21歳から29歳まで、20代のほとんどすべてを司法試験の勉強のために使いました。でも結局、合格することはできなかった。
しかもその間に結婚した夫とは、子供ができた後、別れることにもなりました。その上いろいろ重なって、体調まで崩してしまった。
30歳、無職。職歴ゼロ。シングルマザーで体調も崩し、回数制限にひっかかって、もう司法試験も受けられない。
バカだなって思います?
自己責任?
同情したくなる?
自分の子供には絶対にそんな人生を送らせたくない?
梅原大吾さんとの対談本の発売にあわせ、
「学校的価値観ってなんなんだろう?」
「逃げどころはどこなの?」
「やりたいことってどうやって見つけるの?」
について考えるためのインタビューエントリ。今日から数回にわたってお送りします。
フィクション(創作)ではなく、取材に基づくリアルストーリーです。
悩みどころと逃げどころ (小学館新書 ち 3-1)posted with amazlet at 16.06.03ちきりん 梅原 大吾
小学館
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< Mさんのインタビューから>
小学校の半ば、低学年から高学年に移る頃、突然「この子は勉強がよくできる!」と発見されてしまいました。
全員で受けた学力判定テストで、地域でもトップクラスの成績がとれたからです。
親は思いました。
「この子には勉強をさせてやらねば。親として、できるかぎりの環境を与えてあげたい!」
同様の機会に遭遇すれば、多くの親が同じように考えることでしょう。
私自身も良い成績がとれるのは嬉しくて、熱心に勉強を始めました。
最難関の慶応中等部はぎりぎり諦めましたが、人気難関校のひとつである青山学院中等部に合格。
大学までストレートで進むことができる環境だったため、入学後は学生生活を謳歌します。
本も好きだったし、美術も好きでした。馬術部に入って活動したり(体育会ノリは合わないと分かりましたが)
成績はごく普通で、そのまま法学部に進むことができました。
このあたりまでは将来なにをするのか、何になりたいのか、考えていませんでした。
大学に入った後、バイトを始めました。最初はアパレルの小売店で。でも雨が降ったら前日になって「明日はこなくていい」と言われたり、あまりに理不尽だったので辞めました。
その後に始めたのがイベントコンパニオン。3時間くらいの拘束で 1万円以上もらえるし、社会人の仕事振りを見ることもできて勉強になりました。
ただ、そういう現場で見る会社員という仕事は、なんとなく「これじゃない」感があった。
とはいえモデルやタレントとして積極的に売り込んでいこうとも思わない。
そうこうするうちに就職活動の時期が近づきます。
「さてどうしよう」
エスカレーターで大学まで進んでしまったので、突然、就活と言われてもピンと来ません。
そのとき世の中で、司法試験改革、ロースクール制度の話が盛り上がりはじめました。
超難関資格として知られた司法試験が、ロースクールの登場によって大きく変わる!
メディアもこの改革について大きく伝え、法学部生だった私は当然のように関心を持ちました。
ずっと昔の中学受験のことも思い出しました。
「私は勉強が得意だったはず」
「弁護士になるのはアリかも?」
母も応援してくれました。
よくできる娘が難関試験に挑戦するという。それなら全面的にサポートしようと。
私は母にとって、期待の娘だったんです。
しかも、ロースクールに入るためには統一の適性検査を受ける必要があるんですが、力試しにその模試を受けてみたらなんと満点がとれたんです。
「これならいけるんじゃないか」
そんな気になって、就職活動はせずにロースクール進学を決めました。
ジェンダー問題に関心があり、女性の人権に関わる仕事ができたら。
そんなふうに考えてもいたんです。
★★★ 第一話はここまで。次回に続きます★★★
当時、彼女のような人は決して珍しくありませんでした。
司法試験改革が盛り上がったタイミングで、たまたま就活のタイミングだったり、たまたま転職を考えていたりした人の中から、「弁護士を目指してみよう!」と思い立った人はたくさんいたはずです。
国が「日本も博士号取得者を大幅に増やすぞー!」と決めたタイミングに、たまたま進路を考え始めた大学生だったという人。そんな人のなかから、就職ではなく博士課程進学を選んだ人がたくさんいたように。
私(ちきりん)は、バブル経済のまっただ中で就職活動をし、迷うこと無く金融業界を最初の職場として選びました。
渋谷を中心にベンチャーブームが巻き起こっていた頃、その熱狂の中で IT系のスタートアップに就職した人も多いでしょう。
自分で考えているようでいて、私達は誰しも時代の流れから逃れることはできません。
でもそんな人達も、いつかはそれぞれの「自分の道」を見つけていきます。
ではいったい私達は、どうやって、いつ、自分にとっての「これだ!」と言える職業を見つけていくのでしょう?
そしてどうすれば、自分の人生を心から「いい人生だ!」と思えるのか。
Mさんのインタビューと、そこから私が得た学びを通して、ぜひみなさんも、自分にとっての「いい人生の探し方」を考えて(もしくは振り返って)みていただければと思います。
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