私が最近もっとも気になっているのは、欧州における難民の急増問題です。
難民の発生エリアは中東とアフリカなので、多くの難民はアラブ系とアフリカ系の人達です。
中東での最大の問題はシリアで、アメリカが反米的なアサド政権を倒そうと余計なちょっかいを出したこともあり、アラブの春以降ずっと内戦が続いていたのに加え、
ここ数年はテロ組織イスラミックステイツ( IS )が流入したことで、人口 2000万人のうち 400万人もの人が難民化しています。
400万人の難民て、すんごい数ですよ。ちなみに鳥取県の総人口は 58万人。
さらに IS に対する米軍の爆撃が始まった(=完全な戦場となってきた)イラクからも難民が出始めていて、中東からの総難民数はまだまだ増え続けそうな勢いです。
今でも、この地域からでた難民の多くは周辺国であるレバノンやヨルダン、そしてトルコにいます。
レバノンなんて自国の人口が 450万人ほどなのに、100万人以上のシリア人を受け入れており、日本含め国際社会も難民対策費用を支援していますが、それでも負担感は相当に大きいでしょう。
とはいえ、「いつか祖国に帰れる可能性がある」と考える難民はこれら近隣諸国にとどまりますが、「もう祖国はダメだ。人生をやり直したい」と考えた難民は、イギリスやドイツなど西欧を目指します。
このため西欧への経路となるトルコやハンガリーもまた、難民でパンクしそうになっています。
トルコでも 170万人もの難民がいるし、ハンガリーではドイツ行きの国際列車を待つ大量の難民らが、駅周辺で野宿。
国際電車が止められた後は、難民の一部がドイツやオーストリアに向けて歩き始め、幹線道路の一車線が「歩く難民」に占拠されるなど、ちょっとした異常事態が発生しています。
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もうひとつの難民源がアフリカです。
何十年も内戦が続き、最近はイスラム過激派がカリフ制国家樹立を目指しているソマリア、貧困の中で大規模な民俗紛争が起こったコンゴや独裁により経済的に破綻したジンバブエなど複数国から、数百万人単位で難民が発生しています。
アフリカ大陸の中で避難先となっている南アフリカでは、現地の貧困層と難民の対立が激しくなっているし、もともと豊かではないタンザニアやマラウイなどにも数十万人規模の難民が流れこんでいます。
一方、アフリカから西欧に逃げ出そうとする難民は、「悪徳難民輸送業者」の食い物にされています。
長い経済停滞と混乱の続くアフリカでは、ちょっと経済状態がよくなって小金が貯まると、国民は密航業者にお金を払って西欧に逃げだそうと考えます。
現金を手にした彼らが最初に欲しいと思うのはテレビでもパソコンでもなく、地中海を渡るための密航船業者や、サハラ超えで西欧を目指す陸ルートの案内業者が提供する「新天地への通行証」なのです。
このため、「豊かになると難民が減る」ではなく、「豊かになると難民になる人が増える」という救いようのない状況に陥っています。
悪徳業者も減りません。
カダフィ大佐が殺された後、無政府状態とも言える状態に陥っているリビアでは、貧しい人から手数料をとってオンボロ船に満載し、海に送り出す「悪徳・難民輸送業者」が多数存在しており、送り出される難民の数が急増しています。
そこで得られた資金がテロ活動の原資になっているのに、彼らを取り締まる国家権限さえ、既にリビアには存在しません。
悪徳業者はあまりにボロい船に異常な数の人間を乗せるので、多くの船が転覆して難民が海で死亡しており、今年の 4月、船の転覆で 700人近い人が死亡したことは西欧諸国に衝撃を与えました。
人道的な措置としてそれらの難民船を積極的に救助するイタリアにも、大きな負担がかかっています。
アフリカから海を渡るルートでは、難民はまずイタリアやギリシャをめざしますが、ギリシャなんて自分たちだけでも財政破綻状態なので、難民は入国してもそのまま放置されていたりします。
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EU にはダブリン協定といって、難民申請は EU 内で最初に到着した国が行うという取り決めがあります。これは、最初の国で申請が終わるまでその国から出られないというルールなのですが、
西欧への入り口となっているイタリアやギリシャ、ハンガリーでは、もはや全難民の申請を処理(審査)するのは不可能な状況です。
このためハンガリーでは、フェンスを作って難民の流入を防いだり、警官隊が駅への入場を阻んだり、「難民を追い返す策」もとられるようになってきました。
命カラガラ戦火を逃れてきた人をそんなふうに扱うことには批判も出ていますが、「じゃあどこの国がこいつらを受け入れるんだよ!?」という問いに答えは出ていません。
西欧内で難民達が目指すのは、主にイギリスとドイツです。いずれも EU の中で社会保障のレベルが高く、経済的にも余裕があり、政治的にも難民に寛容な国です。
ドーバー海峡を挟んでイギリスへの入り口となっているフランス沿岸のカレー(という街)にも、イギリスに行きたい難民が溢れかえっています。
しかしこれらの国にしても、年間 80万人に達するかもといわれる難民を受け入れ続けるなんて不可能でしょう。
しつこいですが、鳥取県の総人口は 58万人です。そして難民は今年だけでなく来年はもっと増えるかも知れないのです。
そもそも本当に難民なのか、それとも(混乱していない貧困国からの)出稼ぎ労働者なのか、西欧に入国してテロや犯罪を企てている危険人物なのかの審査だけでも(そして審査が終わるまでの保護にかかる費用だけでも)大変な出費です。
難民の目的地となっているドイツは「みんなで手分けして受け入れよう!」と呼びかけていますが、「やだよ。追い返そうぜ」って感じの国もあるし、
トップの政治家が積極的でも、一般国民から難民への反発は極めて高く、国内の緊張も高まっています。
ドイツでは、ネオナチと呼ばれる過激集団が亡命申請者が滞在する建物を放火したり、スウェーデンでも移民反対を主張する政党が大人気だったり。
一番強硬なハンガリーでは、首相みずから国民にたいし「あいつらのせいで、国が崩壊する!」と憎悪を煽っており、このままでは大規模な暴動に武力鎮圧といった事態の発生まで懸念されます。
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地域統合を目指す EU では、「域内での人、モノ、金の移動を自由にする」のが基本理念だし、EU 欧州委員会のティメルマンス委員長は、「 EU には 5億人が住んでいる。難民は多いが相当数を受け入れられるはず」と言いますが、
一年に数十万、何年も続いて合計数百万人という難民が流入してきては、もはや「国境が意味をなさない時代」もしくは、「アフリカと中東と欧州のプチ合併」的な状況さえ起こりかねません。
しかも、西欧側の受け入れ体制がしっかりすればするほど難民は増えます。この構造は、前に書いた保育所不足問題や介護施設の不足問題と同じ。
アフリカからオンボロ船に乗り込む難民達は、密航業者を信頼しているのではなく、転覆しても助けてくれるイタリアの警備船を頼りにしているのです。
もしも難民をこのまま放置していたら、欧州ではギリシャの破綻どころの騒ぎではない大混乱が起こりかねません。そして、世界で最も人権意識が高い欧州先進国が、この問題をどう“人道的に”解決するのか。世界が注目しています。
ちなみに、アジアで難民がでる可能性を考えてみると、
・北朝鮮が崩壊して難民流出 → 大半は韓国、および中国内の朝鮮族の居住地域へ
・香港が中国に圧政されて難民流出 → 多くが英語圏(米英、カナダ、オーストラリア、シンガポールなど)へ
・台湾が中国に圧政されて難民流出 → 一部の人は日本を目指すかも? 他はアジア華僑コミュティへ
だと思いますが、
万が一にも中国が大規模な難民を出し始めたら、日本も含めてアジア全域が大変なことになるので、中国にだけは、なんとか頑張って順調に発展してほしいものです。
隣国が(政治的にはやや鬱陶しい国ではあるものの、とはいえ)難民ではなく爆買観光客をバシバシ送り込んできてくれる日本は、なんだかかんだで本当に恵まれています。
ところで日本は異常に難民の受け入れ数が少なくて(あまりに身勝手過ぎると)世界から批判されているのですが、
<2013年 各国の難民受入数>
・アメリカ 21,171人
・ドイツ 10,915人
・イタリア 9,099人
・日本 6人
「中国や韓国と仲良くしよう! 戦争反対!」と叫んでいる人達の多くは、中国や朝鮮半島から大量の難民がなだれ込んできたら、まっさきに声をあげて彼らを受け入れ、歓迎するに違いない。(よね?)
まさか「隣国と仲良くしよう!」といいつつ、「隣国から困っている人がやってきたら、受け入れずに追い返せ!」とは言わないはず。と信じてます。
<参考記事>
・ハンガリーで足止めの難民。ドイツとオーストリアが入国許可へ