パナソニック、ソニー、シャープなど日本を代表する家電メーカーの深刻な業績不振が発表されています。
昨年は、天災・原発事故、タイの洪水、ユーロ危機や円高と、外部環境に突発的な悪条件が重なっており、すべてが経営責任だという気はありません。
けれどもう少し長い視点でみれば、「実質的にはずっと前に終わっていて、リーマンショックによってトドメをさされた事業が、政府から補助金をもらったり(エコポイント)、地デジ移行という一時的な外部環境(好条件)のために、数年だけ小康状態を保てていた」とも言えます。
「ソニーのテレビ事業が 8年赤字」と聞けば、誰でも「そんなに長い期間、赤字をたれながしている責任は誰がとってるの?」とも思うし、「これでまだ(なんの具体策もなしに)テレビは重要商品だから撤退はない」とか言い切れるって、すごい余裕だな」とも感じるでしょう。
でも、ちきりんが最も深刻な問題だと思うのは、そこで働いている技術者の力が、8年もの間ムダにされているということです。
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ソニーで働く人達は、新卒入社の段階では日本で最も優秀なエンジニアの卵だったはずです。その人達が一生懸命働いて8年間、一円の価値も生んでいないなんてびっくりです。
想像してみてください。一流大学で修士課程まで学び、25歳で日本を代表する企業に選ばれた優秀な若者が、33歳時点で「まだ一円も稼いだことがない」んです。
もちろん給与も賞与ももらっているでしょう。でもそれは他部門の人が稼いだお金から、もしくは、過去の人が稼いでおいてくれたお金(留保分)から、もしくは借金から、まわしてもらったお金です。
20代、30代をそんなところで過ごした人が40代になった時、「世界で売れる、儲けられる、市場が認める価値がある事業」の指揮をとれる“事業リーダー”になれるんでしょうか?
自分の仕事に置き換えて考えてみて下さい。過去 8年間、一円も儲かっていなかったらどう感じますか?
成長できますか?
やる気を保てますか?
自分は意味のある、価値のある仕事をしていると胸を張れますか?
こういう状況に、日本で最も優秀な人達を幽閉していることの罪は、余りに大きいと思うのです。
なんで彼らはこんな「罰ゲーム」みたいな部門で、働き盛りの 8年間もの期間を無為にすごさねばならないのでしょう?
「人材しか資源がない」と言われるニッポンで、優秀な人材をずっと儲からないセクターで囲い込む。この壮大なる資源の無駄遣いこそ、日本経済が未だ浮上できる兆しも見せない大きな要因のひとつだと思います。
<日本の製造業に関する過去エントリ>
・ 「2ステップ方式の限界」
・ 「オーバースペックの本質」
・ 「グローバリゼーションの意味」
・ 「グローバリゼーション ステージ2」
・ 「3Dテレビとかマジなのか?」
・ 「エアコン設計に見る昭和的発想」
・ 「SANYOの電子レンジ」