年収分布をみてあれこれ

先日は時間がなくてデータ転載だけだったので、今日は数字を見ながらちょっくら考えてみましょう。

ところでid:kohekoさんがデータをグラフにしてくださいました。男女の収入分布の違いがとてもわかりやすいです。→ chikirinさんのデータをグラフに どうもありがとうございました!


さて、あの数字をみた時の最初のちきりんの感想は、当日にも書いたように「男女差ってまだまだひどいんだな〜」ってことだったのですが、更に詳しくいえば男女の比較における注目点は下記の3つとなります。

(1) 全体の給与所得者が1000万人も女性の方が少ない。
(2) 200万円未満の収入の人が、男性264万人、女性768万人と女性の方が500万人も多い。
(3) 1000万円以上などの高所得層において、女性は圧倒的に少ない。


★★★


ひとつずつ考えていきましょう。まずは(1)について。予想以上に大きいなあと思いました。この1000万人の内訳は、

・全く働いていない人
・一年のうち数ヶ月のみ給与所得で働いている人
について「女性が男性より多い人数分」の合計と考えられます。


全く働いてない人、確かに男性よりかなり多そうですよね。この中には二つのパターンがあり、ひとつは子育て中の人達。子供二人、三人となると(同居の親世代の有無にもよりますが)継続的に働くのは困難になると思います。

また、実はシニアな夫婦も専業主婦が多いのではないかと思います。60才になって子供が独立しても、「男性は再就職して働き、女性側は家事担当」という分担の家庭は多そう。特に今のシニアは伝統的な役割分担の価値観が強そうだし。


二番目のも一定数ありそうですね。主婦は“世帯の手取り合計”を最大化するために収入調整をしますから、その方法として「一年ずっと働くけど週に2日しか働かない」という方法と、「集中して数ヶ月だけ働く」という方法がありえて、後者を選択すれば今回のデータの母集団からは除かれます。

なので、「家事労働専業の人」と「期間限定パート&アルバイト」の女性が、それらの男性より1000万人多いということかと思われます。ちきりん的には予想よりちょっと多いかなと思いましたが、こんなもんなんでしょうかね。

(自営業、公務員など民間企業での給与所得者以外の労働者が女性のが多いことも理由として論理的にはあり得ますが、数字として大きなインパクトにはならないと思います。)


★★★

(2) 200万円未満の収入の人が、男性264万人、女性768万人と女性の方が500万人も多い。

結構大きな差ですねえ。この理由はわりと明らかで、上記にも書いた“世帯の合算手取りの最大化“のために収入調整をしている主婦がいるから、でしょう。

ちなみに同じ資料に「配偶者控除を利用している人の数」が平成18年で1126万人と記載されています。この1126万人の配偶者は「働いてない、or 控除を受けられる収入であった」という人で、その大半が女性でしょう。この女性達が上記の(1)と(2)にわかれて、合計1126万人いるってことです。それぞれ500万人ずつくらいと考えればいいのかもしれません。


あと、いわゆる低所得になりがちな仕事の種類も、性差と結びつけられる格差があるかもしれません。たとえば、
・工事現場、建設現場の仕事
・物流系の仕事(引越し屋、トラック運転手、宅配業者など)
・自動車工場などの組み立てラインの仕事
・電機工場などの組み立てラインの仕事
・食品工場などの軽作業の仕事
・飲食店接客、スーパーのレジなどの仕事
・オフィスへの一般事務派遣の仕事
・歩合的な営業職

などの職種の中で比べた場合、明らかに時給が高そうなのは工事現場や建設現場、また自動車の組み立て工場などでしょう。そしてこれらの職場の男女比はほとんどが男性ですよね。一方で時給の低そうな飲食店接客、スーパーレジ、食品工場(というか、コンビニの弁当工場)などは女性比率が高そうです。

女性が多くて時給が高そうなのはオフィスでの一般事務だけですが、これはできる人が結構限られてますし。(大都市のみ、オフィスへの通勤可能者のみ、若い時のみなど)

というわけで、同じように「正社員になれなくてこの仕事についている」というグループにおいても、男性の方が稼げそうに思えます。これも年収で数十万から100万円くらいは男女の収入格差を産んでいるのではないかな。

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最後にこれ
(3) 1000万円以上などの高所得層において、女性は圧倒的に少ない。

実はちきりんが一番驚いたのはこれでした。男性で1000万円以上の給料をもらっている人は216万人いるのに、女性では16万人と10分の1にもおよびません。給与所得者中の割合でも男性はその8%近くが1000万円以上なのに女性は1%にも達していないのです。

これってつまり、女性はサラリーマンになっても「一定以上より上には行けませんよ」ってことですよね。一時期よくいわれた「ガラスの天井がある」という話。ガラスは見えないモノとしての比喩ですが、こういう資料をみるに「見えてるじゃん」って感じです。

このデータ、社長とかは含んでないのだと思うのでほんとはもっと格差があるってことですよね。(だって役員以上になるのなんてもっと男性ばっかでしょ。)実際にちきりんの周りでも、日本企業で働く女性で、すごく楽しそうに重要な仕事を任されて働いていた女性が、30代半ばあたりから“次が見えない”という感じになるケースは結構あります。実務者、プレイングマネージャーとしては女性も今はOKなんだけど“組織の長”にしてもらえるか、というあたりからはまだまだ厳しいんだなあ、という気がします。

なお、この「年収1000万円以上の女性」16万人の中には多くの専門職(医師、弁護士など)や外資系企業勤務の人が入っていて、日本の会社だけでみたらもっとすごい格差なんだろうなという気がします。


ちなみに少し妥協して(?)年収800万円以上で見てみても
男性は428万人、サラリーマン全体の15%以上です。
女性は35万人、全体の2%未満。

このあたりでも愕然とするくらいの格差がありますね〜。人数で桁が違い、割合でも7倍。日本で雇用均等法ができた頃に就職した人が既に45-50歳くらいじゃないかと思いますし、その前から企業で働いていた女性ももちろん一定数います。それなのに未だにこの格差。女性ってのは民間企業に入っても全く部長とか以上にはなれてない、ってことですね。



反対に言うとですね、、、、男性って長く働いていたら結構簡単に年収800万円くらいもらえるんだな、と思いました。今のデータでみても男性給与所得者の15%は800万円以上もらってます。

でもこのデータは20代の人も含んでいます。働き始めたばっかりの人も含んで、全体の15%が800万円もらってるんですよ。もしも40代以上のみ、とか50代以上のみ、のデータにしてみたら、もしかして3割とか4割の人が800万円貰ってる可能性があるってことなんでしょうか。

1000万円超えてる人が若い人もいれて全体の8%というけど、これも一定の年齢以上なら「20%=5人に一人は1000万円もらってるよ」ってくらいのことなんだろうか、男性って?

と考えると、これがまさに巷の論客の方が主張されている「貰いすぎの中高年」って話なんじゃあるまいか、と思いました。てかこれからは「貰いすぎの男性中高年」って言いかえて欲しいな。

★★★

ところで、このデータでは1000万円以上もらってるのが20代なのか中高年なのかはわかりませんが、これが全部中高年だとして、「貰いすぎの中高年の給与を下げて、若い人を非正規から正社員にするなどの待遇改善を」と主張する人の意見を検証してみましょう。

1000万円以上もらっている人は232万人、反対に200万円以下の人は1032万人。このうち“収入調整をしている人数”を500万人とみて、「収入調整をしてないのに200万円以下の人」を532万人と考えると、その人数比は232:532で、1:2.3です。

ので、1000万円以上稼ぐ人に各自100万円ずつ我慢してもらえれば、200万円以下の人にひとり43万円ずつ年収を上乗せできます。200万円ずつ出して貰えば86万円配れます。年収200万円が286万円になるということ。


うーん。


なんかインパクトに欠ける解決方法の気がしますね。現在の高所得者には実際には若い人も多く含まれているはずなので、だとすると「貰いすぎの中高年」から絞り出せる原資はもっと小さくなるわけだし。こうやって計算してみると。やっぱこれだけじゃあ皆が求める収入を得るのは無理なんじゃないの?“経済成長“側も必要なのでは?と思います。

ただし公務員がめっちゃもらっているので、それを分けて貰えば計算上も大丈夫!とかになる可能性もある? ・・・わかりません。


といわけで、最後ちょっと話がずれましたが、なかなかおもしろいデータでした。

そんじゃーね!