「その時歴史が動いた!」 (未来編)

2013年 仏滅 @首相官邸
緊急招集を受けて集まった、数人の男達が緊迫した表情で総理を囲んでいた。


財務省理財局長「総理、たっ、大変です。遂に心配していた事態が現実になりましたっ!」

総理「なにっ! それは、もしかして・・!?」

理財局長「はい。国債の入札が大幅未達となりました。」

総理「なっ、なんと。いよいよか・・・」

理財局長「はい・・、一部の金融機関が応札をしないと決めたようです・・・。総理、どうしましょう」


総理「どっどうしましょうって・・・どうすればいいんだ?」

理財局長「今後の入札ではもっと応札額は減ると思われます。既に既存の国債相場も暴落を始めています。今後償還を迎える国債はもう借り換えはできないとみた方がいいかと・・・つまり、期限がきたものからすべて償還していくことが必要になります。」

総理「・・・すると、年間いくらくらいの金が必要になるんだ?」

理財局長「最低50兆円は必要です・・」

総理「ご、ごっ50兆円!?」


主計局長「何を驚いているんですか?4年間は消費税を上げないと決め、“友愛”の名の下に弱者へのばらまき政策を推進し、事業仕分けも結局は支持母体の労組の反対で雇用に関わるところには一切踏み込めませんでした。その時点でこうなることはわかっていたはずです。」

総理「いや、確かにそう言われればそうなんだが・・・それにしても50兆円は大きいな。で、どうすればいいのだ?支出を大幅に減らせばいいのか?」

主計局長「総理、我が国の予算では、支出を全部なくしても50兆円ぎりぎりです。支出を全部なくすというのは、日本政府が解散するということです。さすがにそんなことは・・」

総理「うむ、できないな・・。では、消費税を20%にしたらどうだ?」

主計局長「それは確かに助けにはなります。しかし、今からそんなことをしたら消費は一気に落ち込むでしょうし・・収入増はせいぜい20兆円程度ではないでしょうか。それでは間に合いません」

総理「うむ・・・仕方ない。では、ちきりんに聞いてみよう」


その場の全員「・・・はっ?」


総理「知らないのか? Chikirinの日記というブログを書いている社会派ブロガーだ」

理財局長「いや、しかし彼女はおちゃらけ、ですよ?」

総理「お前はまじめだな。危機の時こそ笑いが必要なのだ!」

理財局長「はあ?」

総理「とにかくすぐに、ちきりんに電話をつなげ!」

主計局長「はっ」

・・・・・


ちきりん「もしもし〜」

総理「もしもし、ちきりんか?」

ち「そうだよ。元気?」

総理「おお。しかし実は大変なことが・・」

ち「知ってるよ。国債の入札、大幅未達なんでしょ?」

総理「おお、話が早いな。それで知恵を借りたいのだ。何か、いい手はあるか?」

ち「いい手なんてないけど。毎年50兆円も必要なら何でもやらざるを得ないよね。覚悟はあるの?」

総理「もちろんだ。どんな手があるんだ?」


ち「まずは、経済移民を受け入れましょうよ。カナダなんかがやってるやつ。一定の投資をしてくれた人に永住権を与えるの。アジアには日本の永住権を手に入れたい人はそれこそ億の単位でいるんだから。」

総理「なるほど、具体的には?」

ち「そうね。ひとり500万円分の日本国債を買ってくれたら、それを保有している間は滞在権を与える」ってことにすれば?たぶん中国人が1億人くらい応募してくるから、そのなかから1000万人くらい筋のよさそうな人を選べば、500万円×1000万人で50兆円でしょ。まずはこれで1年目は乗り切れるよ」

総理「お〜、一気に50兆円! 最近日本の人口は減ってるし、1000万人も来てくれたら内需も一気に盛り上がるな。しかも金持ちばかりだから治安も問題ないだろう。すばらしい案だ。さすがちきりんだな!」

主計局長(渋い顔)「で、2年目はどうするんですか?来年ですよ」


ちきりん「うーん、次は国の資産を売るしかないわね。何か高く売れる物を売りましょうよ」

総理「なにが一番高く売れるんだ?」

ち「えーっと、大学なんかいいんじゃない?東大とか京大とか売っちゃいましょうよ。一流企業の時価総額は10兆円くらいだから、東大京大ならそれくらいで売れるんじゃないかな?」

総理「おお、それなら東工大と一橋も一緒に売ったら一気に40兆円になるのか?」

ち「ん〜、その辺りだとたいした値段にならないから、売ってもしゃーないかも。」

総理「じゃあ、慶應はどうだ?ブランドだぞ!?」

ち「いやそれ私立だから勝手に売れないし」

総理「あっそうか」


ちきりん「寧ろ羽田空港の方が高く売れるよ。成田空港もいいかもしれない。」

総理「なるほど、さすがちきりん、目のつけどころが違うなあ」

ち「でしょ?50兆ならもうひとつ必要だね。じゃあもうひとつは・・・」


主計局長「事業仕分けで廃止されそうになってる科学技術研究センターなんかはどうでしょう?種子島のロケットセンターとか、大型望遠鏡とか、作りかけのスパコンとか・・これからはもう予算がつけられない豪華な研究や実験用の設備があちこちにあるんですが・・」

ち「あ〜確かにその辺、売れそうだね。官僚もたまにはいいこというね。じゃあ、そーゆーのまとめて売って来年の50兆円を工面しましょう!」

総理「おお!ありがとう。これで向こう2年は大丈夫だな。でも、その後は?」


ち「ん〜、その後はもう、どっか土地を売るしかないよね。」

総理「土地か? 佐渡島とか?」

ち「そんなとこ売ってもたいした額にならないでしょ。しかも地方切り捨てとかいうと選挙に勝てませんよ。友愛はどこいった?とか言われるよ」

総理「ふむ、ではどうすれば?」

ち「思い切って港区とか売ればいいんじゃない?」

総理「みっ港区を?」

ち「どうせ今だってやたらと外人が多いんだから、違和感ないっしょ。」

総理「確かに港区なら高く売れそうではあるが・・」(・・止めて欲しそうにチラリと局長らの方を見るが、ふたりとも目をそらす)


ちきりん(全く気にせず)「港区は管轄が、本所、麻布、赤坂、高輪、芝浦の5カ所にわかれるんだけど、全部いい場所だからそれぞれ数十兆円になると思うよ。上海や北京なんて共産党独裁であるかぎり、ホントの意味の不動産は手に入らないんだから、日本の土地建物の私的所有権が手に入るとなれば、在住権を得てる中国人の富裕層が入札に殺到すると思うよ。今の時価より相当高く買うんじゃないかな。」

総理「なるほど・・」

ち「それに大規模開発権を与えるとか、芝浦とかお台場はカジノにしてもいいぞとか言えば、港区売るだけで3年分くらいにはなるかも」

総理「よし。そうしよう。」


主計局長「いや、そーり、そんな簡単に決められても・・」

総理「だまれ!こういうことは政治主導で決めるのだ!」

局長2人「・・・」


★★★

5年後・・・


日本は高度成長時代を思わせる活況に沸いていた。大量に移民してきた中国人達は一人っ子政策の制約がない日本で多数の子供を生み、少子化問題は一気に解決した。彼らの旺盛な消費意欲により内需は大幅にのび、まさに「アジアの活力を取り込む!」とうたった民主党の経済政策が実を結んだ形だ。

消費税や所得税などの収入が増え単年度では財政が均衡しはじめていたし、国債もどんどん償還が進んでいた。また、移民達は介護分野等に就職することが多く、介護不足問題も解決していた。

清華大学京都分校(旧京都大学)と上海交通大学文京分校(旧東京大学)では、日本語での授業をやめ、授業の半分は中国語、残りの半分は英語で行われていた。そのため、様々な国からの研究者や留学生が来日して学んでおり、日本人でもこのふたつの大学への進学者は、日・中・英語のトリリンガルである必要があったため、日本人の語学力も飛躍的な伸びを見せていた。

・・・

2013年、もはや不可避と見られていた日本の財政破綻はこのようにして土壇場で回避された。そして、それは同時にその15年後に出現することになる、“中華人民共和国日本省”への歴史の扉が開かれた瞬間でもあった。


〜〜〜  「その時、歴史が動いた」  〜〜〜
           最終話 
“ニッポンの選択、その時、おちゃらけブロガーは・・” 
      〜〜〜  完  〜〜〜




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