24兆円 捻出作戦!

前に原油価格が7倍になるというのは、ロシアと中東の財産の価値が 7倍になることを意味すると書きました。(http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080607

一方日本にとって原油価格が 7倍になるというのは、「同じ量の原油を買うのに必要な資金が 7倍になる」ということです。


ふーん

で、それっていくらなの?


そもそも、日本って毎年何バレル原油を輸入してるんだ?

ってのを調べると、過去 35年、年間で 2〜3億キロリットル輸入してるみたいです。

輸入量にずいぶん幅がありますが、一番多いのが石油ショック前の「放漫消費」の時期で 3億キロリットルに近い。

2度の石油ショックを受けて、省エネや原子力へのシフトで少しずつ減り始め、でも、バブル時期に景気とともにまた輸入量が増大してまた 3億キロリットルを狙う勢いだったけど、その後はバブルがはじけて不況になるにつれ輸入量が減少、という感じ。

石油ショック以降はだいたい景気と相関している感じです。

ちなみに 1キロリットル= 6.29バレルなので、バレルに直すと年間 12.6億バレルから 18.9億バレルくらいなんですが、とりあえず間をとって「日本が一年に輸入する原油= 16億バレル」とおいてみましょう。これは大体直近の輸入量にも近いので。

16億バレルの原油の価格は、
・1バレル20ドルの安定時期には 320億ドル= 3.8兆円(@120円/$)
・1バレル40ドルの2年前には 640億ドル= 7.7兆円
・1バレル145ドルの現在は 2320億ドル= 27.8兆円

というわけで、5年前までは4兆円弱しか払ってなかったのに、今や28兆円いりますよ、というのが、日本が原油を手に入れるために必要な額ってことなんです。差額で24兆円分です。

★★★

この24兆円の意味はなにか?というと、日本の消費者からロシア人とアラブ人へのプレゼントというか、所得移転分ですね。しかも一回じゃなくて毎年ね。

毎年毎年 24兆円ずつプレゼント!
すごいな。

これ以外に食料もあがってますから、別途その値上がり分を、日本人の消費者はブラジル、オーストラリア、中国などの食料輸入元の国々に支払ってるわけですが、今はとりあえず原油に限定して考えましょう。

24兆円の大きさはどう想像すればいいか、ということですが、いろんなもんと比べてみましょう。

日本人全体が一年で払う消費税の総額がだいたい 10兆円なんで、その2.4倍です。

消費税 5%で 10兆円入ってきてて、これを 15%に増税すると 30兆円入ってくる。その差額が 20兆円。

これが最近よくでる消費税増税のお話ですが、原油値上がり分の 24兆ってそれより大きい、ってことです。

もうちょっと意味のあるものと比べましょうかね。日本の個人消費の総額が 250〜 300兆円くらいですから、24兆円ってのはだいたい個人消費の 1割です。

すなわち月に 30万円消費している家庭なら、大体 3万円くらい「原油高」のための値上がりが生じている、もしくは今後生じる、ということになります。

結構でかくないですか?

ってか実際にはこれ以外に食料の値上がり分も加わるわけですから、下手すると 2割くらい「支出が増えますよ。アラブとロシアと中国とブラジルにプレゼントしなくちゃいけないんでね」ってな感じなわけです。

で、当たり前ですが所得がそんなに増えるわけではありません。

ってか収入なんてもうほんと伸びないですよね。すると、同じ生活をするために、この 1割分をどこかで切り詰める必要がある。


何を切り詰めるか?

食料?

携帯電話代?

外食費?

車を手放す?

旅行をやめる?

もし、食料を減らせば農家とスーパーマーケットの売り上げが減ります。
携帯電話代を減らすとドコモやSB,auの収入が減る。

外食をやめれば外食産業の売り上げが減り、車を手放せば自動車産業の売り上げ、旅行をやめれば交通機関やホテル、エンタメ業界の収入が減ります。

そうなればそういう産業で働いている人の給与も減るでしょうし、株主も配当が減ります。

★★★

コンビニは夜閉めろ!みたいになってますが、コンビニの年間総売上は 7兆円。

コストで大きいのは人件費と仕入れ代金ですよね。

電気代ってどれくらいだろ。1割いくかな。1割として 7千億円。これを夜 8時間閉めると 3分の 1ですが、冷蔵庫は消せないとかその通りなので 5分の 1くらい減るとして 7千億円÷5=1400億円。

これが、電気代の節約分です。このうち、原油価格の寄与分はもっと小さいですよね。半分以下とか3分の 1とかでしょ。つまり数百億円分の原油を節約する、みたいな話です。

(注:かなり適当な試算です。今、コンビニ業界あたりが必死で計算してると思います。“意味ありませんよ”という結論を導く試算をね。多分もっとグッと小さくでると思うんだけど。)

話がずれてますが、何がいいたいかというと、原油値上がり分の 24兆円を、とにかく日本国民が全体でなんとか捻出しなくちゃいけないってことなんです。

実際には食料も、その他の石油商品(大半の衣類とか軽工業系の生活用品)も輸入してるものはすべてあがるはず。

若干乱暴だがざっくりいって「今までと全く同じ商品を買うのに」だいたい 50兆円くらいはたくさん払う必要がでてきますよ、ってことなんだと思うのよね。

そうすると、その 50兆円を別のところで使っていた分から回さなくちゃいけない。

個人消費の 15〜20%分を「何か別のものを買うのをやめて」「今までと同じ量の石油、食料、石油系製品をかう」ために振り向けなくちゃいけなくなるわけです。

個人の消費がそういう動きをとるとね、それはつまり、どこかの業界から50兆円分の「売り上げ」が消えるってことなんですよね〜。


今でている議論は、コンビニにそのうちのいくらかをもってもらいましょう、って話で、それ自体が意味不明だしどーでもいいのだが、いずれにせよんなもんで済むわけではない、ということは皆理解しておいた方がいい。

皆さん、自分の消費の 1〜2割を節約しなくちゃいけません。何を節約しますか?

みなさんが節約する商品を扱っている企業と産業が、その分の「売り上げ」「市場規模」を失います。そして、その業界で働いている人の給与もね。

ん〜、もしかすると失われるのは給与じゃなくて職そのものかも?


そんじゃーね


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