“内需特需”を補助金争奪戦に終わらせてはあかんです。

1ヶ月前に「今はセーフティネット、危機管理が必要」*1と書きました。そしてこの年始年末はまさに“危機管理”に追われてる感じですよね。特に霞ヶ関、日比谷公園あたり・・

ただ、いつまでも炊き出しとテントと生活保護で暮らせるわけでなし、今後は“いかに雇用を生み出すか”が大事になります。政府も“雇用ニューディール”とか言い出してるみたいですし、ここは民ではなくまさに国が主体となる必要のあるタイミングです。

また昨日書いたように外需に頼った雇用創出は当面無理。なんとか“国内需要のための雇用”を創出する必要があります。ここまでは各方面、そんなに意見の相違はないように思えます。


が、意見が分かれるのは、またこれからも相当議論がぐちゃぐちゃになりそうなのは、「じゃあ、その内需分野ってのはどこにするのさ?」という点。この点について議論がすんなりいかない理由はとても明白。それは、「国が税金で内需を興す」ということは、「税金を、特定の産業、職業、分野に投入する」ということだからです。わかりますよね。これって別名を「補助金」と言うものなのです。

たとえば「農業で内需を興そう!」ということになれば国のお金、いや国民のお金である税金は農業関連者に投入されるのです。「教育分野に内需を!」ということになれば、そのお金は教育分野の企業の売り上げになり、その分野で働く人の雇用を増やし、その人達の給与の源泉になる。これまで多かったパターンだと「公共事業で内需を下支えする」というお題目でゼネコン業界に税金を流すというやつね。

なので、そりゃー、もめるよね。取り合いになります。「その内需をオレにくれ!!」となる。意味は「その補助金はオレのポケットに!!」ということだもの。もしくは「オレの天下り先に補助金を!」かな?


今、内需を盛り上げる必要性があるという点については、上記にも書いたようにあまり反論がない。でも「どの分野に?」という各論に入るとおかしなことが起こるのは、この「内需特需」へ群がる人達がたくさんいるから、ということです。

実際、雇用ニューディールもそうなのですが農水省を含む政府や政党が出してくる案には必ず「農業」という言葉が入ってます。(ひどいのになると“林業”とかまで入ってます。)

なんで自分の長男にさえ継ぐことを勧めない農業が“内需振興の有力分野”なんだか、これでよくわかるでしょ。

「農業分野にできるだけ多くの補助金を誘導する」ってのはこの国の旧体制側の官僚、政治家等々の“生きる意味”みたいになってるわけで。いつもなら都市在住国民から非難ごーごーの“農業補助金”も“内需拡大が必要!医療、介護、農業分野で!”とか言えば、なんとなく通っちゃう、と思っているらしい。

笑えます。

★★★

というわけで、この「どの内需分野に税金を投入すべき?」ってのは、もう少し幅広く国民全体で議論した方がいいよね、と思います。官僚側、政治家側、産業界側からの「どこに補助金を配分するか」という視点ではなく以下の3つの基準で考える必要があるんじゃないかなっておもいます。


(1) どこが国民生活のためになる分野なのか?
(2) どこが雇用を増やす分野なのか?
(3) どこがレバレッジの大きな分野なのか?


(1)の意味は、「いまさら地方に公民館だの美術館だの建てるのもないだろうし、高速道路をこれ以上延ばすだの新幹線をもっと先まで建設だの・・。それも違うよね。」ということ。もちろんそういった土木工事でも雇用は増えますが、国民生活のためになるのか??というとちょっと違うよね。まずは私たちが「これからの日本、この分野にこそお金を投入したい!」と思う分野にしないといけないわけです。


(2)に関しては、“国民生活にたいする価値はあるけど人手を必要としない分野”は今回は優先順位が低いですよ、という意味。たとえば「環境への投資」とか言う人がいるけど、多くの環境関連技術ってのは人手がたいしていらないのですよね。一部の技術者の雇用にはつながっても多くの雇用を生んだりしない。

“人海戦術でゴミの選別をするのだ”とか言うならともかく、大規模な風力発電だのソーラー発電だのを推進しても、もしくは電気自動車を普及させても、たいして人手=雇用数が増えないです。なので、これは大事なことだが、今の優先順位は高くないんじゃないか、とちきりんは思ってる。反対に、たとえば介護ってのはまさに人手がかかる分野ですよね。


(3)に関しては、お金は無限にあるわけではないので、出来る限り“一度投入したお金が「次の内需を生む」という良循環を生むところ”にお金を投入すべきですよね。定額給付金が評判悪いのはこの理由でしょ。大半の人は1万〜数万円(家族で)もらっても、「だから今月の支出を数万円分、先月より増やす」というようにはならないよね。そんなとこにお金を突っ込むのは本当に馬鹿げてます。

でも下の子供を預ける保育園が見つからないから働けない、というお母さんのために保育園を作ることにお金をかければ、保育士が雇われるだけではなく、お母さんは働いてお金を得て、そのお金を上の息子の塾の月謝として払い、塾は講師を雇おうとなり、その講師は新しいゲーム買おうかな!と思う、というようにお金がつながっていく。だったらこっちのほうが優先順位高いよね、ということです。

★★★

つまり、考えるプロセスは、

ステップ1:「内需振興分野として、この分野にすべきだ!」という案をできるだけ幅広く、たくさん募り、

ステップ2:上記の3つの基準に照らして優先順位をつけて、

“どの分野に税金を投入して内需を振興するのか”決めていく、というプロセスであるべきなんです。


適当に「医療、介護、農業」とか、
「林業も!」とかいう、どさくさ紛れの補助金争奪合戦にしてしまってはいけないわけ。



というわけで、まずはステップ1をやってみればいいと思う。「どの分野に内需を興すべきだと、みんな思う?」ってのを、国民皆が考えてみればいい。この段階では、その分野が優先順位が高い分野かどうかは考える必要はない。それはステップ2で検討すればいいことだから。

ステップ1では、とにかく広く、多くのアイデアを募ることが大事。



ちきりんはこの前、「東尋坊で失業者の自殺が増えてるなら、失業者をやとって警備させれば?」と書いた。そういうのもアイデアの一つとして考えればいい。

“命の電話”もボランティア不足でつながらないらしいけど、それもボランティアに頼らず行政が人を雇って育成して公的サービスとして運営したらどうよ?日本は世界でも異常に自殺の多い国。それをこの機会に改善するってのもアリじゃない?全国で6000人以上足りないらしいからそれだけの雇用が生みだせるってことだし。


ほかにはどんな内需市場がある?

教育もあるかも。一気に20人学級とかにしちゃえばどう?新規の教育学部卒の教師ではなく、既存の教師と同じ数の「中途採用の社会人教師」を採用してしまう、ってのもひとつの手ではない?


限界集落的な村に介護保険事業とは違う形の公的サービスを充実させていく、てのもあるかも。たとえば一人の労働者が10人くらいのお年寄りを担当して、買い物とか病院への同行とか切れた電球を替えるとか振り込み詐欺の防止とかを担当するとかね。毎日車で巡回してお弁当を届けながらそういう仕事だけをする人を市や村が雇う。

ニーズもありそうだし、雇用も生み出すし、それだけで施設に入らないで一人で暮らせるようになる人が少しでもでてくればその分の税金負担も減らせたりするんじゃないかと思ったりする。


育児の分野も人手が必要なところ、結構あるよね。24時間で子供を預かってくれたり、突発的な用事の時に、また少々の熱があっても預かることのできる体制を整えることは、少子化を解消していくために必要なひとつの方策だろう。



というわけで、ちきりんごときが考えてたって限界ありありなので多くの人が知恵を出し合えばいいかなと。この「どこに内需を興すべきか」という議論は、まさに「平成日本版のニューディール政策の中身を考える」ということです。これ、広く国民みんなで考えていくいい材料だと思うんだよね。なぜなら自分たちの払った税金の使い道を決める議論であると同時に、“日本をこれからどうしていきたいの?”ということにもつながる議論だから。


「さあさあ人手が余っているよ!ちょいとそこのお兄さん、どこで何をやってもらうべきだと思うかね?いらっしゃいいらっしゃい。どんなアイデアも歓迎だよ!」みたいな感じでね。


いや、もうちょっとまともな言い方にすれば、
「みなさんの周りで、
“これは長期的に変えていかないといけない点だと思う!”
ということで、
“人手がかかること”
があれば、是非教えてくださあい!」


みたいな感じ。で、でてきたアイデアをまな板にのせて、基準3つでそれぞれ評価していく。そして「どれから順に、どうやって内需市場(雇用)を作っていくか」を検討して、予算をつけ、最後にハローワークなどを通して大規模な労働者移動と労働者育成を推進していく、みたいなことができればいーんじゃないかと思う。

前にも書いたけど、約1000万人分の正規雇用市場が必要です。*2大きな数字だけど、前向きに考えれば「これだけの人手があれば相当のことができる!」ともいえる。「それだけいれば、あれもできる、これも実現できる!」って感じでしょう?


というわけで、賢明なるちきりんブログの読者の方は、最低ひとり一個は考えてね!!


ではでは〜


*1:“あまりに危機感のない人たち”=http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081202

*2:“1000万人を正社員に!とか”=http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080802