私はこれまで環境にも偶然にも恵まれて生きてきたけど、中で最も大きな幸運は、大学を卒業した時点で大企業を中心とする日本の「社会から拒否され、排除されたこと」だと思う。
私が 22歳で就職活動をした時、日本にはまだ男女雇用均等法が無く、女性には(自立して食べていくには不可能なほど給与が低い)アシスタントという職業しか選択肢がありませんでした。
それは総合職男性の“お嫁さん候補”として職場に常駐し、コンピューターもない時代の“大量の手間のかかる単純作業”を一手に引き受ける補助職になるという道。
就職活動を始めてすぐ、「女性にはキャリアを積むための訓練や、意味のある仕事をする機会は一切与えられない」のだと知って最初は
「まじかよ!?」
と思ったけど、
今なら私の人生において、あれほど大きな幸運は他になかったと断言できます。
★★★
今、世の中が大きく変わりつつあるのに、多くの人が動けないまま不安に怯えてる。
時代にあわせて変わっていくには、
1)今、持っているモノを自ら手放す
2)新しいモノを手に入れる
のふたつのステップが必要になるでしょ。
多くの人は、「自分には新しいモノを手に入れる能力がないから、状況を変えるなんて無理」って言うけど、そうじゃない。
ほとんどの人は、「今、持っているものを手放すのが、ものすごく恐い」 だから動けない。
新しいモノを手に入れるなんて、今持っているモノを手放すのに比べたら、たいして難しくない。むしろ簡単といえる。
今、持ってるものを手放すのは、それほどまでに難しい。
ところが私は生まれつき決められた“性別”という自力では変えられない条件によって、社会から「お前なんか要らない」と拒否された。
最初は悔しくて、理不尽な世の中に憤ったりもしたけれど、後から気が付きました。
それが、どんだけラッキーなことだったか。
私はもともと大胆な性格でもないし、勇気も進歩的な発想も持ち合わせていません。
だから、なにか大事なモノが手に入ってしまったら、それを守るために多大なエネルギーを使っていたでしょう。
「これは、守るべき価値のあるものなのだぁ!」と自分で自分を説得し。
「これを持ってない人は、すごい不幸なはずだぁ!」と思い込み、
「自分だってコレを手放したら苦労するし後悔するはずだぁ!」と自分に言い聞かせながら、
今でも毎日、通勤電車に乗ったり、残業や休日出勤をしながら、どんどん延長される定年まで、思考を停止してひたすらに働き続けたに違いない。
幸か不幸か(いや、明らかにラッキーなことに)、私にはそんな機会は手に入りませんでした。
同じ女性でも、10年遅く生まれていたらそれが手に入ってしまってた。
実際、就職活動が男女平等になってから社会にでた年代の女性には、男性と同じように「持ってるモノから離れる」ことができなくなってしまい、苦労してる人がたくさんいます。
「いま辞めたら、二度と同じ条件の仕事は手に入らない!」と、仕事と子育ての両立に体と精神をすり減らしつつ働いている女性もその典型でしょ。
「捨てられない人」の人生はときに本当に過酷なものになります。
それに比べて、女性だというだけで完全に拒否された私はマジでラッキーだった。
おかげで何よりも難しい「今、持っているモノを捨てる」という苦労を経験せずに済んだのだから。
私はただ「新しいモノを獲得する」ことにだけにひたすら注力すればよかったんです。
しかも、「コレがないと生きていけない!」なんて幻想なのだとも理解できてしまいました。
当時は、親も先生も友達もみんな言っていたんです。
一流大学に行き、一流企業に就職しろと。そうしなければ人生は始まらないと。
でも、そんなのまったくの嘘でした。
すべての一流企業から「女は採用しません」って言われたけど、後から振り返るとなーんの問題もなかった。
てか、そのおかげでこんな自由な働き方が手に入ったんです。
「新卒で一流企業に入らないと終わり」なんて、嘘やん! と気づけました。
そして世間様がもったいないから決して手放すなと言うモノでも、「自分には不要」と思えたら、スグに手放せるようになりました。
世間様が「大事だ!」と言うモノが、大して大事じゃない場合もあると、若くして理解できてしまったんです。
それが、「心より望ましいと思える生活」を手にするにあたり、決定的に役だちました。
★★★
自分の手にあるものが(たいして望ましくもないものなのに)なぜか手放せなくて葛藤し、逡巡し、我慢している人たちをみると、自分の幸運に心から感謝したくなります。
人はよく条件のよい人を羨むけど、条件がよいからこそ苦労してる人が、世の中にはたくさんいるんです。
反対に、「恵まれてなかったからこそ、今あるものを手に入れられた!」という経験をしてる人も、案外たくさんいるんじゃないかな。
私のようにね。
古い社会のみなさん。古い古い経営者のみなさん。古い古い古い頭のみなさん。あたしを拒否してくれてホントーにありがとう。
自分の努力では決して変えられない生まれつきの条件を理由として私を門前払いしてくれたことに、今でも心から感謝しています。