人間のための指標

昨年の年末、12月30日に鳩山首相は「友愛精神に基づいた“人間のための経済”が日本の新しい成長を作る」と話されました。

にも関わらず、その後に“次の10年でGDPを180兆円増やす”みたいな話がでてきたため、ちきりんは今年1月3日のエントリにて、「友愛精神に基づいた人間のための経済」とかいいつつ、目標値をGDPという基準でたてるのは変じゃない?と書きました。

まるで母親から「あなたには友達にやさしい人になってほしいわ。じゃあ、3年後の目標は偏差値70にしましょう!」と言われてるようなもの、とも揶揄しました。

では、「人間のための経済」では、GDP以外のどんな“成功をはかる指標”を掲げるべきか。今日はそれを考えてみたいと思います。


ちきりんが考える指標の候補は・・

1.年間自殺者数を現在の3万人から1万人未満に下げる。
世界の自殺率ランキングを見てみてください。日本より自殺率が高いのは、元共産国や太陽の少ない冬の長い国が多く、経済状況からみても日本とは比べられない国ばかりです。日本は、資本主義先進国としては、世界で最も自殺の多い国といってもいい状態です。

まずはこの数字を改善するのが「人間のための指標」なんじゃないかと思います。先日の施政方針演説でも首相は何度も「命を守る」ことを強調されてましたしね。


2.全年代の失業率を6%未満に下げる。
昨年11月の速報値で、若年層(19歳〜24歳)の失業率は8.4%と,1年前に比べ1.4%上昇しています。若者に仕事がない国に未来はないでしょう。


3.ジェンダーギャップ指数ランキングを世界50位以内に上げる。
2009年の男女共同参画白書によれば、世界経済フォーラムが発表したGender Gap Indexにおいて、日本はなんと世界で98位。先進国としてはあり得ない順位です。ちなみに中国よりずうっと下です。女性の地位向上、社会参画なしに少子化問題が解決されることはないでしょう。


4.片親家庭の子供の貧困率を現行の半分にする。

OECDのレポートによれば、日本の片親世帯の子供の貧困率はなんと60%。世界でも突出して高いです。てか、半分を超えてるってどういうことでしょ。日本では「片親なら貧乏で当たり前」と認識されてるってこと?

目標の30%はそれでも高い!と言われそうですが、まずは現状の半分を目指さないと、ということで設定。

また、目標値を“子供の貧困率全体”や“大人も含めた貧困率”とせずに、“片親世帯の子供”にした理由は、「子供にはなんの責任もない」という理由の他に、“相対的貧困率”を目標値とすることの課題を踏まえて、ということです。



以上、ちきりん的にはこの4つを「人間のための経済を測る指標」として掲げたらいーんじゃないの?と思いました。これらの指標が大幅に改善すれば、たとえGDPが伸びなくても、みんな納得するんじゃないかな。もちろん指標案としては他にもいろんな意見はあると思います。

いろんな人がそれぞれ適切と思う指標を提案して、「私たちは自分達の社会の成功を何で測るのか?」(=どんな社会を目指しているのか、という点を具体化したもの)について議論することが、理念を理念に終わらせず一歩前に進むためには重要なんじゃないかと。


なお関連指標として、世銀(アメリカ)の環境経済学者であるHerman Daly氏が、GPI(Genuine Progress Indicator・・・社会の進歩を示す指標かな。公害とか犯罪が多いと数値が下がります)というのを提唱している他、ブータンの国王は「国民総幸福度」をGDPに替えて目標としているようです。(ブータンの方は“経済進歩に背を向ける”感じの姿勢が見られて、ちきりん的には余り肌が合いませんが。)


そういえば先日、オバマ大統領が「米国が2番手になるなんて、ありえてはならないことなのだ!」と演説して、大喝采を集めていました。さすがアメリカ。鳩山総理の演説との対比がビビッドでおもしろかったです。

いずれにしても、トップが理念を語るのはとても大事です。そして、理念を語ったら次のステップとしては、それを具体的に測ることのできる“指標”を考えることが必要。是非、頑張って欲しいです。(誰に?)


そんじゃーね。