やっぱり援助じゃないよね、というお話

1ヶ月ちょい前に、2冊のアフリカ援助本を読んでの感想を「アフリカが発展しない理由」というエントリに書いたところ、英治出版の方が関連書籍をいくつか送って(贈って)くださいました。読んでみたらいろいろ勉強になったので、それについて書いてみます。

紹介するのは下記の2冊。最初のは、米国に留学、ベンチャーキャピタルで働いていたバングラディッシュ人が、祖国で携帯電話事業(グラミンフォン)を立ち上げる起業体験を描いた本です。非常におもしろかったです。

グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換 [DIPシリーズ]

グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換 [DIPシリーズ]


二冊目は、銀行勤務をしていたアメリカ人女性がアフリカでマイクロファイナンス事業立ち上げに関わり、その後、自分でアフリカの起業家向け投資ファンド(非営利)を立ち上げる話です。もちろん両方とも実話です。

ブルー・セーター――引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語

ブルー・セーター――引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語

  • 作者: ジャクリーンノヴォグラッツ,Jacqueline Novogratz,北村陽子
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2010/02/02
  • メディア: 単行本
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前回のエントリでちきりんは「アフリカへの国際援助はこのまま続けてもあんまし意味がないのでは?」と書きました。理由は、“現地の政府の価値”がゼロもしくはネガティブであることと、末端の人達に先進国の常識(規律、人道意識、投資の概念など)が期待できないから支援の効果がない、ということでした。

この点については、今回、よりその思いを強くしました。以下は上記の本からの抜粋ですが、いずれもいわゆる“アフリカへの資金援助”の効用をゼロどころかほとんど「マイナスである」と断じています。

経済開発のための援助はほとんどの場合、百害あって一利なしだ。支援したい人に届くことはまれだし、援助金が押し寄せると市場にゆがみが生じてしまう。(グラミンフォンという奇跡より)

しかし二十代で“アフリカを救いに”出かけた私が思い知ったのは、アフリカ人は救いなど求めていないし、必要としてもいないということだった。慈善事業や先進国からの援助がもたらした、ひどい結果をいくつも目にした。援助プログラムが失敗すれば、状況は変わらないどころか悪化さえした。(ブルー・セーターより)

実際、これらの本を読んでいると上記以外でも、いかにODAや既存の国際援助という仕組みがお話にならないか、ということがよく分かります。援助の効用がゼロ以下ということは、「先進国や国際機関からのアフリカへの援助額を半額にしたら、現地の状況は今よりよくなる」ということです。ちきりん的には「いっそヤメちゃえば?」くらいに思います。


そういう現状認識に基づき前回ちきりんが提案した案は「国家運営の外部委託」だったのですが、今回の2冊の本が提起する解決方法は「ビジネス」です。

ご存じのようにちきりんは“市場機能の信奉者”ですから、これは比較的受け入れやすい考えです。ちなみに上記の2冊の本の主役はいずれも“市場原理の国”であるアメリカで高等教育を受け、ふたりとも市場主義の聖地ともいえる金融業界の出身です。

サブプライム危機以降、先進国ではその社会的意義を問われているマーケットメカニズムに基づくビジネスが、形を変えて遠く離れたアフリカやバングラディッシュのような土地で“援助”よりも意義があることを実証しつつあることは、とても興味深く思えました。

というわけで、ちきりんの前回の提案である「ひどい政府をあきらめて、少しはまともな政府へ取り替えたら?」という案より、今回の本が提起する「ひどい政府はほっといて、ビジネスでやろう」という方法は、より実現性が高いし(それにしてもめっちゃ大変ですが)、政府を一気に取り替えるよりは迂遠な道のりであることは確かながら、“ポリティカリーコレクト”だし現実性がある。というわけで、よりよいんじゃないか、と思えました。


また、これらの本の感想のひとつとして、日本でも「私は国際援助に携わりたい。途上国の開発経済に関心があります」という人は、まず金融業界(できれば米系の会社)を最初のキャリアとして目指したらいいんじゃないかと思いました。だって、上記の本を読めばよくわかりますが、外資系投資銀行で生きていけないようではアフリカやバングラディッシュではまず生きていけないです。

それに、最初から公務員、NGO/NPO,政府系機関に就職して、他人が稼いだお金をせっせと配るより、「どうやったら富が生まれるのか」というメカニズムを知ることが重要なんじゃないかと再認識しました。

なぜならああいう国でビジネスを成功させるのは、先進国でビジネスを起こして成功させるより圧倒的に大変だから。その辺は上記の本(特にグラミンフォンの奇跡)を読んでるとよくわかります。そういう意味では、最貧国への援助に関心のある人は、まずは起業するとかベンチャーで働くのも悪くないかもと思います。


さて、というわけで最初に理解したのは、「アフリカはやっぱり国際援助では救えない。でももしかすると営利ビジネスで救えるのかもね」ということでした。なのですが、今回は他にもいろいろ学びがありました。その一つが、NPOとNGOの違いです。実はちきりんは2005年に「このふたつってどう違うの?」というエントリを書いています。「なぜこのふたつの言葉を併用してるんだろ??」ってのがずっと疑問だったんです。

それが今回「グラミンフォンの奇跡」を読んだら、あっさりその答えが書いてあって感動しました。すなわち、発展途上国には組織というのは“政府”しか存在しないのです。ところがその政府が(何度も書くように)機能価値がゼロ未満だと。でも他に何の組織もないから(価値がネガティブの)政府という組織を通して動くしかない。何度も書いているように、当然巧くいかない。で、「じゃあ、非政府でやったらどうか?」という話になり、NGOという概念がでてくるわけです。

それにたいして西欧先進国の世界では、社会の価値機関は「営利企業」なんです。もちろん公務員もいるけど、基本は株式会社が世の中を回してる。それにたいして「営利じゃない機関でもできることがあるんじゃないか。いや寧ろそのほうがいい場合があるんじゃないか?」という考えがでてきた。これがNPOです。

つまり、地球上には「政府が動かしている世界」と「株式会社が動かしている世界」のふたつの世界がある。だからそれぞれのアンチテーゼとしてNGO, NPOというふたつの概念が生まれてきている、ということなわけ。

お〜、きれいに分かってすごく嬉しい。こういうずっと“???”だったことがすっきりわかると本当に嬉しいですね。この点だけでも英治出版さんにお礼を申し上げたいです。

★★★

実はもうひとつ「あーなるほどーそーゆーことー!」みたいな発見があったんですが、それはそれで大きなトピックでまた長くなりそうなので、そのうち別エントリとして書いてみることにします。いずれにせよ、いろいろ勉強になりました。

実はちきりんはアフリカにも国際援助にも開発経済にもほとんど興味がありません。(旅行先としては「アフリカすばらしい!」と思いますけど→http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100116) その上あまり読書もしないんですが、たまにこうやって本を読むと、そんなに興味の無かった分野からでもいろいろ学べるもんだな、とあらためて認識しました。

もしかすると韓国ドラマばっかり見ていないで、もうちょっとは本も読んだ方がいいのかもしれません。というか、シムシティと韓国ドラマに出会っていなければ、ちきりんだってもう少しは大成したんじゃないかと思います。


本日の格言=「後悔、役に立たず」


(冗談ですよ!わかってますよ!だけどほら、おちゃらけだし!)


そんじゃーね。