アメリカ人ぽい人と話していると、911は世紀の一大事です。日本人としては、大きな事件であったことは確かですが、阪神大震災では911の倍以上の人が亡くなっているわけだし、「Before 911, After 911」というように世の中を見ることはあんまりないと思います。
でも、多くのアメリカ人、とくに東海岸の人にとっては、もはや世界の分岐点はキリストの誕生じゃなくて911なんじゃないかと思うほど、この前後の違いを意識してます。
911の前後で世の中がどう変わったと思うか?と聞かれて、ちきりんが答えるのは、技術の発展の方向が変わった、ということです。
ちきりんは、技術って戦争でしか進歩しないと思っています。民生用の多くの技術は、軍用技術のおこぼれが回ってきているだけです。
最初の戦いはその辺の木の棒を振り回して行われていた訳ですが、ある時から鉄器、ピストル、大砲、戦車、戦闘機などが出てきます。つまり「機械工学」の世界に入るのです。そして、その技術のおこぼれとして民生用の飛行機やビルなどの建造が可能になりました。
次に戦争は情報戦に入ります。無線や通信、レーダー、暗号解読なんかが大事になります。ステルスとかでてきます。迎撃ミサイルもミサイルの部分より“迎撃するためのシステム”に重点が移ります。
インターネットの技術も元々は軍事技術としてでてきて、そこからアカデミックの世界に、そして民生用の世界に降りてきました。技術分野でいうと、「機械工学」の世界が「電子工学・情報技術」の世界に移り変わったわけです。
そして911を境に、戦争世界はバイオ技術の時代に入るのでしょう。もういくら赤外線を当てまくって調べても、テロを飛行機に乗せないよう完全排除することはできません。だから、アメリカはパスポートに生体認証を入れろと言い出しました。入国審査でも眼の光彩や指紋を調べ始めてます。バイオレベルで敵を特定する必要があるのです。
こうなればバイオ技術も一気に進展するでしょう。米国政府が国防に使う予算は、病気の研究に使われる予算とは桁が違います。(米国の国防予算は年間50兆円です。ちなみに、日本の一年の税収の合計は40兆円です。)
今後は、テロも大きな爆弾を落とすとかではなく、生物兵器を考え始めるでしょう。次世代のテロは、すごい強力な感染力のウイルス性の疾病にかかった人をアメリカに送り込む、というような方法で行われるんじゃないかと、ちきりんは想像しています。
コレラ菌もエボラ菌(?)も、それを体内に持った人を米国行きの飛行機に乗せれば、今の米国の入国審査でそれを見つけることは不可能でしょう。入国審査官の前を通る時だけ、しっかり自分で歩ければよいのです。
そうなればアメリカも黙ってはいないでしょう。今は入国時に光彩と指紋をとられますが、そのうち唾液をとったり血をとったりし始めるかもしれません。手の指にピッと針を一瞬刺す。血もでないような小さな傷口。でも、それでその人が持っている病気もわかるみたいな機械。そういうのが入国審査カウンターに常備されるようになるでしょう。
大変な話です。ほとんど星新一の世界です。そしてそういう技術は、当然の事ながら、医療など民生用の技術にどんどん応用されていくわけです。
というわけで、戦力の要は
(1)人間の体力
(2)機械工学的技術
(3)電子・情報工学的技術
(4)バイオ・生命工学技術と移り変わっています。
911は、(3)と(4)の境目をクリアにつけてくれました。それがBefore 911, After 911です。
では、その後はどうなるのか?ちきりんは、
(5)人間の精神力みたいになるんじゃないかと思ってます。
パニックしないとか動揺しないとか、つまり、感情を完全にコントロールできるような、そういう人が勝つ世界になるんじゃないかな、って思います。単なる思いつきです。なんで?と言われても困ります。
バイオって生命工学だから、もう人間に関する技術としてはこれで終わりでしょ、って思うのです。ちきりん的には、機械工学は人間の運動能力の代替物を作るってことだったし、電子・情報工学は人間の五感と判断能力の代替物を作ろうという動きです。生命工学に入ったら、人間そのものの代替物を、という動き、つまり、生物学的なアプローチとしては最終段階だろうと思います。
それ(人間そのもの)以外に、コントロールしたいものがあるとすれば、例えば、時間とか空間とか言う物理学的な話になってしまう。ドラエモン技術ですね、どこでもドアとか。それはあるのかも、とも思うけど。でも、それが次にきたとしたら、その後、最後はやっぱ人間に戻るんじゃないかな?という気がします。
人間の体力の補強というところから始まった“戦力”が、人間の精神力ってところで終わるってのは、おもしろいんじゃないかと。別におもしろいかどうかが重要なわけではないでしょうが、なんとなくそういう気がしてます。「心の強い人の勝ちな世界」の到来です。年齢的にちきりんには、見られないと思いますが。
★★★
911的なるもの、つまり、国全体が「あの時歴史が動いた!」と思えるような何かに遭遇することって、とても希有な経験です。戦争を知っている世代だと「終戦」はそういうものだったと思います。明治維新もそういう感じでしょう。
でも現在の私たちにとって、みんなで共有できる、個人的ではない“Before After”ってなんなんだろう。あんまり思いつきません。アメリカ人にとってはそれは911なんだけど、私たちにとってはそれはなに?
別にそんなもの無くてもよいのよ、という意見もわかります。でも、なんかそういうものに遭遇したかったな、とも思います。(まだこれからあるかもしれませんが)。
ちきりんが(あと何年生きるのかわかりませんが)何かBefore Afterと言えるような「その時歴史が・・・」と言える瞬間に遭遇するとしたら、それはいったいどんなイベントなんでしょう。ちょっと怖くてちょっと楽しみです。
ではまた明日