防衛省の事務方トップ、守屋(元)事務次官の長男に消費者金融からの借金があり、父である守屋氏にも借金の取り立てが来ていたとか。
で、彼はその「息子の借金」の返済金を、防衛省の納入業者に払わせていた!
という報道を見て、「なるほどね」と思いました。
この件で思い出したのが、先日 3度目の逮捕をされた女優、三田佳子さんの次男。覚醒剤で 3度目の逮捕。
しかも今回は“通報”されたらしいから、“隠せないレベルの中毒状態”だったのでしょう。
このふたつのニュースで私がスゴイなと思うのは、“狙う側”の視点です。
★★★
消費者金融も覚醒剤も、手をだす方がアホなのであって、「オレはしっかりしているから、そんなことは絶対しない」と思う人もいるのでしょうが、実際には、上記のふたりと“わたし&あなた”のおかれた状況はまったく違います。
普通の人は、学生時代に朝まで六本木や渋谷の飲み屋やクラブにいても、「覚醒剤ありますよ」と、声をかけられたりしないです。
そういう生活が半年や一年続いても、そんなものに誘われる可能性はほとんどないです。
自分の方から危ない人に近寄って、こっそりバーのマスターに「覚醒剤が欲しいんだけど」と言っても、実際に入手できるまで、相当の時間がかかります。
そんな簡単に入手できないんです。
なんでかというと、売る方がリスクマネジメントをするからです。
今日あるアホに覚醒剤を売ったら、そのアホが数日後に「オレさ〜、この前スゴイもん手にいれちゃってさー」などと合コンで自慢し、
警察に捕まったら今度はすぐに「すみません〜、初めてだったんです。えっ? 買った店ですか? 渋谷のあそこの○○です〜。 何日の何時頃に、○○さんって人から買いました〜」みたいなことをぺらぺらしゃべる。
こんなのに薬を売ってたら、売人はすぐ逮捕されちゃいます。
だから、「そういうことにはならない」と確認しないと売りません。(大麻とか合法ドラッグなら、もう少し簡単に手に入ります。ここで言ってるのはもうちょっと高いモノの話)
また彼らは、中毒になりかけた時に“問題になりやすい人”にも売りたがらないです。
覚醒剤は値段も高いので、中毒になると普通のサラリーマンでは経済的にすぐに破綻します。
最初はみな消費者金融でお金を借りますが、それも続きません。
お金が無くなれば、他のものなら「買うのをやめる」わけですが、覚醒剤は中毒になるから「やめられない」
すると、借金ができなくなった段階(闇金からも借りられなくなった段階)で、かならず犯罪に走ります。
そして、犯罪に走ると逮捕されます。
知能犯ではありません。
ラリってわけのわからない行動にでるわけ(包丁を持ってコンビニに押し入るとか)ですから、すぐに捕まります。
そして速攻で逮捕され、速攻で覚醒剤やってたことがバレ、速攻で薬の出所が探られます。
こういう人には薬売りたくないんです。売人も。
★★★
じゃあ、誰に売りたいか。
ベストなのが「いくらでも金の出てくる客」です。
中毒になっても、いつまででも犯罪をおこさずに、お金が出せるレベルの人。
三田佳子氏の次男は、前回の逮捕では、自宅の地下室に友達を集め、みんなで覚醒剤をやってたところに踏み込まれて逮捕されてます。
この頃、彼は友達の薬代もすべて払っていました。
これは売人側から見ると、めっちゃ“筋のいい顧客”です。
売人側は、一度こういう人を見つけたら“決して離さない”し、むしろ積極的に“アプローチして”きます。
たとえば最初は合コンで、かわいい女の子があなたにチラチラと目線を送ってくるんです。
で、
「あれ? えっ? そういうこと?」とか言って、いい感じになったら、ベッドの中で『さあこれから!』というタイミングで彼女が言うのです。
甘えた声で、
「ねえ、コレ使ってみようよ」と。
彼らは、どうすれば男性が最も断りにくいか、熟知してます。
ちなみに、この女性も軽くジャンキーです。
彼女はこういう役目を担うことにより、一ヶ月分のクスリをタダでもらえると、胴元から持ちかけられています。
そう言われれば、喜んでそういう役目を引き受ける程度に、ジャンキーな女の子です。
つまり、あなたが「超有名人、もしくは、すごいお金持ちであるか、もしくはその息子、娘」であったなら、こういうことへの誘惑は、普通の人より、遙かに大きいんです。
有名な芸能人、スポーツ選手、政治家などの息子、娘であって、一度こういうものが手に入ってしまうと・・・相手が離してくれなくなります。
別の言い方をすれば、普通の人であるあなたは「売人に信用されてない」わけですが、
こういう立場にいると、向こうがあの手この手で寄ってきて、誘ってくる。
脇が甘いと(もしくは、とても素直な性格だと、)“ひっかけられて”引き込まれるでしょう。
「そうなってしまうリスク」は、普通の人とは全く異なるレベルなのです。
芸能人の子供が薬で捕まると、「親が甘やかしてるんだろう」とか「しつけができてない」と思われがちですが、それだけではありません。
彼らは「狙われている」んです。あたしたちと違って・・・
★★★
もちろん、そういう立場にあるすべての人がそんなのにひっかかるわけではないので、本人の責任を減じる議論をする気はありません。
ですが、少なくとも「なんで 3回も逮捕??」ということの裏には、「狙われた獲物」がどれくらいこういう罠から逃げにくいか、という特別な事情もあると知っておくべきでしょう。
三田佳子氏の資産が残っている限り、“業界”はこの次男を離さないです。
いくらでも買ってくれるんだから。
反対に一般の人だと、中毒になって犯罪をおこして捕まり、塀の中から出てきて、また薬を買おうとしても、売人の方も「おっさん、もうアカン。やめとき」って言ったりします。
「こんな金の無いおっさんに売ったら、またすぐどっかのコンビニに包丁もって暴れこむ。ややこしすぎ」と思われたら売ってもらえないんです。
売人は中毒者を作りたいわけではなく、「金ヅル」を探してるんです。
彼らがやってるのは「商売」だから。
★★★
若い女性が(中年男性なんかより)消費者金融からお金を借りやすく、薬も手に入れやすい、というのは事実でしょう。
若い女性には「捕まりにくい方法でお金を稼ぐ術」があるからです。
昔、武富士の創業者が貸し金業を始めたとき、収入のない団地住まいの専業主婦にもお金を貸し始めました。
その際、貸すかどうか決める前に、早朝にその人の家を見に行き、早朝に布団や洗濯物がベランダに干される家にはお金を貸し、そうでない家には貸さなかった、というのは有名な話です。
ロジックはこうです。
「きちんとした生活をしている家は、ちゃんとお金を返してくれる」「昼まで寝ているような家にお金を貸したら返ってこない」
銀行が担保だけに頼って融資をしていた時代に、「実質的な返済能力」に注目した融資を始めた。
この画期的なパラダイムチェンジが大成功し(=実際に、朝ベランダに洗濯物を干す家は返済率が高かった、ということです)
消費者金融は次々と「どんな人がきちんと返済するか」という細かなノウハウを蓄積していきます。
メガバンクが喉から手が出るほど欲しがった「個人信用DB」は、こうした「実質的な返済能力を見分けるノウハウ」の蓄積によりできあがりました。
★★★
業界はその後「きちんと生活していなくても、返済能力の高い人がいる」と気がつきます。
若い女性、有名人や資産家の子供、親が高級官僚だったり、田舎で田んぼをもってる人などです。
結局のところ返せているから問題になっておらず、だから統計もないだけで、
ものすごい額のお金が「親が田んぼを売って、息子の借金を一括返済」とか、「大企業に勤める親(公務員の親)が、老後のための貯金や退職金をつぎ込んで、子供の借金の後始末をする」
という形で消費者金融に流れているはず。(この場合、借金の原因は薬ではなくギャンブルという場合が多いです)
「失いたくないモノがある」人は、返してくれる。
「守りたいモノがある」人は返してくれる。
気軽に金を借りに来たり、薬を買いに来るアホな若者には守りたいものはありません。
でも、その娘や息子がかわいくてしかたないアホな親には「守りたいもの」がある。
「守りたいもの」とは、
自分の仕事と名誉とか、
自分の息子や娘、
そして、もしかしたら修復できるかもしれない親子関係、など。
★★★
「狙う人側の視点」というのは、残酷で実務的です。
しかも「狙う側」は明確に「彼らを狙う理由を意識」しています。
守屋家の長男に多額のお金を貸し付けたサラ金業者も、三田さんの次男に薬を売っていた売人も、「彼らに目を付けた理由」を明確に意識していました。
その一方、守屋氏にも三田夫妻にも「うちが狙われている」という意識があったとは思えません。
あったのは「うちのバカ息子が」とか「育て方を間違えた」という考えだけです。「こっちが悪い」と思っていたのでしょう。
いやもちろん「そっちも悪い」でしょう。
しかし、それだけではないんです。
彼らは「目を付けられて、罠をしかけられ、ちょっとでも対応を間違えると引きずりこまれる」立場だったのです。
★★★
覚えておきましょう。
狙う側は、狙われる側より常に「一生懸命」です。
狙われる側は、それに較べると圧倒的に「のほほん」と生活しています。
そんなことを再認識させられる、ふたつの事件でありました。