日本将棋連盟の“大局観”が楽しみ

コンピュータ将棋について延々とエントリを書いてる私ですが、将棋についてもコンピュータについてもほとんど知識がありません。

なので、もっぱら関心があるのは、ビジネスとして、もしくはマーケティング的な側面からの「人間 対 コンピュータ将棋」というイベントです。

前にも書いたように、今年はすでにA級棋士を含む 5人がソフトと対局し、1勝 3敗 1分けで負けています。

なので次は、「コンピュータソフトは、タイトルホルダーに勝てるのか!?」に注目が集まるのは、当然のことです。

そんな注目を集める来年の将棋電王戦を、どんな形で開催していくのか。それを決めるのが、第二回 将棋電王戦 終了後の記者会見 (youtube) の際、前面に並ばれた 3名(3つの組織)なんだとすると、 


日本将棋連盟
・コンピュータ将棋協会
ドワンゴ(将棋電王戦スポンサー)

が話し合って決めるのかなと思うのですが、その結論がどうなるのか、とても楽しみです。

しかもこの三者、それぞれに「先の先の先の先の手まで読んで(もちろん相手の出方もすべて検討したうえで)、大局観をもって判断する」のがめちゃめちゃ得意そうな組織ばかりでしょ。

そんな三者が話し合えば、凡人には想像もできないレベルの、超ハイパーな大局観がぶつかり合うことになりそうで、なんだかワクワクしちゃいます。


★★★


この中で特に注目なのが、日本将棋連盟です。なぜなら、他の二者に比べて日本将棋連盟(以下ときどき“連盟”と略)は、読みだの局面評価だのの前に、“ゴール設定”自体が難しそうだからです。

コンピュータ将棋協会やソフト開発者は、より強い棋士と対戦したい、そして勝ちたい、もっともっとコンピュータ将棋を強くしたい、将棋というゲームを解明したい、それを人工知能の開発に活かしたい・・・など、目標がクリアです。

ドワンゴも「プレミアム会員を 1000万人にするぞ!」という目標がわりとクリア・・(すみません、適当なこと書いてます。けど・・まあ目標はクリアそうです) 

でも日本将棋連盟が、将棋電王戦に参加することで“目指すべきゴール”は何なんでしょう?


来年はソフトに勝利して雪辱を果たし、その後も負けないこと? 

それとも、タイトルホルダーができるだけ先まで、コンピュータに負けないようにすること?  

んー、(ありえるとは思うけど)なんか違う気がしますよね。


できるだけ多額の対局料を確保すること? ・・・これも違うっぽい。

将棋電王戦が盛り上がり、新規の将棋ファンが増えること・・・これは、あるかもしれません。


でもね。コンピュータ将棋側のゴールが「トップ棋士に勝つこと!」なのに、連盟側の目標が「将棋ファンを増やすこと」では、勝負になりません。

しかも、将棋電王戦の盛り上がり(=将棋ファンを増やす効果)って、いつまで持続するの? 

今は「人間が負けるかも!?」という段階だからみんな熱狂するけど、常に人間側が負けるという状況になっても、電王戦を楽しめる?


電王戦が他のタイトル戦と同じように、特定の期限なく盛り上がりを期待できるイベントだったら、プロ棋士側も本気の投資が可能になります。

でも、どうせ数年しか盛り上がりが期待できないイベントだとしたら、タイトル挑戦者のようなトッププレーヤーにとって、電王戦に照準を合わせた研究をするのは、ものすごく負担が大きいでしょう。


なぜなら、大半のプロ棋士の方が「人間相手の将棋と、コンピュータ相手の将棋では、準備の方法がまったく異なる」と言い、

塚田九段も手記の中で「コンピュータ将棋への対策は、人間相手には全く役に立ちません」とまで言われているように、電王戦には特別な対策が必要になるからです。

米長氏の『われ敗れたり』の中には、当時、コンピュータとの対局条件について尋ねられた羽生三冠が、「もしも対局することになれば、一年間はタイトル戦に出ずに、コンピュータと対局するための準備をする」と回答したと書かれています。

それくらい、人間との将棋とコンピュータとの将棋は(現時点では)違うものなんです。


今回、A級棋士として電王戦に参加した三浦八段にとっても、過去一年で最も大事な目標は電王戦で勝つことではなく、

渡辺竜王や森内名人、羽生三冠に挑戦する権利を得、タイトルを狙うことだったのではないでしょうか。


もちろん来年以降に電王戦にでるトップ級棋士も、「電王戦で勝つために全力を尽くすべきか、それとも、まずはタイトルを狙いにいくべきであり(もしくは昇段を狙うべきであり)、できる範囲でコンピュータ将棋の対策をすべき」か、という選択を迫られます。

プロ棋士のその選択は、電王戦の結果にも少なからず影響するでしょうし、連盟にしても、「そもそもこのイベントを通して、連盟は何を得ようとしているのか」が明確にならないと、どういう形でこのイベントを続けていくべきなのか、考えにくいんじゃないかと思います。


★★★


ところで将来的に、それぞれの将棋ソフトが、竜王戦名人戦などタイトル戦の予選から、イチプレーヤーとして参加するような可能性はあるんでしょうか?

人間の棋士と同列に予選を戦い、勝ち抜いて挑戦者の座を射止めたら、タイトルホルダーと対局できるという既存のシステム、もちろんタイトル戦は 5番勝負とか 7番勝負・・・に人間もソフトも横並びで参加する。

「今年のA級にはコンピュータソフトが 3つが入りましたねー」みたいな感じで、順位戦から参加。

これだとまさに「将棋ソフトと人間、頂点にたつのはどちらか?」みたいになる気がするんですけど。


今年行われた第二回電王戦では
・コンピュータ同士の大会(世界コンピュータ将棋選手権とか)で勝ったソフトが、
・人間のプロ棋士と対戦する

という「別コースで上がってきた二者が、頂上決戦で初めて対局する」システムでしたが、余興ならそれでもいいけど、どっちが強いかを真剣に決めたいなら、普通のタイトル戦に各ソフトも参加すればいいじゃんとも思います。


おっと、でもそういうシステムだと、ドワンゴがスポンサーとして将棋界に入り込める余地が無くなっちゃっう? 

既存メディア(=タイトル戦のスポンサーの大半が新聞社)とは喧嘩しないポリシーの会社ですしね。

などと言い始めると話が長くなるので終わりにしますが、いずれにせよ「次の電王戦の設計がどうなるのか」のほうが、人間とコンピュータの勝ち負け自体より私には興味深いところです。

将棋に関しては天才的な大局観を誇る人たちが集まった日本将棋連盟の、“盤外での大局観”がどういうものなのか、かなーり楽しみ!?



そんじゃーね

<コンピュータ将棋 関連エントリの一覧>


1) 『われ敗れたり』 米長邦雄
2) 盤上の勝負 盤外の勝負
3) お互い、大衝撃!
4) 人間ドラマを惹き出したプログラム
5) お互いがお手本? 人間とコンピュータの思考について
6) 暗記なんかで勝てたりしません
7) 4段階の思考スキルレベル
8) なにで(機械に)負けたら悔しい?
9) 「ありえないと思える未来」は何年後?
10) 大局観のある人ってほんとスゴイ 
11) 日本将棋連盟の“大局観”が楽しみ ←当エントリはこれです
12) インプット & アウトプット 
13) コンピュータ将棋まとめその2