「ユニバーサルサービス」こそ、イノベーションとクリエイションの源

「ユニバーサルサービス」という言葉をご存知でしょうか。とある分野ではあたかも常識のように頻繁に使われますが、そんなの聞いたことがないという人も多いはず。

これは、「すべての人に均一の条件でサービスを提供する」という概念で、水道や電気、郵便や通信など、公共インフラ分野で使われる言葉です。


民間企業がサービスを提供する場合、人口密集地である都市部からビジネスをスタートさせますよね。たとえばコンビニだって、都市部には何店舗も出店するけど、人口の少ない地域だと、駅前にさえありません。

一方、郵便局は日本中どこにでもあるし、水道や電気もどこでも使用できます。しかも、その値段はほぼ全国均一です。

本来は過疎地のポストに集荷に行くのは、都会の郵便集荷に比べ何倍もコストがかかります。なのに、日本中どこでも封書は一律80円、はがきは50円であり、集荷サイクルにも極端な違いはありません。

当然、その部分の赤字は、他地域での収益、もしくは、税金で補填することになります。


最近は宅急便も日本全国津々浦々まで届けられますが、それでも離島などは特別料金です。一方、ゆうパックには離島料金の設定さえありません。東京都内であれば、多摩地区に送るのも離島に送るのも同じ値段なのです。

こういうのを「ユニバーサルサービス」と呼び、公的機能の民営化の時には必ず「これが維持できるのかどうか」、という点が問題になります。「民営化したら、ユニバーサルサービスが維持できない。だから反対」って感じです。


★★★


なんでこんなことを書いているかというと、先日、Gengoを訪問した時に、


・少額課金に paypalが使えるようになり、
・採用に Facebookや LinkedInが使えるようになり、
・宣伝に各種 SNSが使えるようになり、
・翻訳者たちがスマホで隙間時間に仕事ができるようになり、
と、いろんなことがあって、Gengoのようなサービスが可能になった。


そしてその Gengoもまた、「誰でも気軽に他言語&多言語で発信できるインフラを提供したい。そうすれば、そこから新たな展開やビジネスが生まれてくるはずだから。僕たちはそれを目指してる」、と言われたからです。


<Founder/CEOのロバート・ラング氏>


(「様々な分野で移動や交流の障壁が無くなりつつある」の図。 資料提供 Gengo、資料は2013年7月時点のもの)


その時に思い出したのが、先日観た堀江貴文さんのスピーチ。題して“Space will be the place for everyone”でした。

この動画、最後の「失敗を恐れるな。んなモンたいしたことないんだ。失敗したら、また改善してやり直せばいいだけ」というメッセージが本当にすばらしいのですが、もうひとつ印象に残ったのが、このスピーチのタイトルそのままのメッセージでした。



(必見!)


このスピーチの中で堀江さんは、「とにかく安く宇宙に行ける方法を開発したい。費用を安くして誰でも行けるようになれば、すごくおもしろいことが起こるはず」とおっしゃっています。

これを聞いて、「ほんとにそーだ!」と思いました。


インターネットだってブログだって SNSだって youtubeだって、多くの人が使い始めたことによって、どんどん新しい発想や用途、さらに新たな才能やビジネスが現れて、めっちゃおもしろいことが起こっています。

それらを使用するためのコストが高すぎたり、使うのに高い専門技術が必要だと(=誰でも簡単に利用できないと)、少数の特別な人だけがその用途を考えるので、たいしておもしろいことが起こらないのです。

ところが、価格や技術障壁が下がり、誰にでも利用できる状態になったとたんに、わけのわからん人も含めて世界中の人がそれを使いはじめる。すると、これまで誰も想像していなかったような画期的なアイデアを持ち込む人が現れ、次のブレークスルーやイノベーションにつながっていくのです。

「だから、誰でも宇宙に行ける格安の手段を開発したいんだ」という堀江さんの主張には、大きなインパクトがありました。


私たちは投資をする時、「この投資はどういう形で回収できるのか」と考えます。特に多大な資金、多大なエネルギー(人の時間)を投入する際には、「それに見合う結果が本当に得られるのか?」と真剣に考え、その結果が見えないと、投資を辞めてしまうこともあります。

でも、Gengoの翻訳も堀江さんのロケット打ち上げも、そうではありません。みんなが気軽に多言語翻訳を利用できたら何が起こるのか、誰でも宇宙に行けるようになれば何が起こるのか、そんなことが最初から見えている必要もないし、見えているはずもない。

とにかく「誰でも使える状態」にさえもっていけば、あとは放っておいても、めちゃくちゃおもろいことが起こるはず!


堀江さんのスピーチと、Gengoのインタビューが私のアタマの中でつながって、ピコーンと電球がつきました。「そうか、もともとユニバーサルサービスって、こういう意味だったんだ!」と。

「どんな地方でも、電気も水道も公教育も通信も利用できる。だからすべての人にチャンスがある!」というのが、ユニバーサルサービスの本来の意味だったんです。

でも地方の衰退に伴い、いつのまにかその言葉は、「不公平だから、赤字の地域でも維持すべきサービス」とか「採算の取れない地域でも、都会の収益や税金によって維持すべきサービス」という、後ろ向きな概念と結びついてしまった。


そういえば徳島県の山村に、東京のIT関連企業が次々とサテライトオフィスを開いているらしい。(参考:「IT企業が惹きつけられる街 徳島県神山町」 誰でも使えるインフラがあるからこそ、アイデア次第で地方でも都会と勝負できる。

これなんてまさに、「誰でも宇宙に行けるようになれば」「誰でも多言語で発信できるようになれば」と同じ例ですよね。「どこであれネットさえつながるならば」という世界です。


「ユニバーサルサービス」という、本来すばらしくポジティブな言葉を、「赤字だけど維持しないといけないサービス」みたいな後ろ向きな意味で使うのは、もうやめたい。

そうではなく、「誰でもどこでも使えるようになると、めっちゃおもしろいことが起こり、イノベーションが爆発する!、そういうサービスのことをユニバーサルサービスって呼ぶんですよ」と、定義しなおしたほうがいい。

っていうか、これこそが「イノベーションとクリエイションの源」なのかもね、と思ったです。


そんじゃーね