915(きゅういちご)

あ〜、リーマン・ブラザーズぶっとびましたね。びっくり。

かなりの衝撃を受けているちきりんです。これ、日本でいうと長銀の破綻の時より大きなインパクト、だと思います。“投資銀行”と“IT”というのは「アメリカを代表する産業」なんです。その“国を代表する産業の大手企業”が、しかも事実上二つも一緒にぶっ飛ぶってのは、日本で証券会社(たとえば山一)が倒産するのとはわけが違います。

ちきりん的には、たとえば三井住友銀行が倒産するとか、三井物産が倒産するとか、そんな感じなんですけど。(三井グループにはなんの恨みもないです。念のため。例にすぎません・・)それだったらすんごいびっくりするでしょ?それくらいのインパクトが(アメリカ人にとっては)あると思います。

1929年の世界恐慌の再来になるかどうかは、これから1週間以内の世界の金融当局の力量しだいって感じでしょうか。

休暇から戻ってきたばかりでまだよくまとまってないのですが、今の時点で感じたことをいくつか書いておきます。

★★★

「政府は救済しないのか?」という点について。まあ「救済はないでしょ」と思っていましたがやっぱりしませんでしたね。

アメリカはそもそも市場原理の国。国による救済ってのは限定的。ファニーメイとかってのは民間銀行とはいっても存在事由にはたぶんに公共目的がある銀行。だけどリーマンなんて完全に「株主を儲けさせるための企業」ですからね。なんの大義名分もない。

それに一番大きいのは大統領選挙です。大統領選のある11月1週目までの間に投資銀行に公的資金をいれたら共和党は絶対に勝てないです。間違いなく民主党はそこをついてくるし、有権者もそれに同調するでしょう。

だってさ、今日つぶれるまでボーナスは出てないとはいえ基本給だけでも2000万円、3000万円もらってる人ばっかりですからね、リーマンで働いている人なんて。一方ではサブプライム問題で家を追い出されている庶民が山ほどいる中で、そんな高給取りの人たちのために税金は投入できないでしょ。

あと、連鎖についての考え方がある。春のベアスターンズの時は「これを支えれば乗り切れる」と思ったのでしょう。でも今回はアメリカの金融当局も「リーマンを助ければ乗り切れるかどうか」まだ見通しがもててない。アメリカって「まだまだいろいろでてくるかも」と思ったら、「全部の膿が出尽くしてから、ど〜んと根本的に打つ手を考える」という方式です。一個一個やってたら後追い後追い(昔の日本みたいにね)になるから、です。

というわけで、次の2〜10日ほど「世界で何が起こるか」を見てから打つ手を決めるってことになるんだと思う。それにしても選挙直前ってのは苦しい。打つ手が限られてしまうでしょう。

★★★

今日、日本が祝日ってのは結構ラッキーだったと思います。金融庁をはじめとする当局も、リーマン社の日本の幹部らも、他の市場関係者も丸一日準備時間がもてている。これは大きいです。

市場も、他のアジア、欧州、アメリカの状況を見た後で東京市場がオープンする。波乱は免れませんがそれでも「破綻直後に最初に開く市場」になるよりはよほどよかったと思う。

たとえば明日市場があけば東京のリーマン社の電話は鳴りっぱなしになります。顧客からの電話が鳴り続ける。それにどう応答するかについてだけでも、今日一日あれば対策をたてることができたはず。

「俺たちどーなるんだ?」と思っているリーマン社社員も、香港とかシンガポールの知り合いの社員に電話して「正式解雇通知でた?」って聞けば状況が把握できるはず。日本以外のアジアオフィスは今日は営業日ですからね。そっちの様子を聞けば準備ができる。

金融庁についてもいろいろ明日の朝イチでやるべきことの整理ができたはず、と思う。それこそ「香港の金融当局は何をした?」ってのを参考にできるでしょ。


不幸中の幸い。

★★★

救済会社が現れなかった、ということは今回非常に興味深い。たとえばシティが揺らいだ時にはアラブのファンドがお金を入れた。リーマンってそれなりの“名前”ですからね、誰かほしがるんじゃないか、とリーマンの幹部も思っただろうし、米国金融当局も思っただろうし、ちきりんも思っていた。


誰も買わないんだ!!


てのが、この件の一番の驚きだよ。


西欧の金融機関は「それくらい余裕がない」ってことだと思う。相当程度「助けたい」と考えたと思うけどね。業界の危機だし。でも無理だった。誰もその余裕がなかった。

日本や中国の企業は?日本のメガバンクにも中国の企業(事実上政府、ですが)にも、リスクとして大きすぎて手が出せなかった。これはまあわかる。

ちなみにバブル期の日本だったら何行もの銀行が「買いたい!」と手をあげたと思う。さすがに今の日本にはそういう余裕はない。

ロシアは?ウハウハなんじゃないの?
彼らは金融業にあんまり関心ないよね。エネルギーとかインフラ系にしか関心のない国なんだよね。それに最近アメリカとも喧嘩が多いし。「ほっといたれ」って感じでしょう。


アラブは?

なんでアラブの企業がお金出さなかったんだろ?

石油が下がり始めてるから?

もしかしてアラブまで弱気になっている???


ここがなかなかおもしろい。


とにかくですね。「誰も買わなかった」ということが、今回の件の一番の注目点なんです。最も面白い点です。そしてこの点こそが世界を不安にしている、と思います。



えっ?誰も助けないの??


ちきりん的にはこれが最大のびっくり。

★★★

これから各部門がばら売りされるわけですが、まあ、相当厳しいだろうなあと思います。だって工場とか持っているわけではないし、資産をすごく抱えているわけではない。基本は「優秀な=客をつかんでいる人材」しかいない。でもね、部門を丸ごと買い取らなくても、そういう人をチームごと雇えばいいだけですからね・・

部門ごと(もしくは地域ごと)で買うとしたら、その部分に新たに進出(もしくは大幅拡充)したいと思う同業者になるわけですが、「全体では買えないが、一部門なら買う」ってところがどれくらいあるのか。いくつかの優良部門が売れるだけじゃないかな〜と思います。後は解散ってことになるんじゃないかな、結局。


ただ社員は、たぶんもう半年くらいの間心の準備ができる(もしくは逃げ出す)期間もあったし、そもそもそういう業界だとわかっていたはずなので、それなりの衝撃があるとはいえ、心臓が口から飛び出したりはしていないと思います。

一番驚いているのは来年の4月に入社予定だった内定学生さんとかかな。親御さんも含めてびっくりかもね。なお、米国では9月から就職するのが普通だと思うのですが、今年の9月から入社予定だった(アメリカの)学生さんはおそらく1ヶ月前くらいまでに「内定取り消し」の連絡をもらっていたと思います。

大変なことだね・・



とりあえず今、思いつくことはこれだけ。


この日が“911”とならんで“915”と呼ばれるようになるんでしょうかね。


んじゃ。