半藤一利氏の『昭和史』を読みました。
半藤氏は、『週刊文春』や『文藝春秋』の編集長をつとめ、その後は作家となって、昭和史に関する様々な本を書かれています。
この本のあとがきに「昭和の語り部」とあるように、半藤氏が生徒に語りかけつつ、授業をする感じで書かれていてとても読みやすい本となっています。
「日本政府はこんなアホなことをしていたのだ」的なカジュアルな文章なんだよね。
また、「時系列に語る」という歴史の勉強には最も適切な方法論でまとめられていて、何がおきていたのかよくわかります。
深い内容なのでひとつのエントリで感想を書くのは難しいのですが、とりあえず印象に残った点について書いておきます。
★★★
冒頭で、半藤氏は「日本の近代史を40年ごとのアップダウン」で表現しています。
ペリーの開国要求を受けて幕府が倒れ、最後まで攘夷(=外国を追い出せ!)を唱えていた朝廷が、最終的に開国要求を受け入れざるを得なかった1865年が近代日本のスタート。
そこからたった 40年で日本は近代国家を作り上げます。
脱亜入欧で欧米を真似、文化的にも急速に洗練され、経済的にも、そして軍事的にも先進列強の仲間入りをした日本は、日清・日露戦争の勝利で大きな(過大な)自信を得ます。
その日露戦争の勝利が、明治の開国からわずか 40年後= 1905年なのです。
★★★
しかし次の 40年。日本は、無謬性を信じるエリート集団の思考停止リーダーシップにより、軍国主義と無謀な戦争へ突っ走り、ひたすら破滅への道を進んでしまう。
そしてボトムが 1945年の敗戦。
★★★
ところがその後、またもや日本はたった 40年で“Japan as No.1"と呼ばれる立場までの復興を遂げます。
お手本にしていた欧米にたいしても、様々な製造品で圧倒的な勝利。この時期、貿易戦争の勝者は日本だけでした。
これが焼け野原からたった 40年後に訪れた 1985年以降のバブル経済です。
★★★
が、その後、日本は再び下り坂に向かいます。
そして、次の 40年・・無謬性を信じるエリート集団の思考停止リーダーシップにより、官僚主義と無謀な国債発行へ突っ走り、再び破滅への道を進みつつある日本。その結果が・・・てな感じのことを図示すると下記のようになります。
この 40年アップダウン説が正しければ、あと 15年は日本はどんどん破滅に向かって進んでいく予定。。。ふむー。
★★★
この本のおもしろさのひとつに、当時の人や新聞の言葉がそのまま書かれていることがあります。これにより、その頃の空気感や煽られ方がよくわかるんです。
たとえば、真珠湾攻撃が大成功で終わったその翌日の知識人たちのコメントは下記です。
小林秀雄氏(評論家)
「大戦争がちょうどいい時にはじまってくれたという気持ちなのだ。戦争は思想のいろいろな無駄なものを一挙になくしてくれた。無駄なものがいろいろあればこそ、無駄な口をきかねばならなかった。」
亀井勝一郎氏(評論家)
「勝利は、日本民族にとって実に長い間の夢であったと思う。すなわちかってペルリによって武力的に開国を迫られたわが国の、これこそ最初にして最大の苛烈きわまる返答であり、復讐だったのである。維新以来、わが祖先の抱いた無念の思いを、一挙にして晴らすべきときが来たのである。」
横光利一氏(作家)
「戦いはついに始まった。そして大勝した。先祖を神だと信じた民族が勝ったのだ。自分は不思議以上のものを感じた。出るものが出たのだ。それはもっとも自然なことだ。」
それぞれ、時代を代表する大御所の知識人です。
その彼らが、これだけ戦争開始をポジティブに評価していた。
びっくりですよね。
さらに、もう日本が全くお話にならないくらい負けて疲弊して食べるものもなくて死にそうになっていた 1945年 7月 28日、前日に届いたポツダム宣言について各マスコミが報じた内容が下記。
讀賣報知新聞 「笑止 対日降伏条件: 戦争完遂に邁進。帝国政府問題とせず」
朝日新聞 「政府は黙殺」
毎日新聞 「笑止! 米英蒋共同宣言、自惚れを撃砕せん、聖戦を飽くまで完遂」
“笑止”はないんじゃないの? と思いますよね。
この時期には既に、南方に送られた兵士の多くは戦う前に(食料不足で)餓死しつつあり、弾も燃料も無くなった日本軍は若者に「志願」をさせて、敵艦に突っ込ませるという特攻隊で戦争を続けていたというのに。
マスコミも軍部も政治家も、日本のリーダー達は、続々と無駄死にしていく若者のことなど一顧だにせず、この期に及んでまだ能天気な煽りを続けていたわけです。
死んでいく若者のことなんて全く眼中になかったのでしょう。←なんか今と似てない?
しかもこれ、原子爆弾が落ちる前のことです。
つまりポツダム宣言をこのタイミングで受諾し敗戦に持ち込んでいたら、日本はアメリカに、原爆を落とす余地を与えずに済んだんです。もちろんソビエトの参戦も防げていました。
★★★
というわけで、いろいろ勉強になりました。昭和の現代史って学校では本当に全然学ばなかったりするのだけど、この本に書いてあることくらいは日本人として知っておくのがあたりまえ、と思える内容でした。
それと、この本には続編として戦後篇もあるのですが、こちらの内容も本当にすばらしいです。上下巻ともキンドルになっています。分厚い本なので電子書籍がお勧めかな。
読んだ感想をまとめておいたのでご覧ください ↓
今、日本が抱えている問題が、戦後どのような流れで形成されてきたのか、手に取るようにわかります。
『昭和史 戦後篇』