立法は(ネットで)全員で。

ちきりんはITやネットに全くついていっていない*1。知識も経験も関心もレベルが低い。なんだけど、ネットやらITへの“期待”は非常に大きい。これはすごい!と思ってる。世の中を変える、と確信してる。


新聞業界は崩壊するよね、と書いたエントリ*2のコメント欄でも触れたけど、大事件が起きた時にそれに関するすべてのサイトをまとめて表示するようなサイトを、遠くない未来にグーグルとかが立ち上げてくれると信じてる。

たとえば脳疾患を起こした妊婦が搬送先を見つけられずに死亡した、という事件が起これば、時系列の説明サイト、当事者のHP(病院や東京都や厚生労働省の関連ページ)や、専門的な医学的解説をしている医師のブログ、過去の医療事故の判例(体制が整っていないのに受け入れてしまうこと自体が罪になる可能性があるなど)が詳説してあるサイト、記者会見やニュースの動画、妊婦の死亡事故の過去の統計ページ、個人が感想を書いたブログなどを即座にまとめたサイトが自動的に生成される、みたいな。

ニュース版のウィキペディアと言ってもいいし、まとめサイトの一種と考えてもいい。それが今のグーグルのニュース画面みたく、分野別に列挙され載っている。毎日更新される。そしてネットが苦手な人向けに、事件ごとにそういうのをプリントしてファックスしてくれたりテレビに配信してくれるサービスができる。(アーカイブを管理するビジネスのイメージ)

そういうのが出来たら、「医師が一人いるならなぜ受け入れられなかったのか?」のような意味不明なコメントを繰り返す単細胞なキャスターや、厚生労働省や地方自治体を責めればよいと考えている安直な新聞の存在価値は消えてしまうだろうが、反対に「じゃあ、この問題はどう解決していけばいいのか?」という、より実践的で問題解決型の議論が起こりやすくなる、と思う。

そしてネットの中でそういう議論を率いていく人が、“ネット世代のリーダーシップ”という概念を新たに作っていくだろう。それ諷に言えば“リーダーシップ2.0”だ。

今までって“リーダーシップ”っていうと、すごく“人間系”のスキルが重要だった。話し方、プレゼンス、リアル社会での知り合いの多さ、顔の広さ、みたいなね。

でも、ネット上の議論を率いるリーダーなら、ITやネットに関するリタラシー、議論の方法論に関する知識、ネット上で議論するための経験値(生産性のない非難の応酬をどう避けるかなどの知恵)の方が大事なんじゃないか。世間で典型的に想像されるリーダー像よりは、もっと“オタッキー”なタイプのリーダーが、そういうのを率いていくんじゃないか、という気がする。


と、前置きが長くなった。


へっ? まだ前置きだったの???


すみません・・・


本題に入ろう。


ちきりんが、ネットがリアル社会を大きく変えると期待しているひとつの分野が「政治の世界」だ。これも繰り返し*3だが、生体認証により、投票がネットで(携帯かPCから)できるとなれば、投票者のプロファイルは大きく変わる。これは世の中を変えうるインパクトを持つと思うし、反対に“それ以外にこの国の政治体制を変える方法論なんてありうる?”くらいにちきりんは考えている。

このことの必要性(可能性ではなく、必要性ね)を強く感じるのが、あまりにも顕著な「考えの足りない立法措置」の連続だ。

たとえば、障害者自立支援法。障害者が日々の生活をするのに必要な支援を受けると、その費用の一割を負担すべし、という内容を含む法律だ。この法律、分断されていた障害者関連法案をひとつにまとめるなどそれなりの意義もあるのだが、「根本的におかしな思想」が含まれている。

だって障害が重度の人ほどより多くの(長時間の)サービスの利用が必要ということは誰でもわかる。そして障害が重度なほど収入が得られないということも誰でも分かる。すると、障害が重度な人ほど、「収入は少ないのに、必要な支援が多い=(一割)負担額も大きくなる」となってしまう。

誰が考えても“変”でしょ。普通は障害が重度であればあるほど、負担を少なくすべきだし、多くの支援を受けられるようにすべきだ、よね。

ちきりんはこの「根本原則が変」という法律が最近多いなあと思うのですよ。


後期高齢者医療保険も同じ。保険ってのは「若い健康なうちにお金をためておいて、年をとって病気になりやすくなったら医療費を払ってもらう」という仕組みだ。なのに、病気になりやすくなった人だけを分離して(保険)制度を作るってどーゆーこと?それは保険と呼ばないだろう?

ご丁寧に役所は、若い人が入っている保険組合に対して「あなたがたの払っている保険料がこんなに高齢者の医療に使われているのですよ」などというプロパガンダを始めているのだが、あまりに意味不明。

官僚はこの宣伝によって「そうか、じゃあ、高齢者を分離してくれてありがとう!」と若い人が考えると思っているらしいが、「自分は一生年をとらない」と信じている国民は多くない。

将来のために今負担を払っている保険という制度で、「ほら、病気になりやすい年齢に達した人達は分離してあげましたからね、嬉しいでしょう?」と言われても・・・困るよね。


障害者自立支援法も後期高齢者医療保険も、“施行の段階になって初めて世の中が騒ぎ始めた”というのが共通点だ。世の中とは、一般人だけではく大マスコミも与党の国会議員も含む。彼らでさえ立法時にはこれら法律の意味するところを全く理解してなかったんじゃないかな。

なんでこんなことが起こるのか?なんで立法議論の段階でもっとちゃんとした議論ができないのか?


これがいわゆる“官僚主導政治”ってやつですよね。これらの法律は、支出を少なくしたい厚生労働省などの役所が机上で考えてテクニカルに法律に仕上げて通してしまっているのだ。

実際にそれが施行された時に、どんな問題がでて(結局もたなくて骨抜きにしなくちゃいけなくなる)などということは、世間を知らない官僚組織には予想もできない。第一、施行される2年後には自分は別の部署にいるし、ってのが官僚のキャリアパスだ。


昔はどうでもよかったのです。だって日本は成長していてお金はたっぷりあった。だから作る法律は基本的に国民に利益があるものばっかりだった。だから官僚が適当に作っても問題ない。しかし、今は国民負担を増大させる新法もたくさんある。だから官僚が適当に法律を作ると、「おいおい、いくら金がないといっても、これはないだろ??」みたいな法律が増える。それが、今起こっていることだと思う。



法律って年間どれくらいできているか?

国会で成立するのはだいたい150〜200くらいです。ただし、大半は既存の法律の一部修正なので、完全な新法、もしくは非常に大きな意味を持つ改正は30〜50本くらいじゃないかと思われる。

「そんなたくさんの法律ができてんの?」という感じもするが、一方で「年に40本くらいの法律なら、もっと皆で深く議論できるんじゃないの?」とも思う。

国会ってある種のショーだから、そのうち2本くらいの目玉法律のみ議論して、マスコミもそれについてしか報じないでしょ。たとえばインド洋で給油するかどうか、とかだけ議論し報道する。

でもそれ以外にも私たちの生活に影響を及ぼすたくさんの法律がある。でもそれらは議論も注目もされず“こっそりと”成立させられる。

で、施行されてから大議論になり、大混乱になり、骨抜きになり、政局になる。


あほらしくない?


で、ちきりんは期待するわけ。新法や既存法の大きな改正に関しては、官報などという「なにそれ?」みたいなメディアではなく、「ネット官報」で国会議決までの間一定期間は開示されなくてはならない、とかになれば。

そして、そこで開示された法律案について、わかりやすく解説したり、いろんな思想的立場の人が意見を述べ合い、立法者側ももちろん応戦すればいい。

そしてグーグルみたいなところが、それに関する情報を(上記に書いたニュースサイトのイメージで)集めてくる。議論サイトができあがる、みたいな。

そーゆーの簡単だとは言わないが、今のネットの動きをみていると少なくとも「夢物語ではなくなってきた」という気はするのですよね。


いやもちろん、もっと進めば、そこで投票すればいい。つまり、国民投票って今までみたいに「憲法改正だけ」みたいな重い制度である必要はなくなってくる。

国民全員が投票することの事務的コストがITやネットによって大幅に下がったら、ごくごく普通の立法だって全員でできんじゃなの?ってさえ気がしてしまう。なんでわざわざ「国民の代表」を選んで議論させる必要がある?自分たちで直接やりゃーいーじゃん。

ローマの時代から今まで、すべての国が「国民の代表」を選らんで、彼らに立法を委ねていた。それは「全員で立法する」っていうのが実務的に無理だった、ということ以外に理由があるんだろうか。

もしも実務的に可能になるなら、なんでそっちに戻らない?(ここで衆愚政治などというアホな議論がまたぞろ起こりそうなのだが、とりあえずその話は今は無視。)

行政や司法には選任担当者が必要だと思うが、立法は直接政治が可能になるんじゃないの?ってのがちきりん的予測なんですよね。


あほみたいなこと言ってるかも?

そうね、ちきりんはネットやITに関して、最初に書いたように非常に期待値が大きく、楽観的です。「そんなの簡単にはできないよ」という意見が大半なのだろうし、普通なのだと理解しています。

でも、ちきりんの意見は違います。「きっとできるよ」と思ってる。「そのうち実現するよ」と思ってる。

ちきりんがネットに関心をもっているのは、この点、すなわち「リアルな社会を根本的に変える可能性」に尽きると言ってもいい。「世の中の変わり目をみたい」ちきりんの希望は、今まで予想していなかった形で実現されるかも、そんな希望がもてるだす。


そんじゃーね。


*1:関連エントリ:Web2.0最後尾: http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080908

*2:関連エントリ:新聞業界崩壊の理由: http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080727

*3:関連エントリ:政治影響力: http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080921