ミュージカルよりビジネスのほうが興味深い

劇団四季の「アイーダ」を見てきました。ラストの演出が粋でよかった。楽しめました。


でも実は、内容より「劇団四季」の運営のほうに関心が高まりました。今回アイーダを観た大阪の専用劇場は梅田の一等地。劇団四季は東京を中心に、名古屋、札幌など全国9個の常設劇場を抱え、京都でも長期契約で劇場を押さえています。感じたことをメモっておくと、


1.多数の専用劇場が維持できる売上げ能力がすごい

専用劇場をひとつ抱えれば、年間300ステージをこなす必要がでてきます。10個で3000ステージ×500席から1000席。それだけの客席を埋め続けるのは並大抵のことではありません。リピーターを生み、維持するための工夫はもちろん、修学旅行生を集めるなど団体営業も不可避です。

リピーターが何人いて、年間何ステージ観ているのか知りませんが、コア層だけでは埋められない規模だなーと思いました。そこが宝塚歌劇団やAKB48とは違います。(彼らはコアファンだけで埋まる規模までしか投資しません。)


2.相当数の雇用も生んでいるよね

「役者」「舞台技術スタッフ」「大道具・小道具」などの舞台関係スタッフ、前述したマーケティングや営業関係スタッフ、管理部門(財務、人事、法務)、劇場維持スタッフ(清掃、管理、受付、案内)など、数千人の雇用を生み出していると思います。(直接雇用だけで千人弱みたいです。)

特に、ミュージカル俳優を目指す人にとっては、「劇団四季=雇用市場」くらいの規模なんじゃないでしょうか。ただし、夢のある職場だから「給与が低くてもぜひ働きたい!」という人が多く、人件費は相当抑えられているとは思います。


3.日本語で見られるのはいいよね
オペラ座の怪人やキャッツ、コーラスラインなどのミュージカルの定番を「母国語」で鑑賞できるのは、英語、日本語のほか、何ヶ国語あるんでしょう?

フランスやドイツあたりではそれらの言語で演じられているのかな?でも、せいぜいそのあたりの国までじゃないかと思います。これは子供や、経済的理由により海外にミュージカルを見に行くなんてありえない層にとってものすごく大きなメリットですよね。


4.アート側とビジネス側が巧くやってるのね

演劇集団の多くは「アート至上」で、ビジネス面の大成功を目指すことを「卑しい」と考える風潮さえあり、財務や管理、マーケティングのために有能な人を(=高給で)雇ったりしません。

劇団四季はIPOしないという判断、しっかりした提携企業を選びながらも、特定企業に依存しない提携戦略、儲からない専用劇場を閉めて撤退する、つまり「辞めるという判断ができる」など、ビジネス側の判断がしっかりしていると感じます。

アート側の人がビジネス側の仕事の価値を理解・尊重しているからここまでこれたのでしょう。


5.ここから先は微妙かなー

S席一般客9800円のチケットはかなり割高な感じです。この値段で家族でリピートは相当厳しいでしょう。修学旅行などでは相当割引していると思いますが、チケット価格を(水面下で)多様化させるのは諸刃の剣です。

10個もの大型専用劇場を抱え、バブル崩壊もリーマンショックも乗り越えたのは立派です。ただ、固定費ビジネスは稼働率が下がると一気に厳しくなります。日銭がはいるという強みはあるものの、今後の消費人口の変化、景気動向、ネットを含むエンターテイメント市場の変化に彼らがどうついていくのか、次のチャレンジかもと感じました。すくなくとも専用劇場がこれから15,20と増やせるとは思えません。


6.他の劇場・劇団との違い

劇団といえば、「カリスマスターとその仲間達」でやっている小規模なところが多く、そもそも規模の拡大を目指すところ自体が少ないですよね。質的にはとてもユニークなところが多くて素敵ですが。

よしもとも専用劇場を持っていますが、あそこは「芸人派遣業」が本業なので劇場はやや位置づけが違うように思えます。

宝塚歌劇団とAKB48は同じ専用劇場型ですが、基本的に「コアのファンだけでやっていきます」戦略という点で、やはり四季とはちがうっぽい。

松竹は映画や伝統芸能など複合エンタメ企業ですが、規模や利益などビジネス的な目標をもつ、という意味では似ている形態かもと思いました。

伝統芸能(歌舞伎と能)は専用劇場です。劇団四季もミュージカルですが、その特性として「舞台装置」が大掛かりで複雑ということがあり、どうしても専用劇場が必要(少なくとも長期契約が必要)なのですが、この点では歌舞伎、能、ミュージカルって似てるかも、と思いました。


などなど、アイーダを観ながらそんなことばっかり考えてました。


そんじゃーね。