リバース・イノベーションについて、ようやく理解した

前回、「これからは車が大きく変わるよん」と書いたけど、それとも絡み、最近読んで非常に示唆深いなと思った本がこちら。

リバース・イノベーション
ビジャイ・ゴビンダラジャン クリス・トリンブル
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 14,734

 → キンドル版
 → 楽天ブックス


趣旨は、「これからのイノベーションは新興国で起こりますよ」ってこと。

これ、本当にそうだと思うんだよね。だって、日本て2050年には65才以上が人口の40%みたいな社会になるんですよ。

そんな国で、新興国の20代、30代向け商品の開発ができるわけないじゃん。


日本ほどでなくとも、他の先進国も高齢化します。その上これからは、新興国の人も高い教育を受けられるようになります。未来の世界をあっと言わせるイノベーションの半分は、彼ら側から生まれると予測するのがふつうでしょ。

もちろんシリコンバレーみたいに、インドや中国始め、世界の新興国から継続的に人を受け入れている場所なら、これからもイノベーションは起こるでしょう。

だけど、右を見たら高齢者、左を見たら中高年みたいな国で、世界を驚かせる商品を作るのは、あたりまえに難しくなる。


と、ここまではちきりんの考えなんだけど、この本の趣旨はちょっと違います。高齢化というより、先進国と新興国の経済力、生活習慣、好み、規制、環境などの差から、新興国でイノベーションが起こり、それが先進国世界へ逆流する動きが起こるよ、という話なんです。

たとえば、先進国だけで製品開発してると、パソコンはどんどん高機能になっていく。でも新興国の人の経済力だと、メールとネットだけできればいいから、数万円で買えるパソコンの需要が一番大きい。

で、誰かがそういうのを作ってみた。そしたら、「これ、先進国でも欲しい人多そうじゃん?」みたいな商品ができた。

実際に売ってみたら、実は先進国でもネットブックとして、二台目パソコンとしてバカ売れした。

さらに、そこから「同じくらい軽くて高性能のも欲しいよ」というニーズが顕在化し、ウルトラブックという概念が生まれる。

みたいな話です。大元(おおもと)の発想は新興国向け商品から生まれ、それが先進国でも思った以上に売れて、次の商品へ昇華するという流れですよね。


同じようなことが、医療機器とかでも起こってる。先進国では、超高機能の診断機器が競って開発され、値段は一台が数百万円、時には数千万円もする。でも新興国ではこんなもん全く売れない。

じゃあということで、安くてポータブル、電力供給が不安定でも使える簡易機器を作ったら、新興国だけじゃなくて、先進国でも思いがけず売れ始める。

先進国でも、在宅診療に使えたり、医療保険に入っていない貧困層にも検査ができるようになったり、開業医が簡易機器で診断して、なんか変だなということになったら大病院で、高額な最先端機械で診断したり。

つまり、新興国でのニーズに基づいて作られた商品が、先進国で放置されてたニーズを掘り起こす、みたいなことが起こる。


これは、先進国のメーカーが考えがちな、「新興国には、機能を削った安い商品を供給すればいいんでしょ」という考えとは全然違うんです。(何が違うのかは、本を読んでください)

よくありがちな、「新興国のニーズは、そのうち彼らの経済力が向上すれば、先進国と同じになる」というのは、完全に間違った考えだということが、豊富な実例できれいに説明されてます。


加えてこの本が勉強になるのは、そういうニーズに企業が気がつき、商品化するためには、どんな組織の体制が必要かという点について、詳細に説明してあることです。

載っているすべてが実例で、各企業の中で起こった組織的葛藤が詳しく描かれているんですが、大半の場合、技術部門はそういうローエンド商品の開発に積極的にならない。

「そんな安くてちゃちいもの、世界一の技術レベルにある我が社が作る必要はないだろ?」って態度なんです。

経営者側にも、「そんなもん作っても新興国でしか売れないだろ? 商品単価が下がるだけじゃん。うちのブランドにも傷がつくし・・。それに、今売れている高機能商品とカニバルとやばいだろ?」とか言う人がいる。


なんだけど、筆者は「そうじゃないんですよ」と丁寧に説明します。

新興国でしかニーズが見つけられないモノ、そういう環境でこそ起こりえるイノベーションがあるんですよ。そして、それによって生まれる商品が、先進国にも逆流し、世界的な需要を生んでいくこともあるんですよ、だから先進国の企業は、マジメにこの動きに取り組まないとやばいですよ。って言ってるわけ。


先日書いた、未来の車も同じだろうとちきりんは思ってます。あれを開発したいなら、開発部隊が日本やアメリカやドイツにいたらアウトだと思うんだよね。

電力事情、道路事情、家族の数や移動距離、免許制度や保険制度、修理工場のレベルと数など、自動車を取り巻く、様々な環境が先進国と新興国では異なってる。

今までの先進国企業の考え方はこうだった→ 「新興国も、そのうち先進国レベルの経済力となり、社会インフラが整ってくる。そしたら、うちの車が売れるようになる」


ちゃうんです。

この本(リバース・イノベーション)の中では、「その考えでは完全に置いて行かれますよ」と書いてある。

そうではなく、現況の新興国の条件の中で売れるものを開発しなきゃだめだと。そこにこそ、先進国でも通用する商品アイデア、イノベーションの源があるんだよと。


豊富な事例を読んでると、ほんとそうだと納得させられた。


そして、もうひとつ、この本を読んでて感動したことがある。が、それが何かは敢えて書きません。興味のある人は自分で読んでみてください。

世界では、世界の企業では、こういうことが起こってる。日本のメーカーの今のやり方じゃあ、(今だけでなく)次世代も相当厳しいよね。

そう思える本でした。


現時点で世界に商品を売っているというメーカーの人や、うちの会社も最近は海外事業に力を入れてるんだよね、という人、そういう会社に就活&内定してる学生さんにお勧めです。(リアルな組織を知らない学生さんにはちょっと難しいかもですが、まあ、入社前に読んでおくと、彼我の差がよくわかっていいんじゃないかな)



そんじゃーね

リバース・イノベーション
ビジャイ・ゴビンダラジャン クリス・トリンブル
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 14,734

 → キンドル版
 → 楽天ブックス


関連過去エントリ)「世界を歩くとホントにいろいろ考える


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/