昨日使ったデータについてさらに調べてみたら、おもしろかったのでまとめておきます。
その中には、昭和62年(1987年)と平成19年(2007年)の比較で次のような数字がありました。
1987年の被雇用者数=4306万(正規雇用3456万人+非正規雇用850万人)
2007年の被雇用者数=5326万(正規雇用3436万人+非正規雇用1890万人)
2007年のほうは、社民党、民主党、さらに“ロスジェネの味方のふりをしているマスコミ”が「今や会社員のうち35%以上が非正規雇用!」と報じる元データです。
でもよく見ると「あれっ?」と思いませんか?
だってこのデータをみる限り、過去20年で正規雇用数はほとんど変わってないですよね。非正規雇用が増えてるだけなんです。しかも1000万人も!
これだとその意味するところは、「正社員が減って、不安定な非正規雇用が増えた」のではなく、「正社員は減っていない。それに加えて、非正規で働ける機会が過去20年で大幅に増えた」のです。これはよく聞く経営者側の主張です。
20年前より今、この国で1000万人も(いわゆる会社で)働く人が増えているってどーゆーことなんでしょう?
それって誰が働き始めたの??と思って別の統計などを見てみたら、結構クリアに世の中の動きが現れていたのでご紹介。
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まず、この20年における総労働人口の増減を調べてみると、25〜59歳人口は190万人増えています。でもこれでは働く人が1000万人も増えたことは説明できません。
そして正社員数はほぼ不変なのに人口増は3%増にも満たないので、「労働人口に占める正社員の割合」も過去20年で急激に下がったわけではありません。
「正社員になりにくい世の中になった」というのは、国全体で言えば嘘に近いんです。
ところが、これを年齢別に見るとおもしろいことがわかります。この20年の間に、
35歳未満では:正社員が239万人減り、非正規雇用が373万人増えています。
35から54歳では:正社員が35万人減り、非正規雇用が273万人増えている。
55歳以上では:正社員が254万人増え、非正規雇用が394万人増えてます。
すごいクリアでしょ? 最初に「正社員の総数は減っていない」と書きましたが、35歳未満では「正社員は大幅に減っている!」わけです。
これは「35歳未満の人口が減ったから」なのでしょうか?次は年令別人口の変化を見てましょう。
25歳〜34歳の人口:78万人増加
35歳〜54歳の人口:267万人“減少”
55歳〜60歳の人口:383万人増加
なんと35歳未満の人口は減ってないんです。増えてるんです。それなのに、その年代での正社員は激減しています。
最初から全部見てみると、55歳以上では、人口も(それよりは少ないけれど)正社員数も増えていて、人数が増えた分の66%の人は正社員の座を確保しています。
35歳以上の中高年層では、人口は267万人も減ったのに正社員数は35万人しか減っておらず、実はこの層の人は過去20年で「より正社員になりやすくなって」ます!
そして、先ほども書いたように35歳未満では、人口が78万人増えているのに、正社員は239万人も減っています。この世代にいかにしわ寄せが集中しているか、明確に現れていますよね。
よく言われていることではあるのですが、数字で見るとやっぱり、ちょっとびっくりです。
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というわけで、割をくったのが若年層であることは証明されたのですが、いったい誰がその「割をくわせたのか?」ということを詳しく見てみましょう。
ほぼ同じ20年で男女別、年齢別の「被雇用者数÷人口」の比率を見てみると、「新たに働き始めた1000万人って誰?」というのがわかります。
男性24歳以下:88%→88%
男性25歳〜34歳以下:86%→89%
男性35歳〜54歳以下:78%→86%
男性55歳〜64歳以下:63%→78%
男性65歳以上:37%→51%
女性24歳以下:91%→91%
女性25歳〜34歳以下:73%→90%
女性35歳〜54歳以下:64%→86%
女性55歳〜64歳以下:45%→75%
女性65歳以上:27%→43%
プラス変化の大きいところを赤にしてみました。
そう、新たに労働市場に参入してきたのは、「女性と高齢者」なのです。特に35歳以上女性の被雇用比率の上昇には驚くべきものがあります。これはまさに子育て時期の女性なので、子供を産まない人(結婚しない人含む)、子供を産んでも働き続ける人などが、この20年で急増したことを示しています。
実はこの20年はちょうど雇用均等法の実施期間でもあり、それに伴い「女性が結婚、出産で仕事を完全に辞めてしまう時代が終焉しつつある」と言える結果になっています。
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でも女性の中高年なんてどうせスーパーのパートでしょ?彼女らに正社員ポジションを取られたわけではないのでは?という気もしたので、過去20年で正社員ポジションが誰から誰のところに移動したの?ってのをグラフにしてみました。
水色の人が正社員ポジションを失った人達、オレンジの人達が正社員ポジションを得た人達です。一番最初に書いたように、過去20年で正社員数はほぼ変わっていません。でも、誰かがそれを失い、誰かがそれを得たんです。合計すると増えたり減ったりして変わっていないけれど、その中身は大きく変わっているのです。(ほんとはこれも人口比にしたいのですが、夕食の準備しないといけないのでまたそのうち)
これをみるとこの国で、誰が権力を持っているのか、よくわかるでしょ?
右から“強い順”です。
おもしろいのは、「シニア世代では相変わらず男性が強い」けれど、その下の年齢層では女性が男性を圧倒しているということ。たとえば35歳以上女性の正社員数プラス幅は大きくはないけど、同世代の男性と比べると健闘している。これは若者層でも同じ。35歳以下の男性の負けっぷりと比べれは、女性の負け分は半分に収まっている。
ふーん。
このグラフ見ていて思いました。選挙に行く比率、つまり投票率もこれと同じ並びなんじゃないかなって。(追記:投票率についてはこちらをどうぞ→http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080921 元データには男女比も掲載されてます。同じ並びでしょ?)
そういうことなわけです。
“35歳"を救え なぜ10年前の35歳より年収が200万円も低いのか
- 作者:NHK「あすの日本」プロジェクト,三菱総合研究所
- 発売日: 2009/11/28
- メディア: 単行本