巧妙な罠

とても眠いのだけど、社会派ちきりんとしてはこのニュースに何も書かずに眠るわけにはいかないだろうと。

ニュースの内容はこんな感じ。「大都市と地方の税収格差を埋めるために、東京都や愛知県の税金を、地方に回す案を検討する。」と。

ちなみに、「大都市と地方の格差」が語られる時、今や比較対象は「東京都」&「愛知県」と「その他の地方」なのね。ふむ。関西出身としては、「いよいよだなあ」という感じがします。が、それはまあ今日の本題ではないので置いときましょう。


ええっと「格差は問題!地方にも配慮しなくちゃ!」というお考えの方へ:まあ、それはそれでご自由に。

あと、「あっ、これってこの前ちきりんブログに書いてあった。都会から地方にお金を流すって話だよねえ?」と思われた方へ:毎度ご愛読ありがとうございます。でも違うんです、あれとは。コトの本質が違います。ちなみに“この前のブログ”はこちら→http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20071030



じゃあ、なんの話やねん、と。



これね〜


こんな巧妙な話、本当に、なかなか思いつかないですよ。相当頭よくないと思いつかない。東大法学部でも出て、頭の硬度が一定以上高い人でないと受からない試験に上位合格して、その上で、霞ヶ関で7年以上働かないと、多分思いつかないと、思います。


なんのこっちゃ。説明しろよと。はい、します。



これね、なんで東京都や愛知県が、その税金を地方に回す、という話になるんだと思います?確かに都道府県は都道府県税という住民税を徴収しているし、事業税的なビジネス側から入る税収もあります。そして、東京や愛知は突出して他の地域より地方税収入が多い。

でもね、それでもなんといっても、現在の税金の中心は国税である所得税だし、法人税だし、消費税なんです。なんで、国が地方にお金を出さずに、東京都や愛知県が出すという話になるの?いやもっと言えばですよ、そもそも国税を減らして地方に直接入る税金を増やせばいーじゃん。つまりね。



(1)個人や企業→東京都や愛知県→(その他の)地方

(2)個人や企業→(国に払っていた分の税金も直接)地方(に払う)

(3)個人や企業→国→地方



これ、どう違うの?


最初=お金の出し手が個人や企業で、最後=お金の受け手が地方でしょ。全部それは同じだよね。なぜ、現行方式である(3)ではなく(1)なのか?なぜ、地方分権で検討されている(2)ではなく(1)なのか?


何が違うのか?


大きく違うんですよ、これ。


誰にとって違うか?ここ一週間から数日の間に、国会で答弁されている方々にとって、これは全然違うんです。

中央官僚と自民党の政治家というのは、「徴税権を以て日本全国から集めた巨額のお金を自由に使える権限」を持っているからこそ、「業者が奥さんの分も含めてゴルフセットを届けてくれ、かつ何百回もゴルフにつれていってくれたり」「地方のゴルフに行くときは、高級旅館で温泉付で全部ただにしてくれたり」するんです。

国にいったん巨額の資金が入り、自由に使える分がたっぷり確保できていてこそ、「業者がパーティ券を買ってくれて、食事に同席させてくれる」んです。


(2)だと、国に入るお金が一気に少なくなります。こんなことしたらダメじゃん。ねえ。絶対だめ。だって、せっかく安月給で40年も我慢して次官まで上り詰めたってのに、だーれもゴルフにつれてってくれないじゃん。

(3)もだめです。いったんは国にお金が入るけど、その大半をごっそり地方に渡さなくちゃいけない。国が自分で、このミサイル買う!とか、この戦闘機買う!とか(別にダムでも箱モノビルヂングでもなんでもいいですが、)発注権限を持てる部分が少なくなっちゃ困るよ。

だって、そしたら、僕ちゃんの権限が少なくなって、だーれも接待してくれないし、もっと大事なことは、だーれも天下りで受け入れてくれないじゃん。
天下りを受け入れてくれる会社は、僕たちの持つ“税金による発注権限”で、自分トコの商品を買ってもらえると期待するからこそ、役所仕事しかできない、今まで一度も仕事で頭を下げたことのない僕たちを受け入れてくれて、お飾りの仕事に2千万円の年収と、4年勤めて4千万円の二度目の退職金を約束してくれてるのに。

だめだめ、(2)と(3)なんて絶対だめだよ。

(1)だと、国に入る税金の額にも、その使い方にも、一切今までと変更を加えなくてもいいからね!これこそ理想的な格差解消方策だ!!


なんで格差問題を無視できないかって?だって格差問題をなんとかしないと自民党政権が持たないからね。そうだな、自民党政権がもたないのは俺たち官僚にも困ることだからな。なんとか知恵を絞らなくてはな。ってな感じで考えてたんだと思う。んで、「あっ、そーだ、東京都と愛知県に出してもらおうぜ」

「おお、それは良い案だ」「石原は国に喧嘩ばっかり売って生意気だからやっつけちゃおうぜ」

「良い案だ良い案だ。トヨタも、最近、中高一貫校を作るだの、空港の経営に乗り出すだの、文部科学省や国土交通省を馬鹿にしすぎだからな。この際、俺たちの権限を見せてやろうぞ」

「そうしよう、そうしよう!」

「僕たちって本当に頭がよいね!!」

「そうさ、もちろんさ、僕たちは、この国で一番頭がエライのさ!なんたって僕たちは“エリート!”様なんだからね!!」


「でも最近の知事連中は、こういうトリッキーなやり方じゃなくて、三位一体改革の趣旨に則り、地方に回す税金を大幅に増加しろとか=(3)の案、道州制を導入して、国ではなく直接地方に税金徴収能力も持たせてしまおうという案=(2)の案、を主張してる奴が多いけど大丈夫かな?」

「大丈夫、大丈夫。知事は目先のことしか考えない。あいつらは選挙で生きてるからな。視点が短期的なんだよ。とりあえず金が手に入るなら、それが東京都からでも国からでも気にしないよ。今までは「地方分権」って主張していた知事だって、目の前に大金がぶら下がればすぐに「これは良い案だ!!」って言い出すさ。たとえその案が“国の地方に対する支配権を、今まで以上に強化する案”だとしてもね。」

「国の地方に対する支配権が強まるのか?」

「そりゃあそーだろ。東京都なんていう“うるさい地方”が持っていた税金の使い道に、国が関与する権限ができるんだからな。石原はともかく、日本で唯一国に頭を下げる必要のない東京都知事だって、石原の次の代の奴からは、霞ヶ関詣でをするようになるはずさ。」

「なるほど、自分たちの権益を守ることができるのはもちろん、霞ヶ関にとっての唯一の眼の上のコブである東京都を牛耳ることのできる妙案ってわけですね。」

「そうそう、その通り。ははは。オレ様は本当に頭が良いなあ!! あっ!もしかしてそこにいらっしゃるのは次官様、一体いつからそこで聞いていらっしゃったのですか?」

「おうおう、話は全部ちゃんと聞かしてもらったよ。いい案じゃないか。それにしても、越後屋、お前も悪よのお」

「ほーほほほほ、ほほほほ〜」


終わり