人生の一発逆転という悲しい夢

ネットバンクで口座を開くと、ギャンブルの勧誘メールがたくさん届く。BIGとかlotoなどの宝くじ系からFXまでいろいろだ。銀行なのか宝くじ屋なのかわからないくらい来る。


その昔、日本にlotoやBIGがまだ無かった頃、とある南米の国の街角で、loto(クジ)を売っている店があまりに多いのに驚いたことがある。ジュースや新聞を売っているキオスク、タバコ屋など、そこら中でlotoが買えて、実際に並んで買っている人もたくさんいた。

その光景が異様にみえて、一緒に歩いていたその国の知人に「なんであんなにクジが人気なの?」と聞いたら彼が「クジ? 違うよ、あれは貧困層を狙い撃ちにした税金なんだ」と言った。吐き捨てるような口調だったのでちょっと驚いた。


最近でこそ日本も高額のクジがでてきたが、当時から外国のクジは当たり額の規模が違う。10億円単位の当たりもよく報道される。日本だと高額当選者がマスコミにでてくることはほとんどないが、海外ではホテルでパーティを開き、シャンパンタワーをしてテレビの取材を受けている人もいる。

20億円当たったのよ!と歓喜する人達のそれまでの生活をテレビが報道する。最下層といえるようなクラスの人達が多い。前後のギャップをハイライトするためにうってつけだ。誰がクジを買っているのかよくわかる。


射幸心を煽る、というのとはちょっと違う。「人生に一発逆転がある」と思わせること。それが超高額賞金の目的だ。

自分の人生はこのまま何も起らずに終わる、きっと5年後も10年後も同じだとわかっている人達に「一発逆転があるかもしれませんよ」と告げる。だから当選額が1億円や2億円では意味がない。20億円なら当たった後、夫婦が離婚しそれぞれが若い配偶者に乗り換えてからも一生遊んで暮らせる。


テレビの中で破顔する天から幸運をもらった人達。羨望と興奮が混ざった複雑な視線でその映像を凝視するもう一方の人達。

こうして貧しくて学のない者たちが、次々とナケナシの小遣いをクジに費やす。期待値から言えば全く馬鹿げた買い物だ。当選者が得た僥倖は、天からではなく幾多の貧困層の小遣いを搾取した中から(しかも大幅にピンハネされた後で)配分されている。

彼は「貧困層を狙い撃ちにした税金だ」と言った。アメリカではタバコの税金も同じだろう。社会は愚かで貧しく、現実に絶望している人から税を取り立てる。代わりにタバコはひとときの安逸を、ロトは甘すぎる幻想を彼らに与えてくれる。


日本でも40歳に近い年齢で、コンビニバイトやファミレスバイトや居酒屋バイトや期間工や短期派遣で暮らしていて、数年働いて貯まった貯金をFXに注ぎ込んで勝負している人達がたくさんいる。

掛け金は50万円とか100万円とか。彼らのほぼ全資産だ。貯金しておけば万が一病気になった時や、突然の事態で職を失ってもホームレスになるのを防いでくれる。まともに考えれば、FXに注ぎ込むべきお金じゃない。


人生に一発逆転はない。そんなことは多分みんなわかっている。それでも一発逆転を狙いたいと思う人がいる、思う時がある。人生が詰んでいると感じるからだろう。



ちきりんもよくlotoを買う。貧困層向けの税金だと言ってた人がいたっけねと思いだしながら。



そんじゃーね。