アメリカの革新性&超保守性

先日、『クラウドソーシングの衝撃』の著者である、比嘉邦彦東工大教授&井川甲作氏とお話する機会がありました。その際に教えてもらったのが、アメリカの政府各省庁が発注者として使っているクラウド・ソーシングのポータルサイト、“チャレンジ・ガバメント”です。


下記がそのトップページで、「政府と国民みんなで問題解決をしよう!」って感じになってます。


アドバンストサーチでは、発注省庁別に検索ができ、


問題解決のタイプ別でも検索が可能


発注予算も100万円から10億円以上のモノまでいろいろ(発注額でもソートできます)で、実際に報酬が支払われた記録もあります。


これって一言でいえば、
「政府による、民間セクターへの、問題解決のアウトソーシング」、もしくは
「政府による、問題解決策の市場調達」なわけで、
こういうのがホントに機能してるというのは、ちょっとした驚きでした。


でも確かに、たとえば文部省が「小学生の計算能力を上げるにはどうすればいいか。アイデアと、最低2校でプロトタイププロジェクトの実施ができる団体を募集」といった感じでアウトソースをかけ、教育NPOがそれを受注して問題解決に取り組む・・・みたいなのが実現したら、あちこちの分野で使えそうだよね。


★★★


今回聞いた話では、アメリカでもクラウド・ソーシングは2004年から2006年あたりにいったん大きく盛り上がった後、大企業があまり使わなかったために流行らず、ちょっくら下火になってたとのこと。

それが、2010年の3月にオバマ氏が「政府もクラウド・ソーシングを積極的に使え!」と声明を出してから一気に市場が拡大。いまや多くの大企業が使い始めてる


ふむー。

オバマ氏、やっぱすごいじゃん!


て感じでしょ。民間大企業がまだクラウド・ソーシングを使い始めてない段階で、政府に「コレ使え!」と号令をかけるアメリカ大統領の大胆さ、革新性にはホント、びっくりしちゃいます。


ちきりんは以前、「福島の事故処理に世界の知恵を!」というエントリを書いているわけですが、上記を見て、「経済産業省がアメリカ政府を通して、このサイト(チャレンジ・ガバメント)に、福島からの発注を出させてもらえばいいんじゃん?」と思いました。

今のところ、“チャレンジ・ガバメント”は海外の政府にオープンにされてるサイトではないけど、福島なら話は別でしょう。「この問題の解決のために世界の英知を調達したい、ぜひ、そのサイトに掲載させてほしい」って、お願いしてみる価値はあると思うけど?

今の福島の状況って、「汚染水が海に流れ込まないよう凍土壁を作ってくれる業者を募集」みたいな公募を、日本語で出してるだけで済む状態とはとても思えない。ねっ、だからさ、オバマさんに聞いてみようよ!



えっ? オバマ氏は今、忙しくてそれどころじゃないって?


あー、確かにそうなんですよね。

今、アメリカでは共和党が「国民皆保険なんてとんでもない。オバマケア止めれ。そうじゃないと、債務上限を引き上げないぞ。米国債をデフォルトさせるぞ」と脅しをかけていて、オバマ氏はその対応に大ワラワ状態なんです。

それにしても「全国民に医療保険を!」という主張に、ここまで強硬に反対する共和党って、どうなのよ?
ほんと、わけわからんよね、アメリカの超保守主義って。。


でも、今はその余波を受け、アメリカではいろんな政府機関が(予算がなくて)一時閉鎖してる。(この辺もアメリカ的っていうか、日本だったら給与遅延でも公務員はみんな働きそうな気がするけど)

と思ってよく見たら、なんと“チャレンジ・ガバメント”のトップラインにも、こんな注意書きが・・

Due to the government shutdown, information on this website may not be up to date. For information about available government services, visit USA.gov.


これを見てあたしは思ったよ。

これだからアメリカには二大政党政治が成り立つんだなって。

1)「全国民に医療保険を!」と唱え、「政府機関はもっと積極的にクラウド・ソーシングを使え! 問題解決策は市場から調達せよ!」と唱える民主党オバマ氏の革新性と、


2)「国や企業の予算で全国民に医療保険を与える必要なんてないだろ。んなもん、自己責任なんだから。どうしてもやるというなら、アメリカの国債をデフォルトさせるぞ!」と脅す超保守勢力の共和党

二大政党制が成り立つためには、これくらい掛け離れたふたつの意見が併存する必要があるんだよね。そして“チャレンジ・ガバメント”のトップページは、そのふたつの勢力が同居してる今のアメリカの状況を象徴してる↓


日本みたいに、大半の人が「頑張った人が報われるべきだよね。でも弱者保護も大事だよね」なんていってるような状態では、二大政党制なんてありえないのだと。


よーくわかりました。


そんじゃーね

クラウドソーシングの衝撃 雇用流動化時代の働き方・雇い方革命 (NextPublishing)

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<過去関連エントリ>
・「アメリカの共和党と民主党の基本的な違いを知らない方向けのエントリです
・「アメリカの債務上限問題のあほらしさについて
・「クラウドソーシングによる研究開発策の市場調達について
・「クラウドソーシングに関するオバマ氏の選択について
・「日本の二大政党制の成立に必要なものとは