喧嘩できない間柄

世の中には「喧嘩できる相手」と「喧嘩できない相手」がいます。
私達は「喧嘩できない相手」との喧嘩を、無意識に避けようとします。


どういうことだって?


喧嘩できる相手、もしくは場合とは
(1) 喧嘩しても関係性が壊れない場合、と
(2) 喧嘩して関係性が壊れても問題ない場合 であり、


喧嘩できない相手、場合とは、
(3) 喧嘩すれば関係性が壊れ、かつ、関係性を壊したくないと思う相手や場合です。



たとえば、最も喧嘩が多いのは兄弟姉妹とか夫婦の間柄でしょう。なぜこれらの関係性において喧嘩が多いのか。答えは上記の (1) にあります。

そういった関係の場合、ちょっとくらい喧嘩してもその関係性が壊れることはありません。だから私たちは安心して喧嘩できるのです。


兄弟姉妹なんてしょっちゅう喧嘩してますが、翌日になればすっかり忘れたように仲良くなれる。

夫婦でも何度か大きな喧嘩があっても、たいていの場合は一度の喧嘩でその関係性が崩壊したりはしません。

人は「喧嘩しても関係性に影響を与えない」場合には、安心して喧嘩できるんです。

人が喧嘩するのは、その関係性にたいして“喧嘩しても壊れることはない”という安心感や安定性を意識下において感じているからだ、とも言えます。



もちろん夫婦でも (2) や (3) の場合もあります。「この喧嘩で関係性が壊れるかもしれない」と思う場合です。

そういう場合、人は瞬時に判断します。「自分はこの喧嘩で、彼、彼女との関係性を壊してもいいと思っているのか?」と。そして時には喧嘩を思いとどまる。

「この喧嘩をしたら関係性が壊れるかもしれない」と思う時、実際に喧嘩するのは (2) の場合のみ。

それはすなわち「今、喧嘩したらもうだめかもしれない。しかし・・・それでも今は怒るべき時だ!」と思えば喧嘩する。そして実際に関係性が崩壊する場合もあるでしょう。


反対に、「今喧嘩したら離婚に至るかもしれない。それはやっぱり避けたい」と思う場合は、人は無意識に喧嘩することを避けます。言葉を飲み込む。衝突を避けようとする。

たとえそれが一時しのぎの緊急避難策に過ぎないとしても。

そうして私たちは、“一度の喧嘩で壊れてしまう不安定な関係”への「決定的な一撃」をなんとか避けようとしてあがき、もがくわけです。


反対にいえば、「喧嘩もできないようになったら本当の終わり」なのだとも言えるでしょう。


★★★


今回の民主党の党首選。おもしろいのは、岡田氏と鳩山氏の戦い様です。


岡田氏は記者会見の中で問われた時、「ふたりの間の政策には大きな違いはない。」と答えました。

鳩山氏は自分が当選するや否や「小沢さんにも岡田さんにも執行部に入って欲しい。挙党態勢だ」と言いました。

そしてテレビの前で何度も何度も握手をしました。笑顔で。


ふたりとも、いや民主党の全員が、よくよくわかっています。

彼等の関係性は、ほんの少しの喧嘩で崩壊してしまう危ういモノだと言うことを。


自民党の総裁選で、安倍さんも麻生さんも小泉さんも、それぞれのライバルと戦って党トップの座を勝ち取りました。

その時には、それなりに「党内の熾烈な戦い」があったでしょう。レベルは全く違うけど、ヒラリークリントン氏とオバマ氏も激しく戦いました。


でも、岡田氏と鳩山氏はそういうふうには戦えません。

お互いの政策の優位性を叫ぶこと、相手との違いを明確に示すことさえできない。

その違いを浮き彫りにする議論自体が、民主党の未だ分裂した党情勢を如実に表してしまうことを恐れるから。


兄弟にしろ親子にしろ、絆が切れないと思うから喧嘩する。でも私たちはそんな簡単にご近所の人と喧嘩したりはしない。

ご近所とはこれからも長くつきあっていく必要があるのに、一度でも大きくもめたら、その関係が修復できないかもしれない。

子供の同級生の親御さんともそんな簡単に喧嘩しないでしょ。頭にくることがあっても、ぐっと飲み込んだりする。

人は、関係性を壊す可能性のある喧嘩にはとても慎重になるものなんです。

一回喧嘩したら修復できない溝になる、と思えば、人は喧嘩することをなんとかして避けようとする。


自民党は総裁選の時だけでなく、しょっちゅう喧嘩してる。派閥争いという形で。

小泉元首相の政策に批判的で、自ら後継総裁選に出馬して涙をのんだ高村氏は、高村派からまったく登用されなかった組閣の後に記者の前で悔しさを隠そうともせずに唸りました。

「うちの派閥にも多くのすばらしい人材がいるのに・・」と。奥歯を噛みしめ、悔しさを滲ませながら。

しかし鳩山氏にはそんなことは絶対にできません。

自分が勝ったからといって、岡田氏を支持したグループを干してしまうなんて、決してできることではない。


自民党には、喧嘩をしても争っても自民党という絆は崩れないという自信があるんです。

喧嘩を繰り返す兄弟や腐れ縁の夫婦がもつような、強固で図太い関係性を彼らは築いている。


一方の民主党は、下手に喧嘩したらまた分解してしまいかねないと、彼等自身が本気で心配してる。

そういう事態になることを、心の底から恐れ、怯えてる。そして、必死の形相で「喧嘩を避けよう、仲良くしよう」とする。その姿は見ていて痛々しいほど。


この組織としての脆弱さこそが、国民がこの党に政権をゆだねてよいのかと逡巡する、大きな理由になっている。



そんじゃーね



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