日本郵政の新社長が元“官僚中の官僚”であり、しかもすべての適正な手続きを完全無視して“政治主導”だか“亀井主導”だか“小沢主導”だかで決められたことについては、多くの人が驚愕し、激怒し(?)、珍しく既存メディアとネットメディアの意見が一致するほどの衝撃を世の中に与えているようです。
ちきりんももちろん“なんじゃそれ”派ではあるのですが、同時に“混乱lover”のちきりんとしては、こういうめちゃくちゃなことが強行されること自体、“おもろいじゃん”とか思っており、後から振り返ればこういうことがあってこそはじめて“民主党の分裂”の遠因ともなりうるわけだから、“いーんじゃないの?”とも思ってます。
というわけで、ことの本質については既にあちこちで報道され分析されているので、ちきりんとしてはそれ以外の“どうでもいいような感想”でも、いくつか書いておくです。
感想その1:みっともない男だな
今回の件で一番みっともないな、と思ったのは原口総務大臣です。斉藤さんについて聞かれ、「最高の人選です」とか言っちゃって、恥ずかしくないかな。これが自民党がやったことで自分が野党側だったら、彼はテレビに出まくって刺激的な非難の言葉を連呼していたと思うよ。
信念を貫いている亀井さんはまだマシ。こういう「力の前では、僕はへつらうだけです。へへへ」って態度は一番はみっともない。“恥を知る”って大事だよね。
感想2 かわいそうな西川さん
気の毒だよね、と思うのは西川さん。“小泉・竹中憎し”の人から怒りの的にされちゃって。かりにも日本を代表する会社のトップを務めた人を命を削るような大変な仕事に招いておきながら、こんな追い出し方をするのは、それこそ“なんかの品格”に関わるんじゃないの?
政権が代わり、方針が変わるから経営陣を入れ替えるという考えはアリだと思う。それでも“人として礼を尽くす”ということを忘れたらアカンのじゃない?経済界だって背筋がす〜っとしてるだろう。これから民間人を国のプロジェクトに招聘するのは今までよりずっと難しくなると思う。
感想3 小沢さんってすごいよね。
新社長は元大蔵の大物次官ということ以上に、複雑な過去のある人だ。大筋で言えば、小沢さんと組んで国の制度を変えようとして失敗し、それが原因で、小沢さんが去った後の自民党にずうっと冷遇されていた。
そういう人を表舞台に戻してきて、人生の最後に名誉復権のスポットライトを当ててあげる。これぞ小沢さんの人心掌握術だよね。「俺にコミットしてくれた人を見捨てることは決してない。たとえつらい時機が長く続いたとしても、最後には必ず恩は返す。だから信じてついてきてくれ」ということだ。
10年に一度の大物次官といわれた人が、ずうっと日陰を歩いてきた。その人を最後の最後に表舞台に上げてあげる。これだから多くの人が小沢さんに忠誠を尽くすのだ。
すごいなあ、こういう力。
憧れますね〜。
感想4 財源はすべて“大蔵省”へ
もうひとつ思ったことは「財源が大蔵省に集約されていくのな〜」ってこと。
今回の新社長もその出身だけど、大蔵省(当時)というのは、役所の中の役所、というか、他の省庁より一段格上、みたいな位置づけがされていて、その力の源泉はなにかというと「財布を握っている」ということにあったわけですね。
他の省庁は、毎年、自分の省庁で使いたい税金額を予算として概算要求する。これって「他の役所」が「大蔵省」に「予算をうちに配分してください」って依頼する行為ですよね。で、いろいろ交渉して「これはダメ」とか削られて最後にありがたく予算をいただく。言うなれば今の「国と地方」の関係と同じくらいの力関係の差が大蔵省と他の省庁の間にはあるわけです。
だから他省庁にとっては、「自分独自の収入があるかどうか」というのはとても大事なんだよね。独自の財源があれば大蔵省に頭下げなくてもそのお金を自由に使える。
たとえば「道路特定財源」について一般財源化やら廃止やらが議論になるけれど、この税源は「国土交通省の独自収入」みたいなもんなわけです。このお金はすべて道路に使っていいですよ、って最初から決まってるわけだから、他の省庁にとられる心配がないし、大蔵省に頭下げなくてもいい。
それを一般財源化するっていう議論は「国土交通省の財布を大蔵省が取り上げます」って話なわけです。廃止する、ってのも事実上同じよね。国土交通省が、自分の財布を召し上げられることを意味する。財布は大蔵省以外には持たせない、という意思。
厚生労働省にとっての年金ってのも同じ。あれも税金とは別に年金保険料として、わざわざ国税庁ではなく社会保険庁が徴収する。だからその年金で集めた額を無駄につかって天下り団体を養ったりする場合、その恩恵は厚生労働省の官僚だけが享受できる。
国税庁と社会保険庁というふたつの組織をわざわざ残さないでも一体運用すればいーじゃん、という案も時々でてきますが、この案はつまり「年金保険料という収入も大蔵省に持っていく」という話ですよね。
社保庁も今度は日本年金機構になることが決まってるけど、ここのトップも民主党が主導権をとって決めるわけでしょ。またしても「元大蔵次官」とかが就任する可能性もでてきたってことかも。そういう人が年金機構のトップになれば当然、「年金保険料徴収と国税徴収の一体化の推進」とかいう話がでてくるかもだよね。
そして郵便貯金も同じ。こちらは元郵政省が管理できるお金だった。今は総務省ですね。昔なら「郵政省が管轄する大組織の長」に元大蔵次官なんてありえなかったと思う。郵便事業庁のころの長官って全部、郵政省の局長から抜擢されてるわけですから。
今までは日本郵政の取引先企業に天下ってる人の多くが郵政省(総務省)の官僚だったと思うけど、これから少しずつ、そういうポストも大蔵官僚に“浸食される”と思うよ。
えっ、民主党は天下り禁止だって? 大丈夫、「本人が有能なら」「14年もたってれば」とか何でも理由を付ければ、天下りは事実上全然オッケーだから。
というわけで、道路特定財源の廃止とかにしても、社保庁改革にしても、今回の郵政事業の揺り戻しにしても、違う側面から見れば、「すべての財源は大蔵省に戻させて頂きます」ってな感じなのかな、と思った。
今後も世の中がどんどん混乱することを楽しみにしているちきりんとしては、是非、日本年金機構の初代トップにも「有能だから天下りではない」元大蔵次官を抜擢してほしいでーす!きっとインタビューに答える長妻さんが「最高の人選だと思います」って言ってくれると思うよ。楽しみだ〜。
そんじゃーね。
(なお、文中敢えて現在の組織名である財務省ではなく大蔵省という名前を使っています。)