消費税増税が議論されています。
日本は歳出の半分しか税収がないので、どこかの段階で大幅な増税が必要になることは間違いありません。
日本の各種税金の税収に占める割合(右側半分ほどが税収。左側は借金)は下記のようになってるんですが、
(単位:億円、出典資料)
これをみてわかるのは、「細かい税金をいじっても根本解決にはならない」ということです。
増税というと健康によくないたばこ税や、お金持ちから徴収すべきという主張で相続税などが真っ先に槍玉にあがります。
けれどそれら周辺的な税では、税率を倍にしても全体への増収効果は限定的です。
相続税やたばこ税を上げろという意見は、財政改善策ではなく「特定の思想の実現策」に過ぎません。
財政再建のために必要なのは、そんなインパクトの小さい増税ではなく、基幹税である「法人税」、「所得税」、「消費税」のいずれかを倍にできる方策です。
そしてこの3つの中で「税率を倍」&「税収を倍」にできるのは、消費税しかありません。
法人税は企業から、所得税は労働者から、そして消費税は消費者から徴収する税金ですが、このうち、最も「逃げるのが簡単」なのは企業です。
法人税を倍にしたら外資系はもちろん、さすがの日本企業も本社の移転を真剣に考えるでしょう。それが無理でも多くは、利益を他国の法人に移転しようと考えます。
だから税率を倍にしても、税収が倍になることはありません。
所得税率はどうでしょう? 倍にできると思います??
自分ゴトとして考えてみてください。もし本気で政府が所得税を倍にするといいだしたら、政権交代が起こるはず。
所得税が倍になるなんて、大半の人は耐えられないし、受け入れません。
「所得税を倍にはぜったいしません」という野党が(一時的であれ)政権をとることになり、結果として倍率への増税は不可能です。
企業だって、日本で働く人の数をできるかぎり圧縮できないか考え始めるだろうし、外資系企業の社員などは、所属が香港やシンガポールに変更され、日本には出張ベースでやってきて仕事をするという形になるかも。
日本が大好きな私でさえ「所得税を倍にする」と言われたら仕事をやめて、(所得税ではなく一律 20%しか課税されない)配当や投資で食べていく形に稼ぎ方を変更します。
すでに種銭レベルの貯蓄ができてる人なら、みんなそう考えるでしょう。
このように、あらゆる人が対策をとるので、所得税 2倍なんて実現しえないです。「倍」ってのは、ものすごいインパクトだから。
ところが消費税の場合、倍の 10%にしたくらいでは、海に囲まれた日本で「消費が海外に移る」ことは考えられません。
アメリカとカナダの国境近くの街では、消費税や薬価の違いによって買い物ツアーが生じ、消費が移動しますが、
たかだか 5%ほどの違いのために日本からアジア諸国に日常の買いものに行くなんて割が合いません。
しかも消費税の場合、日本人以外の人(海外から来た観光客や留学生)も消費するたびに税金を払ってくれます。
これから人口(特に、働く年代の人)が急激に減る日本で所得税を増やすのは大変なことですが、消費税なら日本の人口が減っても税収が増やせるのです。
こう考えると、法人税、所得税、消費税という基幹税の中で、財政赤字を解消するために効果的かつ現実的なのは、消費税の倍率への増税くらいなんです。
★★★
消費税増税に反対する人が常に掲げる理由は、「消費税は逆進性が高い」というものです。
「消費税は金持ち優遇だ。貧乏人ほど負担が大きい」と彼らは批判します。
けれど私は、これも「本当にそうなの?」と疑っています。
お金持ちの多くは自分の会社を設立し、顧問税理士や顧問バンカーを雇って専門家の知恵を結集し、所得税や法人税(もちろん相続税も)を圧縮すべく、さまざまな「節税対策」を(合法的に)駆使しています。
けれど、彼ら富裕層がクルーズ旅行をし、数百万円もする高価な宝石付きの腕時計を買い、一人数万円もの食事を家族で楽んで10万円超の食事代を払うとき、消費税を節税できる合法的な策はほとんどありません。
50万円のコートを買ってその消費税をごまかせる個人だって、存在しないでしょう。贅沢な消費をすれば、みんな消費税をどっさり払うことになるんです。
同様に、大企業も法人税はあの手この手で節税できますが、豪華なオフィスの設備費用や業務経費に掛かる消費税を「節税」する方法はほとんどありません。
このため法人税に関しては、誰もが知る大企業がほとんど払っていない、という場合もあるけれど、「誰もが知る大企業が、消費税をほとんど払っていない」という状態にはなりえません。
所得税に関しても、貯金と年金で暮らす富裕層の高齢者より、必死で働いている庶民の方が多く支払っています。
けれど消費税に関しては、まず間違いなくお金持ちの方が貧乏人よりたくさん払います。
この意味で、「消費税の逆進性が高い」というのが、私には嘘に見えます。
「消費税は貧乏人に不利で金持ちに有利だ」というのは、教科書的な理論にすぎないのでは?
★★★
しかもこれからは高齢化に伴い働く人がどんどん減っていくのだから、働く人から徴収する税金(所得税、法人税)より、働いてなくてもお金のある人からも徴収できる消費税の重要性は益々高まります。
だって高度成長期に働き終え、既に十分な資産を形成した高齢者は、消費税がゼロだったら、定年と同時にほとんどなんの税金も払わなくなるんですよ?
引退した売れっ子芸能人や作家、スポーツ選手も、働くのを止めて「悠々自適」な生活を始めた時点で、払う必要があるのは消費税だけです。
多額の退職金を受け取って引退した大企業社員、
田んぼをコンビニやパチンコ店に売って数千万円の貯金がある元農家、
自営業でそこそこ成功して小金を貯めた中小企業のオーナーや
芸能人、作家、プロスポーツ選手などとして人気がでて多額の資産を持っている人
こういう人が引退後に払うのは、基本的に消費税だけです。
しかもそういう人の中には、(自営業だったので国民年金しかもらっておらず)年金額が月数万円とごく僅かな人も多いんです。
多くの人は「低年金の高齢者」と聞くと、貧しい人をイメージしますが、実際には、低年金・低所得で大金持ち、という高齢者がたくさんいるんです。
日本は福祉大国なので、こういった低年金の高齢者には、多彩な福祉サービスが提供されています。医療費負担だって低いし、高齢者向けの格安価格が設定された施設だってたくさんあるでしょ。
それなのに、彼らが引退後に払うのは消費税だけ。
その消費税を低く抑えるってどうなの?
ここを増税しないで、どーするの?
日本の貯金の半分以上は高齢者が持ってるんだよ?
★★★
そもそも欧州の消費税は 日本より遙かに高い水準です。なにかというと北欧の福祉制度がすばらしいと持ち上げる人がいるけれど、スウェーデンの消費税は 25%に近い。
移民のおかげで人口が増え続け、少子高齢化にもっとも遠い先進国のアメリカでさえ、大半の州の消費税は 10%前後です。
世界でもっとも高齢化の進む日本で、消費税がそれより低いとかありえません。
高度成長が続き、人口が増え続ける途上国以外=先進国というのは、そういうレベルの課税が必要になるんです。
消費税を上げると貧しい人が困るとか、高齢者にも貧しい人がいるという理由で、消費税増税に反対するのもおかしいです。
「貧しい人が困るから消費税を上げるべきでない=お金持ちからも税金を取らなくてよい」ではなく、
消費税を上げて税金をしっかり徴収し、そのお金で貧しい人を助ける、というのが、国が果たすべき再配分の姿です。
消費税はきっちり上げ、貧しい人には別の福祉政策できちんと還元する。私にはこれがもっとも公平な施策に思えます。
だってもし反対が多くて消費税増税ができず、税収が足りなくなれば、政府は行政サービスや福祉のレベルを切り下げてきます。
それで困るのは、金持ちではなく貧乏な人でしょ?
これに限らず、弱者自身が“弱者に有利な制度”に反対して潰してしまう例は他にもあります。
解雇規制の撤廃は、今、失業している人や年収の低い人には有利に働きます。解雇規制の撤廃が最も怖いのは、現在の給与が高い人なのです。
なのに必ずしも年収が高くない人の中にも、解雇規制撤廃に反対する人が多いのはよく理解できません。
国民統一番号制度の導入も同じです。仮名口座で脱税しているお金持ちや、違法な口利き料を受け取っている政治家にとっては、この制度の導入は身も凍るほどの恐怖でしょう。
これは、現時点でまったく課税されていない金持ちの脱税資金に課税できる、一般庶民には極めて有利な制度なのです。
なのに、資産もたいして持たない人が「管理社会、絶対反対!」などという理由で反対するのは全く意味不明です。
「何が自分たちの得になるのか」、教科書的な知識ではなく、現実に即して、合理的、実利的に考えるべきではないでしょうか?