領土問題の変遷と、その背景の世界構造

最近は韓国、中国との領土問題(というか、島の領有権問題)について、メディアでも世論でも大いに盛り上がっているけれど、これって「なんでこんなに盛り上がってるんだっけ?」というのがよくわからず、ちょっと考えてみました。

関係国はみんな「あそこは我が国の固有の領土だ」とか言ってるわけだから、領土問題自体はずっと昔から存在したはず。ところが、それを巡る議論はずっと盛り上がってるわけでもありません。

外交機関や関係者(および右とか左の方々)は昔から関心をもっていたんでしょうけど、「一般メディアや普通の人は20年前にも尖閣だ竹島だと騒いでいたか?」と言えば、全くそんなことはなかった。てか、対馬とか放置プレイも甚だしい。

それがなんでここんとこ、一般人も含めて大きく騒がれ始めているんだろう? ちきりんが興味あるのは領土問題そのものより、「領土問題についてみんなが騒ぐのは、どういうタイミングなの? 背景には何があるの?」ってことの方だったりします。


★★★


たとえば1945年より前は、尖閣や竹島について世論が注目するってことはないですよね。だって、日本は朝鮮半島全体を占領してたし、満州という広い地域を実質的に支配下においていた。そんな広い領土を軍事力で占拠してるんだから、尖閣や竹島がどっちのモノか?なんてことは争点にならない。

その次の、1945年から1952年のサンフランシスコ講和条約発効までの間は、今度は日本の領土が占領されてました。Occupied Japanはアメリカ率いる連合国グループの支配下にあったわけで、今度は反対の意味で、小さな島の領有権などぐちゃぐちゃ言っていられない。領土問題といえば、まずは本土の独立が最優先課題。


1952年以降はどうなったか? この時点で日本にとってもっとも大事な領土問題は、「沖縄の返還」だったはず。まずはあそこを返してもらわなくちゃ。

もちろん、北方領土問題もあったと思うけど、サンフランシスコ講和条約で日本は「アメリカの子分になります!」って決めたわけだから、反目してるソ連(今のロシア)が返してくれないのはともかく、味方のはずのアメリカが返してくれないのは理屈が合わない。

というわけで、密約とか安保とかいろいろありながら、1972年にようやく沖縄は日本に返還される。今から40年前のことですね。日本にとっての最大の領土問題が解決したのが、ここなんだと思います。


大きな領土問題に目処が付けば、当然、次の問題に焦点が移ります。それが北方領土。この頃は、日本にとっての領土問題と言えば、大半の人が北方領土しか思いつかなかったんじゃないかな。

ただし1990年までは世界は冷戦体制だから、あんな場所をソ連が日本に返すわけがない。(返したらそっこーで在日米軍が基地を作って、ソ連や中国に向けた核ミサイルを設置するでしょ)

アメリカとしても、「アメリカは沖縄を返してくれたけど、ソ連は返してくれない」と、日本国民が怒ってるのは悪くない。冷戦時代なんだから、前線基地国の日本に「共産主義陣営への忌避&嫌悪の感情」が強いまま残るのは損じゃない。


ちょっと話が逸れるけど、昔、都心にでかい看板があって(今でもあるかも?)、そこに「かえれ! 北方領土!」って書いてあって、ちきりんはやや混乱してた。「かえれ!」って変じゃない? どう考えても「返せ、北方領土」が正しいのではないかと今でも思うけど、一方で、なんかすごい深い思慮の下に「かえれ!」だったのかなあ、とも思う。今でも疑問。  


話戻します。


日本側の事情でいえば、「北方領土問題が解決したから、次は尖閣だったり、竹島だったりが注目され始めた」というならわかるんだけど、今の場合、北方領土も解決してないのに、なんで尖閣や竹島がクローズアップしてきたんだろう? 最近はなんだか北方領土より竹島の方が大事だくらいの世論になっている。これはなぜなんでしょう?


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次は目線を変えて、中国や韓国にとっての領土問題を見てみましょう。中国に関しては、戦争前後はずっと外国に占領されてるわけだから、1949年までは、まずは自国領土の独立、統一が最優先課題だよね。

その後は(今でも)彼らにとっての最重要の領土問題は「台湾」のはず。ただ、中国は大きな領土問題をいくつも抱えている国で、「香港」も1997年の返還まで、台湾と同等以上の大きな領土問題だっただろうし、チベットやウィグルなど西方地域も常に独立問題がくすぶってる。

中国と韓国の間に島の領有など、領土問題が存在するのかどうか知らないのだけど、これだけ全方向で領土問題を抱えてる中国にとって、尖閣がどれほど大きな問題で、他の領土問題とどう性格が異なり、なぜここにきてこんなに盛り上がっているの? というのが、とても興味深い。


韓国はどう?
彼らにとっての最大の領土問題は38度線だよね。小さな国なので、領土問題がありうるとすると、北朝鮮との国境(38度線)、海の上の島(日本、中国)くらいでしょ。

韓国が竹島(彼らから見ると独島)についてぐちゃぐちゃ言えるようになってきたのは、国が二分されている韓国でさえ「冷戦構造」を意識外に追いやれる時代がやってきた、ということであり、それはけっこう大きな意味のあることに思えます。

彼らが「38度線以外の領土問題」に関心を寄せる余裕が持てるほどに、冷戦構造は過去のものになりつつあるということだし、韓国の経済発展、政治的安定がそれを可能にするほどに進んできた結果だとも言える。


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結局のところ、1945年に一度、アジアの領土問題がリセットされた後、つい最近まで大きな領土問題はすべて「冷戦絡みだった」わけです。

日本にとっての沖縄や北方領土、中国にとっての台湾、香港、韓国にとっての38度線は、全部「資本主義陣営の領土か、共産主義陣営の領土か」という背景の中で存在していました。


一方、最近盛り上がってる領土問題は、それとは関係ありません。チベットやウィグルも、尖閣も竹島も、冷戦構造との絡みで問題になってるわけじゃない。

そりゃそうだよね。「冷戦体制」というレジーム自体が終わったんだから。


じゃあ、いったいどういう(新しい)レジームの上に、今の領土問題を巡る議論の盛り上がりが出現してるんでしょう? 

冷戦構造に変わる世界の新しい秩序が作られつつあり、その体制を規定するなんらかの要素に基づいて、尖閣やら竹島やらに注目が集まり始めているんだろうとは思うのだけど、それがいったい何なのか? というのがよくわからない。

その辺が興味あるんで、最近はコレ関係の「思考の棚」ばっかりいじくっていたりするわけです。


そんじゃーね




追記)韓国と中国も島の領有権でもめてるらしい。情報感謝です!