アメリカ大統領選も終盤。コリン・パウエル氏がオバマ氏を支持すると明らかにした。
映像で見たけど、その熱意と覚悟に満ちた彼の話し方にはちょっと感動した。パウエル氏のとても深い希望を、その言葉に感じたから。
パウエル氏は黒人として初めて米軍(制服組)トップと国務長官を務めてる。
これは大変なこと。
アメリカが人種差別を法的に廃止したのは 40年ちょい前(公民権法 1964年制定)だから、現在 71歳のパウエル氏がどのような環境で育ってきたかはいうまでもない。
彼の自伝を読んだのはもうずいぶん前だけど、その中の一節が今でも忘れられない。
彼は、新婚旅行に(当時の多くのアメリカ人と同じように)車で米国内を回った。
けれど数時間のドライブの後に見つかる小さなレストランはどこも黒人を入れてくれない。
食事はかろうじて買ってきて車や原っぱで食べることができる。
けれど新婚の若い奥さんの入れるトイレが見つけられない。
ドライブの途中、彼は一日に何回も人が隠れるくらいに育ったトウモロコシやらサトウキビなどの畑の周りを走り、奥さんが用をすませられる場所を探した。
これが彼の新婚旅行の思い出だというんです。
軍の教育機関で、白人の同僚達がパウエル氏に意見を求めてくる。
「ここはアメリカだ。自由の国だ。資本主義の国なんだ。ソビエトや中国のように、国がすべてを管理する国ではない。
レストランを所有するオーナーが、自分の私的所有財産であるレストランに誰を入れて、誰が入ることを拒否するかは、個人で決めていいことだと思わないか?」と。
「黒人としての君の意見を是非聞きたいんだ」と。
白人の将校候補達には何の悪気もない。彼らはただ現実に無頓着で、無知なだけ。
パウエル氏は「もしあなたが新婚旅行に行ったとして、奥さんのためのトイレが見つけられず、トウモロコシの畑を見つけ、万が一にも誰かがこないように一日に何度も見張りをしないとならないとしたら、それでもこの国が自由の国であることを本当に誇りに思えるかい?」とその同僚に問いかける。
同僚達は、言葉を失う。
ちきりんが感動するのは、この彼の悲しいほどの抑制力です。
普通だったら「同僚に一発お見舞いする」のが当然だと思わない?
まずは一発殴ってから「馬鹿野郎、何にもわかってないくせに!」と怒鳴りつければいい。
でも、もしもそういう方法で物事に対処する人であったなら、彼が“黒人初の”軍トップや国務長官にもなることはなかったはず。
怒りにまかせて怒鳴っても、一発殴っても当然と思われる場面で彼は、常に怒りを抑えてきたんだよね。
あまりにも理不尽な物言いにたいして、常に冷静に「あのね、よく聞いてね」と反応してきたんだと思う。
だから、
彼はあそこまでたどり着けた。
その彼が、自分が政権に採用されていた共和党の候補者ではない民主党のオバマ氏を支持すると表明した。
彼自身非常に人気があり、過去には大統領候補にも副大統領候補にも名前があがってる。
でも「暗殺される可能性が・・」という家族の声もあって断念してきた。
「黒人であるオレは、この国でどこまでの野望をもっていいのだろう」という自分自身の問いに、彼自身で答えを出した。
それが国務長官であり軍トップの立場だったんじゃないかな。「白人の大統領に仕える第一の部下」という立場。
「これ以上を望むべきではない」というのが、彼の決断だったんじゃないかと。
ところがここに来て、彼が諦めたその夢を叶えてくれるかもしれない若い候補者が現れた。
バラク・オバマ大統領候補。民主党からの候補者として。
本来なら、パウエル氏は同じ民主党の「女性で初めての大統領を目指すヒラリー氏」を指示すべき立場です。
その彼が、オバマ氏を支持すると発表した。
その裏にはどんな思いがあったのか。
しかもパウエル氏がオバマ氏の支持を打ち出すのは、このぎりぎり土壇場のタイミングになってから。
もうどう考えてもオバマ氏が勝つよね、と米国中が思い始めてから。
この慎重さ。
これが、彼の成功の理由である慎重さなのよ。
その自己抑制力、悲しいとも思えるほどの習性。
この慎重さがなければ、彼はここまで来れなかった。
「白人社会を生きるための方策」であった「決してリスクをとらない。決して白人に正面から刃向かわない」という姿勢。
もしもっと早く“オバマ氏支持”を打ち出していたら、オバマ氏が大統領になれなかった時、彼は大きく傷つく。
周囲の人は“やっぱりあいつは大統領になりたかったのだ。だから黒人候補を応援したのだ”と言うでしょう。
だからオバマが間違いなく勝つ、という情勢になってから、ようやく態度を表明した。
しかもパウエル氏は今や 71歳。
もし彼が 50代であったなら=この先まだ何十年も白人社会において密かな野望とともに生きていく必要があるタイミングだったら、
たとえこの土壇場であっても、彼はオバマ氏支持などという危ない主張をテレビで述べることはなかったかもしれない。
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もうひとり。
コンドリーザ・ライス。
パウエル氏についで黒人として国務長官の座についた女性。
彼女は子供の頃から卓越した脳力(能力)を発揮していた天才少女だ。
それなのに自分よりずうっと“頭が悪く視野が狭く世間知らずで単純”ではあるが、
“大統領を父にもち、白人で、南部のエネルギー利権を牛耳るブッシュ家に生まれたジョージ”
のブレーンとなることでトップの座を目指した。
彼女もまたその冷静な慎重さがあったからこそ、ここまでこられた人だと思う。
彼女は結婚しておらず、米国では“家族の日”であるクリスマスをブッシュ一家と過ごす。
アメリカでクリスマスを一緒に過ごすというのは、もはや「家族」だってことなんだけど、それが彼女の選んだ生き方なんです。
でももし彼女が白人として生まれていたら、本当にそういう人生=ブッシュ氏を支える立場としてのキャリア、を選んだろうか?
自分自身が大統領を目指すのではなくて?
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一方のヒラリークリントン氏は、最初から最後まで前向きだ。
「米国は私を大統領に選ぶべきだ!」と大声で叫ぶことができる。
そのことが、「正論であれば、真正面から大声で主張すればよいと教えられて育ってきた人達の特権的な行動」であるとは気がつかない。
アメリカでは「誰でもそうやって」主張していると思い込んでいる。
オバマ氏の功績はまさにそこにある。
「米国は私を大統領に選ぶべきである」と彼は正面から主張した。
これはパウエル氏にもライス氏にもできなかった行動だ。
そしてそれは、ブッシュやヒラリーが“当然として”行っている行動だ。
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オバマ氏が正当で適切な手続きのもとで大統領になることを期待します。
(意味:暗殺されませんように)
そんじゃーね。