再び「高い国」へ

紳士服のコナカの店長が過去2年の残業代支払いを求めて労働審判に申し立てをしたというニュース。この前のマクドナルドのもだし、特に現役の店長のまま申し立てる、という動きは、これからもあちこちの小売り、ファーストフード系、コンビニなど各種フランチャイズ店で出てくるんじゃないかと思う。

これ、どんどん訴えればいーさ!と思います。いやまじで。特に今は時流に乗っているから、全国に名前が売れているチェーン店なら一人、二人の訴えでもNHKのニュースに取り上げられる。会社側も変な対応はしにくいでしょう。それにこれから日本は若年層の労働力が逼迫といっていいレベルまで足りなくなる。今までのような劣悪な条件と環境では人が雇えなくなるだろう。会社側も裁判や審判を起こされなくても、それなりの待遇を労働者に提供していくことが、人材確保のために必要となる。


で、こういう動きが続けばどうなるかというと、基本はこれらの店が売っている商品やサービスの値段があがるだろうと思います。今の格安スーツも100円バーガーも、店長は管理職、という偽職の元にたかだか手取り20万円台で奴隷のようにこき使える人間が大量に存在することを前提に成り立っていた価格。彼らにきちんと残業代を払う、もしくは、普通の労働時間にする代わりに人員を増やす、ということをやれば、格安スーツの値段もバーガーの値段も2割はあがるんだと思う。


そーなるべきでしょう、と思います。


ちきりんは数年前から「日本はものが安すぎる」とずっと言ってきた。それなのに「一円でも安いものを求めて・・」という消費者行動は異常だと。

実際、上海なんて、日本で売られているものより3割くらい質が悪いものが2割くらい高く売られてる。そんなん変じゃん。別に日本は上海より安い国になる必要はないだすよ。

日本のその異常なデフレ傾向は、今問題になりつつある(主にロスジェネ世代からの)労賃搾取を前提として可能であったわけで、たとえば、夫は会社でむちゃくちゃな労働時間を強制されており、一方で、妻は一円でも安い醤油を求めてスーパーを何軒もはしごする、という滑稽な状況を生んでいた。

本来であれば、妻は十円くらい高くても気にせず家の近くで消費をし、それにより、各店が適正な利益を確保でき、そこから労働者である夫の残業代にまわるお金が確保されていたはずなのに。

★★★

なお、この仕組みは工場労働者には全く当てはまらない。数少ない工場を日本に残しているメーカーは、本気で請負偽装等々が取り締まられるようになれば、数年のうちに日本の工場を閉じて海外にそれを移してしまう。すなわち、日本は労働の機会自体を失うわけで、ここには「労働力の国際競争」という概念が成り立っている。

しかし、小売り、ファーストフード店での給仕サービスなど、サービス業に関しては、日本でその労働は提供される必要があり、海外に店を移すことはできない。唯一できることは、海外からの労働力の輸入であり、それは実際にアルバイトとして中国人留学生を雇うことで現実のものとなりつつある。

しかし、工場では研修生という名のもとで、中国人研修生が日本人労働者の3分の1のような給与で働いているのにたいして、コンビニでもレストランでも、中国人アルバイトと日本人アルバイトの時給をそんなあからさまに変えることは非常に難しい。(熟練という概念が浅いからだろう。)なので、サービス業に関しては国際的な労働力等価へのプレッシャーが働いても、賃金は数の少ない時給の低い方ではなく、圧倒的多数である(日本人の時給の)高いアルバイトの側に寄るってことになる。

物とちがって、「中国発デフレ」という状況が起こらない。とはいわないが、少なくとも起こりにくい。中国人留学生だって、日本で生活する以上、日本人の10分の1のアルバイト料では働かない。

★★★

さて、これらの裁判、労働審判等の定着により人件費があがり、加えて、原油、小麦、トウモロコシ等肥料の国際価格の高騰があり、ということで、今後、日本の物価は着実にあがっていくと思われる。


日本は再び「高い国」になるのだ。


この動きを、ちきりんは心から支持している。



収入の多い人は物が値上がりしても平気だろうけど、という人がいるが、そうではないだろう。年収の低い人だって、「支出のうち2割は不要」という人が大半でない?いらないものにお金使ってるでしょ?どーでもいいことに、お金使ってませんか?それやめればいいんです。必要なもの8割を、今の2割高い値段で買えばいい。なにも生活レベルが落ちるわけではない。無駄使いと無駄なゴミが減るだけ。家はきれいになるって。ゴミも減ってエコに貢献。一挙4得くらいですよ。

ちきりんはもう何年も前から「より安いもの」を求める買い物をやめている。高くてもほしいものだけ買えばいいからだ。ものを増やしたくないということに加え、異常な安さに気持ち悪さを感じてきたからだ。ミンチ系のおかずを外で一切食べなくなってからもう久しい。怖くて食べられないのだ。


そんなに安い国になる必要は、ほんと、ありません。


高くて、安心なものがあればいい。一円の安さを求めて飛び回るのはやめましょう。


「適正な値段を払う消費者がいて初めて、労働者が適正な給与を得られる。」のだ。


問われているのは、消費行動だ。経営でも労働でもなくてね。



ということで。ばい。