ちきりんはチェーンのビジネスホテルに泊まるのが好きです。先日、泊まったアパホテルも、その徹底したオペレーションに感動しました。
<1.客まで巻き込む徹底したコスト削減>
スリッパは、足裏にあたる部分の白い紙だけが、使い捨てとして用意されています。その紙をスリッパに”客が自分で”貼ると清潔に使えるという仕組み。
清潔感を確保しつつ、大手ホテルのようにスリッパ全体を消毒したり使い捨てにするより、かなりコストが安そう。
冷蔵庫は空なので飲み物は自分で持ち込むのですが、スイッチが(右上の枠のところに)付いていて、使う時だけオンにします。
たしかに一泊くらいだと冷蔵庫も使わない人も多そうだし、空室なのに冷蔵庫を稼働させとくのも無駄だよね。
お風呂のバスタブに何かシールが貼ってあるので見てみると、
お湯はここまで貯めれば十分ですよというシール・・・特に体のデカイ人は少なくて十分よと。
一番左に「温水準備」っていう文字があるでしょ?
こちらのウォッシュレット、使う直前にボタンを押すと、その時点から水が暖められてお湯になるという特別バージョン。たしかに常時お湯を暖めておくのは電気代が無駄。
部屋には消臭スプレーがおいてあります。「部屋が臭い」というクレームを減らし、問題解決の手間を顧客に委ねるという名案!
<2.コストをかけずにサービス充実>
でも、必要なサービスはきちんと揃えていて、各フロア、エレベーターホールにズボンプレスが置いてあります。誰でも自由に使える。
これも大手ホテルだと各部屋に置いたりしてるよね。超無駄。
周辺地図のコピーも用意。多くが出張客なので、観光地図ではなく、近くのコンビニや居酒屋情報が載った地図はとても役立ちます。
しかも、いちいちレセプションで「コンビニどこ?」と尋ねられるのに比べ、ホテル側の人手もかかりません。
朝食はバイキングで品数も多く充実してます。
朝食を食べるカフェは、昼と夜は外部の人も入れるレストランとして営業。しかも食事の時間以外はコスト削減のため閉店するという念の入れよう。
支払いはチェックインの時に済まします。
朝になるとエレベーターを降りた目の前にキードロップが用意されており、ここにカギをいれればすぐに出かけられます。便利かつコスト減。
<3.積極的な追加収入策を導入>
この点についても感心しました。
「宿泊費以外の収入」を増やそうという工夫がいたるところに導入されています。基本料金を安くして、オプションで儲ける発想は LCCと同じですが、いろんな工夫があり、とても巧いです。
有料ビデオを部屋で見るためのカードを売る自販機が、あちこちに置いてあります。
これだとチェックアウトの時に「ペイテレビ代」を払わなくて済む(有料テレビを見たことがレシートに残らない)んです。巧いでしょ。
カレーなどという、超利益率の高い一品を社長カレーなどと、名物っぽく主張するのもめちゃ巧い。
<4.そして囲い込み!>
しかもチェックインの手続きをしてる間に、(こちらの意思も確認せず)ポイントカードを作って渡されました。これで客の囲い込みもバッチシ。
そもそも出張が多い人って偏ってますからね。ビジネスホテルのヘビーユーザーの囲い込みは、超大事
ひとつだけ理解できなかったのは、部屋に置いてあった本がコレだってこと。
中国や韓国人ツアー客も使うホテルだと思うのだけど、なんでこんなもん置いてんのかな? まっ、よほど経営者の思考が強烈なのでしょう。
というわけで、日本のローコストオペレーションは本当にすごい。
単にコストをカットするだけじゃなく、必要なサービスはきちんと提供し、充実の朝食バイキングや大浴場も含め、質を確保しながら(←そうでないと競争に勝てない)、その上でこれだけの工夫をする。
特にポイントカードを、受付してる間に自動的に作っちゃうのには、思わず声が出るくらい驚かされました。
たしかにホテルの場合、住所や名前はどうせ記入させてる(予約&宿泊カードのために)ので、カード作成に必要な情報は最初から手元にあります。
それなのに「アパカード、作りますか?」と聞いたら、「いいです(要らないです)」と答えるであろう、ちきりんみたいな客でも、
この方法だといきなりカードを渡され、「んじゃ、次もアパに泊まろうかな」という気にさせられます。
こういう場所で1年でも2年でも働いたら、ほんとにいろんなビジネスのヒントが手に入る。
ちきりんはよく言ってるのだけど、「成長できる仕事とできない仕事」があるんじゃないんです。「成長できる人とできない人」がいるだけなんだよ。
類似過去エントリ)
・前編 すかいらーくのセントラルキッチン見学
・後編 大手チェーンの珠玉のオペレーション