A I 開発 <新しい主役の登場>

先日の続きです。

第一回: A I (人工知能) <冬の時代を超えて>


1950年代に始まった当初の A I 研究と、現在の研究のもうひとつの違い、それは「研究者とスポンサーの関係」です。

1980年代まで研究を牽引していたのは、大学などアカデミックな世界にいる学者と、A I に目を付けた新進ベンチャー企業でした。

そして彼らにその研究資金を提供したのは、米英政府や研究財団、そして投資ファンドでした。


一方、今の A I 開発を主導しているのは、グーグルやアップル、マイクロソフトやIBM, フェースブックなど「既に成功した巨大なIT企業」です。

彼らは、既存ビジネスから流れ込む潤沢なキャッシュフローと、IPOで調達した巨額な自己資金を持っており、外部に資金調達を依存していません。これが以前と今の、 A I 開発体勢の大きな違いです。


★★★


前回書いたように、初期の頃、研究者たちは、「人の言葉を理解し、人のように話し、人のすることならなんでもできるコンピュータが遠からず実現するはず」と考えていました。

彼らは「楽観的過ぎた」ともいえるし、「自信過剰だった・技術を過信していた」ともいえます。


でも、こうも考えられます。もしかすると彼らは、「画期的な未来がすぐさま実現可能であると言わざるを得なかった」のかもしれません。

そうでも言わないと、スポンサーから巨額の資金が引き出せないからです。

そして、資金調達のために過大な目標をぶち上げてしまったがゆえに、早々と研究結果に失望したスポンサーを、これまた早期に失ってしまうという羽目に陥った可能性もあるのです。


ところが今、開発を主導している企業の経営者らは、スポンサーの顔色を伺う必要もなければ、世間に対して過大なアピールをぶち上げる必要もありません。

彼らは国民の税金で研究しているわけでも、ファンドの出資者のお金で研究しているわけでもないからです。


★★★


一般的に、「長期的には巨大なインパクトが期待できるが、そのためには巨額の資金が必要でリスクが大きすぎ、実用化されるまでに相当の時間がかかる研究」には、国の資金が投入されます。

その後、基礎研究が終了して実用化フェーズを迎えたら、今度は民間企業が独自に投資をし、それぞれの商品やサービスを開発し始めます。

しかし A I 研究の資金に関しては、それとはちょっと違う流れが起こっているように思えます。


前に、「企業は国家を超えた存在になりつつある」というエントリを書きましたが、今や「長期にわたり巨額の資金投入が必要で、しかも投資回収には相当の時間がかかる分野に関しても、自分で負担できる企業が生まれている」のです。

アマゾンもグーグルもアップルも、必要となれば A I 開発だけじゃなく、衛星を打ち上げたり、天然ガスを採掘したりするかもと思えるほどです。


前述したように 1950年から 1980年代までの「A I 冬の時代」は、研究者の大言壮語にスポンサーが失望する、という形で引き起こされました。

しかしこれからは、グーグルやアップルやフェースブックが、「これが企業の命運を分ける分野だ!」と考え続ける限り、研究が滞ることはありません。

では彼らにとって A I とはどれほど重要な技術なのでしょう? そして彼らはそれによって、何を実現しようとしているのでしょう?

次回はこの点について書いてみます。


今回の A I 関連のエントリは、下記の本の感想文です。わかりやすく、とても面白い本なので、ぜひお手にとってみてください。夏ごろに本書を課題図書として「第三回 Social book reading with CHIKIRIN 」を開催します。


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