“深読み”ちきりん

だから、こーなることはわかってたでしょ。↓
  これから世界で起こりそうなこと列挙


なのに、こーだからさ〜。↓
  あまりに危機感のない人たち


でも契約社員が大量に解雇されつつある大規模な工場のある自治体の一部では市町村が動き始めたようなので少しよい感じかも。

とてもおもしろいと思うのは、「国」ってあんまり動いている感じがしないでしょ。雇用対策とかいって“渋谷ロフトの見学”してるような総理に率いられてちゃ当然かもしれないが、国のやる政策って定額給付金にしろ、“6000万円以上の家を買う人のための住宅ローン減税”にしろ、“土日に自家用車で高速道路を走り回る人への優遇策”にしろ、この期に及んでピントはずれもいいとこじゃん。“なんやねん?”って感じでしょ。ところが、大規模な工場を抱える市町村は、とりあえず市役所で人を雇うとか、空いてる部屋を貸し出しにかかるとか、いろいろ始めてるわけです。

地方の方が圧倒的に危機感があり、具体的な手を打とうとしている、とちきりんは思うわけ。

なんでこうなるかっていうと、それはつまり「他人事じゃないから」ですよね。地方の街にとって千人近い人が働く大工場は、街のすべて、と言ってもいい存在になっている。そこで働く派遣社員のうち数百人が失業するというのは、“具体的に目に見える危機”なわけです。街のあちこちにホームレスの若者が溢れるかもしれない。寒くて凍死や餓死する人がでてきてもおかしくない。彼らに部屋を貸していたアパート経営のおじいちゃん、おばあちゃんも困窮するだろう。定食屋だってスーパーだって潰れてしまうかもしれない。犯罪が増えたらどうしよう。

地方の行政単位にとって、それは「テレビニュースの世界」ではなく、「おらが街の一大事」なわけです。だから“早く手を打たなくちゃ!”と思うし、本当にニーズのあることにフォーカスしていく。“正月明けに出社してみたら、道端で人間がうずくまったまま凍ってたり”したら、洒落になんないぜベイビー!って思うわけです。危機感が違う。


霞ヶ関から日本全国を見ていても、こういう手は打てないんです。それはあの人達がアホだとかやる気がないということとは別に、“無理”なんです。

だってまず第一に“見えない”でしょ。ニーズが。どこで具体的に何が必要なのか、中央で全部見るなんて誰にしたって無理です。そして危機感がもてないんですよ。遠い地方の街でホームレスが溢れることを想像するのは、その街を全く知らない人にはやっぱり難しい。*1

霞ヶ関の人達にとっては、これからの財政刺激策も含め超巨額になるであろう財政赤字の方がよほど危機感を感じる全く以て恐ろしいことなんです。そっちの方が“派遣切り”なんかよりよほど背筋の寒くなるリアルティのあることなんです、彼らには。だから「3年後に消費税増税」という文字をなんとしても提言書に入れさせることに血眼になり必死になる。悪気があるわけじゃないんだろうけど“いや今そんなことして何になるん??”ってなことを一生懸命にやっている。

地方のニーズは本当に様々に違ってきている。日本中どこもかしこも新幹線を欲しがり、高速道路を欲しがり、住宅と家電と車を欲しがっていた時代とは違う。

高齢者しかいないのに民間の介護企業が全く進出してこない超高齢化村落と、大規模工場で大リストラが行われつつある地方中堅都市と、社会保障に守られていない外国人が大量に居住している街と、東京都心のような大都市では、全く行政ニーズが違ってきているわけです。中央では効果ある政策がタイムリーに打てない時代になってるですよ、ということ。


だ・か・ら

地方分権が必要なわけ。


みんな今回よく見ておけばいいよね。一番頼りになったのは誰なのか。次の体制は「その人に予算と権限を与える体制」にする必要があるんだよ。ってことなのさわ。10年後に道州制の是非が議論になるから、よーく覚えておいてね!!という気がします。

★★★

もうひとつ気がついた興味深い点。契約社員の解雇について、「来年3月まで契約が残っているのに、いきなり解雇された」という例がよく報道されてるでしょ。一応30日前の通知はやってるところが多いようですが。

んでね、この“有期契約期間中の契約解除が違法なのか違法でないのか”が報道で全然言及されないのが不思議なのよね。本人のインタビューやナレーションでは“契約期間は残っているのに解雇通告をされた”と言うのだけど、コメンテーターやアナウンサーは「合理的な理由がない限りこれは許されないんです。」とか「断固戦ってほしい!」という言い方をほとんどしないんですよね。

新卒の内定取り消し問題の場合だと、「合理的な理由がない限り、内定取り消しは許されない。」「不当な扱いに泣き寝入りせず、断固戦って欲しい。」等の勇ましいコメントを連発してたのに、です。

なんで期間工や契約社員の人のほうの問題を報道する時は「可哀想ですね」とか「行政の迅速な対応が求められますね」的な報道に終始するわけ??なんで「不当だ」「戦え」と言わないの???戦ってる労組の人はカメラで映しまくるのに、アナウンサー自身が「不当です!」「戦うべきですよね!」となぜ言わない???法律的にはこれ、同じような問題のはずなんだけどな。



で、想像するにおそらく、内定取り消しをやってるのは不動産業者などで比較的小さな企業、せいぜい中堅企業まで、が多いんだよね。つまり“テレビでCMをたいして流していない”企業なんじゃない?もしくは(今でも既に潰れそうで)これからCMをしてくれるとは思えない会社ばっかり。

ところが一方、工場の契約社員や期間工を大規模に切っているのは、ごぞんじのとおり自動車産業や電気産業の、いわずとしれた超一流の大製造業様。一定の売り上げをあげるためには(少々は減らすでしょうが)まだまだCMの大口スポンサー様様、なわけ。*2



にゃるほどね〜。

って気がしたですよ。


だから「断固戦え」って言わないわけね?
だから「不当だ」「違法だ」と言わないワケね?
「可哀想ですね」「行政がなんとかしないと」みたいなことしか言わないのは、“だから”なわけね?




最初に紹介した以前のエントリに書いたように、実体経済の落ち込みはまだまだこれからが本番。相当悲惨なこと含めいろんなことが起こると思うけど、こういう時こそきちんと見ておきたい、と思う。何が起こるのか、誰が何をするのか、社会はどう動くのか。こういう時でないと見えないものがある、って思うから。



ん〜   じゃ。


★★★

本日のエントリは“ちきりんA”の執筆でお送りしました。*3
ただし青字部分は、“深読みちきりん”が監修いたしました。




*1:ちょっとずれるけど、舛添さんが公的な住宅のあいてる部屋を視察してて(あれはあれでいい案だと思いますが)、“収納棚もあっていいね”とか言ってて・・・吹き出しましたよ。収納棚??誰もんなこと気にしてないってば。

*2:舛添さんの態度も違う気がする。多額の与党献金をくれる経団連企業の方は仲間の狢だからか?

*3:“ちきりんA”って何?という方は、この日のコメント欄をご覧ください。→http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081203