会社で働いていた頃、「この人、すごいっ!」と思う人にたくさん出会いました。
中でも私が一番感心したのは、「超ギリギリのタイミングまで、まとめに入らない人たち」です。
なんでもそうですが、何かを作り上げる時には「作る」+「整える」という二段階の作業が必要です。
最初の「作る」は「中心的な価値」を生み出す作業で、
後半の「整える」は、生み出した価値をお客様に説明しやすく&売りやすくするため、細部や体裁を整え、きれいにパッケージする、みたいな作業です。
この「作る」から「整える」に移行するタイミングを「まとめに入る」と呼びます。
たとえば 10日後に締め切りの企画書があるとしましょう。
このとき、デキる人は最初の 9日間は「まとめ」についていっさい意識せず、思考をどんどん発散させて、考えることに集中します。
一方、6日目くらいからは「まとめ」を意識して「落としどころ」を探りに入る人もいます。これが凡人と呼ばれるタイプの人です。
前者と後者が生み出せる価値の絶対値は大きく異なります。
当然ですよね。
前者は考えるのに 9日と、後者が使った 5日間の倍近い期間を「価値を高める」ことに投入しています。
本質を考えるために使った時間が倍近いから、成果の価値が倍近く高くなるのです。
なんでもそうですが、まとめに入った後に行われるのは、「見栄えを良くし、店頭( or 机上)で映え、見やすくする」ための作業に過ぎません。
「整える」ことによって本質的な価値が上がったりはしない。だから高い価値を出したければ、できるだけ「まとめに入る」タイミングは遅くする必要があります。
一般的に、自信のない人ほど早めにまとめたがり、自信のある人ほどぎりぎりまで本質的な議論や検討を続けようとします。
自信というのは、「本質的な価値さえ出れば、整えるのは最後の 1日でもできる!」という自信です。
早めにまとめに入る人はこの自信がありません。まとまりきらずに締め切りが来てしまうのが怖いのです。
だから、遅いタイミングで(たとえば 7日目あたりに)いいアイデアがひらめいても「今頃こんな根本的に違う案をもち出したら、まとまらなくなってしまう」と自己規制してしまいます。
周りの人も 8日目くらいに出て来た「画期的だが、今からそれは間に合わないだろ?」みたいな意見を、それとなーくボツにしてしまいます。
一旦「まとめ」モードに入ると、全員にこういったメンタリティが働くため、本質的な価値を上げることができなくなるのです。
★★★
仕事のデキ、仕事力、というのは、この「最後にこれだけの時間が確保されていたら、オレはまとめてみせる!」と思える期間を、どれだけ短縮できるか、ということです。
最初は怖くて 6日を「作る」ために使い、締め切りの 4日前からはまとめに入っていた人でも、ある時、なにかのきっかけで 3日だけしかまとめに使えないという経験をしたとします。
それでも「なんとかなった!」という経験を何度かすれば、その人はその後「最初から 7日は考える!」という姿勢に代わります。「 3日あればまとめられる」という自信を得たからです。
こうした経験を積み重ね、「ギリギリまで本質的な議論や思考を続けても、最後の 1日でキレイにまとめられるという自信を得る」ことが、「仕事がデキルようになる」ということです。
スキルのない人から見ると、いつまでもマトメに入ろうとせず、あれこれ発散するアイデアをいつまでも議論している人、全く落としどころを意識しない議論を締め切り直前まで続ける人のやり方は、時にリスキーで怖く見えます。
「今からそんなこと言い出したら、まとまらないじゃん!?」と不安になり、ハラハラします。
でも、大丈夫。
彼らは「本質的な価値さえ出せればすぐにまとめられる」という自信を過去の経験から得ているのです。
★★★
反対に、早くからまとめに入る人は「たいした価値も無い中身」をこねくり回し、「それらしく見せる」コトばかりに長い時間を投じて、「整えるスキルや知恵」ばかりを身につけます。
個々の仕事はそれでも乗り切れるでしょう。
でも、ある程度の年齢になった時、そういう人が「ものすごくいい仕事のできる人」になっていることはあり得ません。
「まとめに入るタイミングの差」が積み重なり、大きな実力差につながってしまうのです。
しかも恐ろしいことに、そんな人ばかりが集まった組織もあります。
日本の大企業の中には、10日後に何かを仕上げろ!と言われたら、初日からまとめに入るような人さえいるんです。
彼らは最初のミーティングで、「で、落としどころは?」とか言い出します。
スタート時点からまとめに入ったら、なんら新しい価値は生まれません。既にあるものをコネクリまわしてキレイに整えるだけです。
怖いことにそういう「作業」を仕事だと思っている人もいっぱいいる。てか、「そういう仕事=作業しか、したことがない」という人もいる。
彼らは多大な時間を「まとめ」に使うので、見栄え“だけ”はいいモノを作ります。
そして更に怖いのは、彼らの多くが既に(自分では気づいていませんが)「新しい価値を作りださねば!」という意欲さえ失ってしまっている、ということです。
無意識のうちに「締め切りまでにキレイにまとまったものが出せれば、それでいいんでしょ?」などと思ってしまってる。
若い人がそんな企業や組織でキャリアをスタートするのは、結構やばいことです。
「価値を創り出す」という本質的なスキルが全くつかないどころか、「初日からまとめに入る」のが正しいやり方だと覚えてしまったりすると、マジでやばい。
ということについて書いたのが、下記のエントリです。
「若者の将来価値を毀損する大きなワナ」