微妙なバランス感覚が問われるふたつの市場の使い分け

ちきりんはブログを始め、最近はいろんなとこで文章を書いたりしてるわけですが、コンテンツの作り手である「ちきりん」と、その文章の最終消費者である読み手をつなぐ場(仕組み)には、「直接市場」と「間接市場」の2つがあります。

ちきりんのメインフィールドである、この「Chikirinの日記」で文章を公開することは、「直接市場」を利用したコンテンツの提供です。直接市場では、ちきりんはほぼ自分の意思だけに沿って、自分が発信したい内容をそのまま読み手に伝えられます。

スケジュールやその形式についても完全にちきりんがコントロールできます。書きたくなければ書かなくてもいいし、短くても長くてもいいし、更新日もいつでもいいです。

ここで“はてな”(ブログサービスの提供会社)は、直接市場のインフラ会社として存在しており、ちきりんの提供するコンテンツ内容や発信方法に影響を与えることはありません。


一方で、ビジネスメディア誠などネットメディアにコラムを書いたり、書籍を出版して、ちきりんの文章を読み手の方に届けるのは、「間接市場」を介したコンテンツの提供方法です。

この場合、ネットメディアや出版社の方が「自社メディアに載せて流通させたい」と思うコンテンツだけが掲載されるので、ちきりんが「これを載せて欲しい!」「これを出版したい!」と言っても、それがそのまま記事になったり本になったりするわけではありません。中間メディアである企業の責任者の方が気に入ったもの(妥当だと判断されたもの)しか、読み手には届かないわけです。

また当然に、スケジュールや文字数、形式について様々な要請やルールがあり、それを守った形でコンテンツを提供する必要があります。とくに既存のテレビメディアを介する場合は、各種の制約は相当に大きなモノだと思います。

さらに、時には形式やスケジュールだけでなくコンテンツの内容にたいしてさえ、中間メディアの嗜好や意向が反映されます。これはかならずしも中間メディア側が圧力をかけるという話ではなく、提供側が営業的な観点から自主規制することがありえるからです。


しかしながら、間接市場を介してのコンテンツ提供には大きなメリットもあります。第一に、伝播力にレバレッジがかけられる、ということです。たいていの場合、直接市場におけるコンテンツ・クリエーターの伝播力は、中間メディアの伝播力には全く及びません。(マンガ市場などその典型でしょう。)

読み手の数だけで言えば、堀江貴文さんのような方なら直接市場だけでも相当の伝播力があります。でも、たとえば「地方の高齢者にコンテンツを届けたい!」と思えば、地方新聞や地方テレビ局のような中間メディアの伝達力をもつ人は未だ存在しません。

コンテンツの作り手は、多種多様な中間メディアを通して発信することで、様々に異なる市場に、大きなレバレッジをかけてコンテンツを届けることができるようになるわけです。


間接市場のもうひとつのメリットは、よく言われているように、マネタイズの仕組みがしっかりしている、ということです。これも堀江さんなどはメルマガの収入だけでもすごい額らしいので、例外がないとはいいませんが、大半の人にとっては、間接市場の方がマネタイズは簡単だと思います。(あとでも書きますが、メルマガがどちらの市場の仕組みなのかという点はやや微妙です。)


ただ、伝播力が強くてマネタイズが容易だからといって、中間メディアを介してのみ発信することのリスクは、今や多くのコンテンツの作り手が感じているところでしょう。

たとえどれだけコンテンツが読み手に支持されていても、中間メディアの意思決定者に気に入られなければ(ある日なにかで、それらの人を怒らせれば)、コンテンツの作り手は意見の発信場所を維持できません。

特に中間メディアの大半は規制業種なので、価値観も行動様式も似通っています。なので、いったん「こいつは使うな!」となれば、全メディアが特定のコンテンツ供給者を拒否することも起こりえます。


だからといってそれを避けようと、中間メディアの意向を過度に慮かる発信ばかりをしていたら、今度は直接の読み手からダメ出しをされてしまいます。また、(よほどの売れっ子を除き)中間メディアとコンテンツの作り手である個人の力関係は圧倒的に前者が強いので、流されるような仕事をしていたら、いいように使われて終わりです。

そういったことを考えると、直接市場において一定規模の最終消費者とのパイプを維持しておくことも、発信者にとっては非常に重要です。直接市場でのプレゼンスの大きさは、発信者が中間メディアと交渉する際の唯一かつ最大の切り札だし、万が一の場合の「足腰の強さ」にもつながります。

(株式でも、少数の機関投資家に過半の株式をもたれているより、多数の個人投資家が株を保有してくれていた方がメリットが大きいことがあるのと同じです。)


★★★


この「直接市場」と「間接市場」をどう使い分けるか、どういう組み合わせや割合で使っていくか、というのは、今、コンテンツの作り手にとってとても重要な判断になりつつあります。

直接市場がほとんどなかった昔は、もっとシンプルでした。


ステージを追って書くと下記のような感じだと思うのですが、これでいえば、昔はステージ2がゴールだったわけです。ところが最近はステージ3が見え始めたので、話がおもしろくなってきました。


ステージ1:直接市場で最終消費者の支持を集める。
ステージ2:間接市場を利用して、知名度を上げ、最終消費者の裾野を広げ、マネタイズする。
ステージ3:重要な部分(価値的な意味と経済的な意味で)を直接市場に再移管する。


(ちなみに、コンテンツに限らず、物販でも同じです。
ステージ1:地元で大人気のケーキ屋さんが
ステージ2:楽天市場で大人気。全国区人気へ!
ステージ3:自社販売サイトの直販比率アップにトライ! みたいな)


ここのところ、ステージ3に関する様々な変化のスピードはついていけないほど速くなっています。

今までほとんど不可能であった「直接市場におけるマネタイズ」の方法もそれなりに整ってきました。直接市場におけるインフラを提供する企業が次々と現われているからです。しかしそういった仕組みは、いつ何時廃れてしまうかもしれません。そうすると、それをみこして、自分でその仕組みを作ろうとするコンテンツ・クリエーターもでてきます。

また、既存の中間メディアの淘汰、衰退が進む中で、新しい中間メディアがどんどん産まれています。たとえば“メルマガ配信会社”やニコニコ動画(ニコニコ生放送)などは、新しい中間メディアなのか、直接市場のインフラのひとつと捉えるべきなのか、ちきりんにはまだよくわかっていません。さらに、SNSなど“ソーシャル君”が、一定の伝播力を身につけつつもあります。


もちろん今でも「ずっとステージ2で稼ぎまくるのがゴール」というモデルの人もたくさんいるのですが、これからは多くの(しかも力のある)コンテンツの作り手は、当然にステージ3を強く意識した戦略をとってくるだろうと思います。今後、誰がどんな感じでこのへんをコントロールしていくのか、けっこう興味深いところです。


そんじゃーね。