初
2)東京大震災(1923年)のあとの同潤会アパートなど

・1955年に日本住宅公団が集合住宅における「DKスタイル」住居を提供。都営住宅も都心に建てられ、不燃化を進めるなど質も高く、人気があって倍率も高い。家賃も安いわけではなかった。

・1960年代には住宅公団が団地を建て、ニュータウンを形成。多くの人を集住させることでインフラ投資の生産性が高まった。

・その後、1964年、東京オリンピックあたりから民間マンションが増え、かつ、1970年頃マンション購入にも住宅金融公庫の融資がつくようになって、集合住宅を「買う」という選択肢が現れた。

(それまでは、集合住宅は賃貸で住むものであり、買うのは一戸建てだった)

・このマンションブームは、東京から次第に地方都市にも拡大。

・人が集まって住むと商業も集積するため、その地はどんどん便利になる。このため不動産の価格も上昇。結果として広い家を買えず、「日本の家はうさぎ小屋」と揶揄されるほどの狭さが問題となった。

★★★

・マンションが「終の棲家」になりつつある。

・1999年には分譲マンションに住む 60歳以上の世帯主は 25%に過ぎなかったが、2013年には 50%以上。

・1980年には、マンションに住む人の 57%が将来の住み替えを考えており、マンションを終の棲家と考えている人は 22%だけだった。

・しかし 2013年には、将来の住み替えを考える人が 18%まで減り、半分以上の 52%が分譲マンションでの永住を考えている。

・高度成長時代には、住宅双六の「上がり」は庭付き一戸建てだったが、都市部ではその意識が変わり「分譲マンション」が住宅すごろくの「上がり」となった。

★★★

・地方では郊外に住宅地が広がっている(水平拡大)のにたいして、都市部では、垂直への拡がり=タワーマンション建設の秩序無き許可が行われた。

・今後のマンション問題は「立て替え」問題。

・マンションの建て替えはほとんど不可能。老朽化マンションの取引はババ抜きゲームになる。

・2011年 東京のマンションは 5万棟、185万戸。うち築 40年経過しているものが 2600棟、10万戸。

・マンションが 1970年代から増えたため、40年オーバー物件は 2010年から増え始め、今後もどんどん増加する。

・立て替えが極めて難しいタワーマンションなどは、建築時から、デベロッパーに建て替えプロジェクトの責任を負わせるべき。

6.災害時の住宅問題

・阪神淡路の大震災では、経済的に余裕がある人は一年ほどで住宅を自主再建した。

・一方、震災前に古くて安い賃貸物件に住んでいた低所得者層は、震災後に立て直され(きれいにはなったが)家賃が高くなった部屋を借りられない。

・このため、仮設住宅と災害公営住宅(民間住宅の借り上げと買い上げ方式を含む)に住み続ける人が増える。

★★★

・東北の大震災の際には、行政区域内全体が被害を受けた例も多く、「他の行政区でみなし仮設住宅を利用」することも多かった。

・防災集団移転も行われた。とはいえ、補助金は手厚いが時間がめちゃくちゃかかるため、時間価値の高い若い世帯は完成を待てず、人口流出が進んだ。

・災害が起きると建材価格も人件費も受給バランスが崩れて高騰するため、住宅の建築費が高くなる。

・このため急いで家を建て直したい人は、予算が足りなくなり、建てる家の質にこだわれない。結果として、災害が起きると質の悪い家が大量に建てられる。

★★★

・仮設住宅は壁もペラペラ、冬は寒く夏は暑い低品質住宅なのに、極めてコストが高い。

・15年以上前の神戸でも、仮設住宅の建設には一戸 300万円かかった。これに撤去費が乗るので、1戸あたりの値段はさらに高い。質も悪く、数年しか使わないのに高価格で、本当に無駄。

・神戸の震災の際、実はすぐ近くの大阪だけでも 15万戸の空き家があった。

・5万戸の仮設住宅を作るより、これらの空き家に入居してもらい、家賃を払ってあげる方式にしていたら、(仮設住宅の建築費の 300万円で)2年半の家賃がまかなえた(家賃 10万円の場合)。

災害時の住宅問題
1) 仮設住宅はコストが高すぎる。空き家を活用し、家賃補助をする方式に変えるべきでは?
2) 震災後は建材も人件費も高騰するため、質の悪い住宅が大量に建てられてしまう。
3) 古くて家賃の安い賃貸に住んでいた低所得者層は、立て替えられた「きれいだが家賃の高い新しい賃貸物件」には住めない。家賃補助が必要。


以上です、お楽しみにー!


 そんじゃーね

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