国民審査

一昨日のエントリでちきりんは「農政と票」の関係に触れ、下記のような票の試算を記しました。

A.「美田を息子に残すために趣味的米作りをやっている自称農家の票」=1300万票
B.「農業で食べている本当の農家の票」= 21万票
C.「東京の有権者のうち投票する人の票」=659万票


絶望的なほどに大きいAの票。しかし実は「一票の格差」と「東京の投票率」が変われば、この力関係は変えられます。

たとえば上記試算では、一票の重さは「田舎では都会の約3倍」とおいてますが、これが半分の1.5倍に縮まるだけで、A票は半分の650万票に。また投票率については、田舎が85%、東京が約65%と仮定したけど、こちらも東京で10%アップすれば、C票は770万票に。こうなればAとCの政治的パワーは逆転します。

一票の重さに関しては、最近は選挙のたびに(票に格差があるのは)違憲であるという裁判が起こされるけれど、最高裁はそれにたいして全く違憲判決を出さない。これが各政党が競って田舎に手厚い政策を掲げ続ける理由のひとつになってるわけです。

そしてこの最高裁の判断にたいして、「いいかげんにしろよ」と言おう!という活動が今回はいつになく盛り上がっており、昨日の朝刊の全面広告をご覧になった方も多いのではないでしょうか。*1

彼らが呼びかけているのが、明日の衆院選と同時に行われる「国民審査」において、自分達の意思を正しく示そう、という運動。で、この「国民審査」ってなにさ?というと・・

Q1.国民審査って何?
最高裁の裁判官について、国民が「罷免するか」「そのまま任務についていてよいか」という審査をする制度です。

Q2.いつ行われるの?
裁判官が就任直後の“衆議院選の投票と同時”に行われます。その後、10年在任している人については再度行われます。

つまり、明日の衆院選の選挙にいけば、有権者は(1)衆院選の比例と(2)小選挙区の選挙に加え、そこで同時に(3)「国民審査」の投票をすることになります。

Q3.どのように行うの?
今回は、国民審査を受けるのは9名です。彼らの名前が記された表を渡されます。

信任しない場合は、名前の上のボックスに「×」をつけます。信任する場合は何も書かずに投函します。(ここがポイントです)「○」をふくめ、「×以外」のどんな記号を書いても、その表は無効票扱いされます。

Q4.よくわからないから何も書かずに出せば、「信任した」ことになるということ?


そうです。なので、有権者の選択肢としては、
「×をつけて不信任を表明する」か、
「何もつけずに信任するか」
最初から用紙の受け取りを拒否するか
(よくわからない場合や、参加したくない場合)
の3つです。

Q5.何人が×をつければ罷免されるのですか?
有効票の過半数が×をつければ罷免されます。

Q6.いままで罷免された人はいるのですか?

いません。
審査をうけたのべ148人全員が信任されました。ちなみに前回の国民審査では6名の裁判官の不信任率はだいたい8%前後でした。

ただし過去には、沖縄基地関連訴訟で沖縄知事に敗訴を言い渡した最高裁判所にたいして、沖縄県内では30%を越える不信任比率となったケースなどがあります。(全員に×をつけた票がたくさんあったそうです。)

Q7.信任する人には○をつける制度に変更すべきではないですか?


そういう意見の人もいるようです。少なくとも「制度がわかりにくいほど(何も書かない人が増えて)信任されやすくなる」というのは問題があるようには思えます。

また、投票所で紙の受け取りを拒否して(もしくは返すことで)棄権することができる、こともあまり知られていません。


一部の裁判官を“不信任”、残りを“棄権”するという選択肢も与えられておらず、“不信任の人だけに×”をつけたら、残りの裁判官は“信任したとみなす”とされてしまうのも納得のいかない人もいるでしょう。

というわけで、制度論としては様々な意見があると思います。


と、ここまでが国民審査の概略です。

ちきりんはずっと書いているように「倍以上にもなる票の格差を違憲と判断しないのはおかしい!」と考えており、今回はこのページの情報を参考に、一部の裁判官に×をつけたいと考えています。

また、一票の格差以外の論点も考えて投票したい方には、法律系のフリーライターの方が作られているこちらのサイトのこのページの下部の情報も参考になるのではないかと思います。


最高裁判所は日の丸や君が代問題などの思想に関わる裁判、自衛隊の合憲性、死刑制度の是非、国籍法、戦中戦後補償問題や薬害訴訟問題など、様々な判断に関わっています。

また、最近よく取りざたされる「正社員の解雇要件」として、「解雇する場合は、正社員より先に契約社員等を解雇すべし」という判断をしたのも(過去の)最高裁の裁判官です。

案外私たちの生活に関わる問題にも彼等は判断を下しています。もしもそれらの考えが「おかしい」と思うなら、有権者は「私としては貴方の考えは間違っていると思いますよ」と表明すべきだと思います。

少なくとも「よくわからないから、(棄権の意思で)何も書かずに投票したら、信任したと見なされる」というのは、いかがなものかと思うわけです


もう一度、まとめておきましょう。私たちの選択肢は下記です。

(1)不信任したい裁判官がいる場合→その人の名前の上にだけ「×」をつけ、それ以外の欄には何もかかない。(名前をメモって行かないと忘れちゃうよ!)

なお、全員不信任の場合は全部に×をつけます。


(2)全員を信任する→何も書かない。


(3)棄権したい→用紙をもらったらその場で「棄権します」と言って用紙を返す。



このことについて書く、最後の効果的なタイミングは今日しかないかも、ということで、今日は国民審査について書いてみました。


そんじゃーね。


*1:“一人一票実現国民会議”の広告。http://www.ippyo.org/question1.html ちきりんは日経新聞で見ました。他の新聞に載っていたかどうかはわかりません。