連載05) “ワンパターンの地方再生策”を脱するには?

<日本の地方と若者の政治参加を考える特別連作エントリ>
をお送りしています。バックナンバーは下記です。
連載01)  新宮市に行ってきた!  
連載02)   並河哲次 新宮市議 26才
連載03)   新人議員、大災害の衝撃!
連載04)   非常時対応とは? 復興とは?

今回は、災害の話を離れ、人口3万人の地方都市の政治と行政について、です。


★★★

ちきりん「新宮市は日本の典型的な地方の街でしょうか?」

並河氏「全国を見たわけではないので正確な比較はできませんが、典型的といってもいいと思います。ただ自分は地元出身でもないのに議員にならせてもらったので、新しいものを受け入れる土壌はある場所だと感じます。」


ちきりん「市の課題としては、どんなものがあるのでしょう? 財政問題とか、産業育成とかは?」

並河氏「財政は厳しいです。それでも、交通の便が悪いから発展しないといって、今でも高速道路の建設を希望する人もいます。ですが高速道路がつながって都会が近くなったら、今以上に人も消費も流れます。工事についても大規模工事では地元の中小企業にはお金は落ちません。防災に役立つから、という人もいますが、費用対効果を考えると疑問があります。

また、子供が減り小学校の統廃合が進んで校舎が余っているのに、去年校舎を新築しています。建物ばかりに予算を使うのではなく、教育に関してももっと別のお金の使い方があるはずです。」


ちきりん「でも、そういう建物が今回も災害時の避難場所になったのでは? 公の建物はやたらと立派だから、普段は無駄でも災害時には使えますよね。」

並河氏「そうかもしれませんが、それも費用対効果をよく考える必要があります。あと、洪水で家を流された人のために仮設住宅を建てていますが、あれも一軒300万円です。それなら流された家を建て直すのに300万円を出した方がいいのにと思います。」

ちきりん「それはよく言われますよね。でも自然災害で壊れた個人の財産を、税金で立て直すのはできない。思想的、法律的な原則論のために余計なお金がかかるというのは、現代社会のジレンマとでも言うべき問題ですね。」


写真:並河哲次さん  取材日にちきりん撮影


ちきりん「新宮市の産業は?」

並河氏「以前は林業、製材業、製紙業が栄えていました。森林資源が豊富で海が近く、木材を船で東京や大阪に出荷できます。昔は王子製紙の工場もありました。今は林業も衰退し、製紙業もコストの安い海外製紙に押されています。」

ちきりん「国内産のブランド材として、高級戸建て住宅用に売るとか?」

並河氏「ブランド国内材としては奈良の吉野なんかは成功しているようです。」

ちきりん「海のそばを工場誘致のために埋め立てたりしていますよね?あれはどうですか?」

並河氏「自然を壊しているだけです。そもそも日本から工場がどんどん出て行っているのに、こんなところを工場用地に整備しても効果はでません。また311以降は、海のそばの津波の可能性のある場所ということで、いよいよ可能性がなくなったと思います。」



写真:ショッピングセンター近くにあった表示板  取材日にちきりん撮影


ちきりん「海、川、山とすごくきれいなところですけど、観光業は?」

並河氏「市は公園の整備などにも補助金を付けて、観光を振興しようとしています。けれど、世界遺産の熊野古道は必ずしも新宮市が拠点となっているわけではありません。

速玉大社に寄って貰えても、長時間過ごす場所がないので大きな産業にはなりえません。私は観光業が新宮市の生きる道だとは思えないです。」


ちきりん「聞いていて思ったのですが、高速道路の整備、工場用地を整備して企業を誘致する、観光業の振興・・・、“地方興し”、“地方再生”の方策って、どこでもひどくワンパターンですよね。どこの地域も同じ事を言っている。でも成功しているところは、ごく僅かです。そういう手垢のついた案ではなく、新しい発想を出していくにはどうすればいいんでしょう?」

並河氏「話が少し飛ぶように聞こえるかもしれませんが、創造的なアイデアで地方を立て直す方法のひとつとして、私は被選挙権を与える年齢を下げるべきだと考えているんです。」


ちきりん「どういうことでしょう?」

並河氏「今、選挙に出られるのは、衆議院で25才以上、参議院と都道府県知事が30才、その他すべて、つまり市長や市議などは25歳から立候補できます。私は、これをすべて20歳に下げるべきだと思っています。そうすれば、大学街では学生が市長や知事になれます。」


ちきりん「ほー。被選挙戦が20歳になれば、たとえば京大生が京都市長になりえるということですね?」

並河氏「そうです。そうなったら、すごく思い切った行政ができる。あと議員に関しては、年齢別に議席を割り当てるべきと考えます。議員の何割かは必ず35歳以下にするとか」


ちきりん「地方だと60歳以上の人口が5割近いエリアもありますよね。そういうところでも、議席を若手に割り当てるのが公正だと思いますか?」

並河氏「そういうルールにするかどうかは、その地域が決めればいいんです。一律に押しつける必要はありません。

もしも『うちの町は若い人に増えて欲しい、若い人にがんばってほしい』という町や市があるなら、そういう自治体は『うちは議員の3割は35歳未満の人に割り当てます。だから我こそはと思う人は、うちに移住してください。ここで政治家を目指してください』と言えばいい。

『うちの市は議員の全員が年寄りでもいいんだ』という市は、今のままでやればいい。そういうことです。」


ちきりん「なるほど。それは新しい発想ですね。私が理解していなかったのは、たとえ高齢化が進んでいる市町村であっても、若い人にリーダーシップを発揮してほしいと思っている人たちがたくさんいる、そういう町がある、ということですね?」

並河氏「そのとおりです。」



写真:選挙運動中の並河さん 本人提供


ちきりん「田舎の選挙では地縁・血縁が重要で、よそ者が選挙に出て勝てるはずもないと思い込んでいたのですが。」

並河氏「田舎でも、政治にどんどん若い人が出てくればいいという意見の人はたくさんいます。自分としては、若い人が当選できる余地は大きいのに、むしろ最初から無理だろうと思っているためか、実際に選挙にでてくる人の方が少ないと思えます。当選できる余地はあるのに、手を挙げる人が少ないという状態です。」


ちきりん「確かに高齢化が進む町ほど、どんどん若者に来て欲しいですよね。であれば、若者を積極的に議員として迎え入れますよ、という姿勢を表わし、その地域の再生を牽引していってくれる若い人を大都市や他都市から惹きつければいいということですね。」

並河氏「はい。大都市からくるだけでなく、元々新宮市にいる若者でいったん都会に出て行った人が戻ってくる、というのもアリです。若い人は、仕事がない、刺激がないということで出て行ってしまうけど、ここでやれることはたくさんあります。最低限、食べていくのにも困りません。おもしろいことができるはずなんです。」


★★★


うーん。なかなかおもしろかったです。高齢者が増えると「高齢者のための政治をしてほしい」と思う有権者が増えるはず、と思っていたのですが、反対に、高齢者ばかりになりつつあるからこそ「若者に来て欲しい」という気持ちが強くなる、のもまた真実。案外「若者ウエルカム!」な地方自治体は多いのかもしれないと思い始めました。


次回は、なぜ並河氏が地方議員という道を目指したのか、その辺をお聞きしていきたいと思います。


そんじゃーね! (続く)