ランサーズを訪問して話を聞き、その後、本や資料を読んで(いつものように“にわか”)勉強をした結果、
クラウドソーシングという“仕事と働く人を結ぶ新しいマーケットの仕組み”について、ちきりんが理解したこと、驚いたこと、考えていることを、ひとつずつ書いていくことにします。
先日も軽く触れましたが、クラウドソーシングの普及と拡大によって、これから人の働き方が大きく変わると思われます。
ランサーズがキャッチフレーズとして「時間と場所にとらわれない新しい働き方」とうたっているように、
今までは「時間と場所の制約のために、活用されていなかった仕事力」が、(個別にはごく僅かだけれども、合計すると実は)ものすごい量、存在していたわけです。
たとえば、
1)地方在住のため、(能力も時間も意思もあるのに)仕事がない
2)子育てや介護や自分の健康問題のため、“週に10時間”なら働けるけど、通勤や通常勤務ができないので仕事に就けない
3)正社員として長時間労働や加重コミットをするのはイヤだ。でも、単純作業のバイトもやる気がしない。スキルと経験を活かしておもしろい仕事を短時間だけやりたいのに、そんな条件で雇ってくれる会社は見つからないので、職場が定まらない(定年退職後の高齢者含む)
みたいな人たちの「働く能力×働ける時間」を、全員分、合計するとかなりの時間になると思いません?
それらの人たちの「能力×時間」で仕上げることのできる仕事量(成果物のレベルと量)もまた、全部合わせれば驚くほどのレベルになるのでは?
こちらはランサーズで評価が高く受注数の多いワーカーの方を検索した結果ですが、
上位には宮崎県、福岡県、山梨県、北海道と地方在住の方が並んでいます。発注者の大半が大都市圏(東京、関西、中京)なのとは対照的です。
こんなに仕事の評価が高いワーカーの人たちがもし東京に住んでいて、フルタイムで勤務できる立場だったらどうなると思いますか?
こういったサイトで仕事を探すまでもなく、すぐにどこかに就職が決まってしまったり、業界で人気のフリーランサーとして成功し、営業なんてする必要もなく、知人の紹介で頼まれる仕事だけで手いっぱいになり、「当面は新規の仕事は受けられません」的になる可能性も高いのではないでしょうか?
つまり現状では、ある仕事にたいして、
・「スキルレベルは中程度だが、東京に住んでいる人」は、
・「スキルレベルは高いが、九州に住んでいる人」より、仕事に恵まれやすいし、
・「スキルレベルは入門レベルだが、いつでも残業OK! 一日18時間でも働けます!」という人も、
・「スキルレベルは平均値以上だが、家庭の事情で一日 5時間しか働けない」という人より
就職しやすく収入が得やすいわけです。そして今はじまりつつあるのは、クラウドソーシングというオンライン市場における、その“裁定取引”だと言えます。
それ以外でも、配偶者の転勤に伴い海外に住んでいる、今まで蓄積したスキルや経験が海外では全く活かせず、専業主婦をやっているという女性や、
海外でMBAに通っているが、現地では外国人の労働が制限されているため割のいいバイトができない留学生などの「働く能力×働ける時間」も、今までは無為に放置されてきました。
さらにいえば、「ペルーに生まれてペルーに住んでいるというだけで、能力もスキルもあるけど失業してる」みたいなペルー人の時間も、
大人顔負けの技術やセンスを持つ中学生や高校生の(実は十分、ビジネスでも通用するレベルの)仕事力も、
今は労働力としてカウントされておらず、成果物に結びついていません。
クラウドソーシングとは、そういった様々な制限条件によって価値化されてこなかった、世界中の人の“仕事をする能力”を具体的な仕事に結び付け、お金に換える仕組みなのです。
ここまで書けば多くの方が理解されると思います。
クラウドソーシングは、純粋に“仕事をする能力”だけを評価するため、「どこに住んでいるか」についてや、「フルタイムワークができるか」「ひとつの組織にコミットするか」といった条件や精神性にたいして、プレミアム評価をしません。
それはつまり、「東京に住む価値」が下がるということであり、「フルタイムで一つの仕事や組織にコミットするという意思決定の価値の低下」につながります。
グローバリゼーションの視点から、そして、ワーカーとしての面だけでみれば、「日本に住む価値が下がる」といってもいいでしょう。
オンラインで完結する仕事なら、「東京にいる中級レベルの人」より、「夫の転勤についていってマドリッドに住んでいる、高いレベルのスキルをもつ人」に頼みたいと考える発注者はたくさんいます。
成果物が語学の影響を受けにくい技術分野であれば、「スーパーすごい技術をもってるあのスロバキア人技術者にぜひこの仕事を頼みたい!」という発注者もいるでしょう。
そんな取引がストレスフリーで成立する“新しい労働力市場”(もしくは“仕事力市場”)が登場しつつあるというわけです。
「いやいや、そうはいってもオンラインで完結する仕事なんて、そうそう多くはないだろう?」って?
そうですね。飲食店の店員や家事・介護サービスなど、現場にいなければならない仕事はたくさんあるし、最後までなくなりません。
でもね、オンラインになりにくいのは「頭と同時に、身体サービスも使わないと完遂できない仕事」であって、
右脳であれ左脳であれ「アタマだけを使えば完結する仕事」は、今後のIT技術の進化に伴い、急速にオンラインで完遂できる割合が増えていくはずです。
それは決して、プログラミングやデジタルでのクリエイション(デザイン、コピー等)だけの話ではありません。
たとえば私のような経歴の人が、「あなたの企画案をスカイプで 1時間、私に話してくれたら、それを誰が見てもすぐに理解できる、わかりやすくインパクトのある企画書にまとめます」みたいな仕事を請け負うことも可能でしょう。
それらは決して、従来のイメージにおける“IT系のお仕事”ではありません。
今後はこういった仕事については、働く時間の柔軟性や仕事にコミットできる時間、物理的な距離の制約によって「労働力としてカウントされていなかった仕事力」が、日本中から(日本語ができる人が)、世界中から(英語でいいなら)、市場参入してくるのです。
ひゃー!!!!