先日、テレビ(NHK首都圏ネットーワーク)で、「結婚できない若者」]を特集していました。
「男女とも、結婚したいのに結婚できない人が増えている」というもので、28才、中小企業勤務で年収 300万円、活動的で誠実そう、外見も好青年で、でも「学歴はない」という男性が登場してました。
彼は結婚紹介所に入会したけど、200人近い女性に、会うことさえ断られたらしいです。
女性は、出産、育児で自分の収入が途絶えるため、年収 600万円以上の男性を求める。でも未婚の若い男性で、そんな高年収の人は少ない。
だから年収の低い男性の未婚率は高く、交際率さえ低いというデータが紹介されていました。
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さて、この番組をみて、みなさんどう思われるでしょう?
女性の立場にたって考えれば、この男性がお見合いを断られるのは、不思議でもなんでもありません。
彼は今 28才です。
ということは、彼がデートを申し込んだ相手の女性 200人も、その年齢以下の人が多いのでしょう。それはつまり「 20代で結婚紹介所に登録をしている女性」です。
20代の女性は、紹介所の登録会員のなかで最も人気です。
彼は「自分は高望みはしていない。のに、200人もの女性に断られた」と思っていますが、人気の 20代女性は、多くの相手から会うことを求められており、その中には年収が 600万円と、彼の倍近い人もいるでしょう。
彼のいう「自分には学歴もない」が、高卒・中卒という意味なのか、一流大学卒ではないという意味なのかわかりませんが、
もし高卒だとすれば、「最も人気のある 20代女性」から立て続けに断られたのも、そんなに不思議ではありません。
そもそも、20代で結婚紹介所に登録している女性が求めているものを想像してみましょう。
彼女らは「つきあっていて楽しい男性」を探しているわけではありません。
まだ平均結婚年齢にさえ達していない女性が紹介所に登録するのは、恋愛相手ではなく「よりよい結婚相手」を探すためです。
しかも婚活システムでは、会うまでは検索条件がすべてです。
彼女らが“検索”に使いそうな要素が何であるか、ひとつふたつ考えれば、この男性が“モテない”のは不思議でもなんでもありません。
20代で結婚相談所に登録し、相手の学歴に「高卒も可」とする女性は多くなさそうですよね。
(ただし、今回出ていた男性、とっても誠実そうでいい感じだったので、このテレビ出演を機に結婚できるんじゃないかとは思いましたけどね)
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で、この番組を見て私が考えたのは、「こういう男性は、なぜ今まではナンの問題もなく結婚できていたのか?」ということです。
日本では、1970年代までは男性はほぼ全員結婚できていました。
中卒だろうが高卒だろうが、年収が低かろうが、少々見かけが良くなかろうが、もっと言えば、酒癖が悪かろうが浮気者だろうが、口べたでほとんど話ができない男性だろうが、みーんな結婚できていたんです。
データ: 年齢別未婚率
なんで昔は、学歴も年収も両方低い男性でも、結婚できていたんでしょう?
最大の理由は、「昔は女性が、結婚のために敢えて自分のスペックを押さえていたから」です。
私の母は、自分の父親から「女が大学なんて行ったら結婚できないからダメ!」と大学進学を反対されています。
もう少し後の世代でも、同じ理由で親から「短大でないと進学させない」、「女子大でないとだめ」と言われた女性はたくさんいました。
学力的には東大に行けるのに、お茶の水大学に進んだ人、京大でも行けるのに奈良女に進んだ女性がたくさんいたのです。
同じ理由で「理系学部なんて行ったら結婚できない」とか、「一人暮らしなんてしたら結婚できなくなるから地元の大学に通え」と言われた女性もいたはず。
当時は、庶民層なら家政科、ハイエンド層なら英文科が人気だったのも、女の教育なんて「いいところに嫁にやるためのものだった」ことをよく表しています。
なぜなら!
当時の女性にとって「結婚できる、できない」は死活問題だったからです。
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ちょっと前まで女性は、結婚できなければ食べていけませんでした。大半の企業が、男性以外=女性はお茶くみ要員としてしか雇っていなかったからです。めっちゃ安い給料で。
しかも、今と違って長男は結婚しても実家に同居します。
だから未婚のままだと、兄や弟のお嫁さんとも同居しなければならない。「行き遅れの義姉」とか「ウルサイ義妹」と思われながらね。
だからといって一人暮らしもできません。女が一人暮らしなんてしたら、それこそ結婚できなくなります。
だから、とにかく結婚しないといけない。そういう時代だったのです。
そして、当時の女性にとって結婚するためにもっとも重要なのが、自分の学歴をできるだけ低く押さえるコトでした。
大学なんていかない。行くとしても短大までとし、専攻するのは幼児教育や栄養学。できれば高卒で、若いうちにお見合い市場に参戦する。それが時代の要請でした。
なぜなら学歴の高い女は男性に選ばれにくく、結婚しにくいから。
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しかし、こうして「女性だからという理由で、教育レベルを抑制して結婚した世代」が母親になると、その中から、「自分の娘には(息子と同レベルの)教育をぜひ受けさせてやりたい」と考える女性が大量に現れました。
自分よりずっと成績も悪く、やる気も無い兄や弟や男子同級生が進学するのに、自分は高校を卒業したらすぐに“嫁入り修行”と称して家事手伝いをやらされた女性や、
「都会の大学に進学し、将来は○○になる!」と夢を語る男子同級生を横目に、自分は「地元の短大の家政科」しか選ばせてもらえない、という経験をした女性が母親になった時、自分の娘に何を伝えたいと考えたか。火を見るより明らかでしょう。
時代のせいで自分は、キャリアを積むことも教育を受けることも諦めたけど、娘には決してあんな悔しい思いはさせたくない、母親がそう思うのは自然なことです。
だからこの世代に育てられた今の 30代、40代の女性の中には、母親から「これからは女も勉強すべき。手に職を付けるべき。自立してオトコに頼らず生きていける力を付けて欲しい」と強く吹き込まれて育った女性がたくさんいます。
このため、この世代の女性には薬剤師や看護師、教師と言った「女性向きの資格職」を選んだ(母親に勧められた!)女性がたくさんいます。
「女のくせに勉強なんかしたら“もらい手”が無くなる」と脅されて育ち、20代前半で追い立てられるように結婚させられた母親が、娘の教育に“自らの人生への想い”を込めて「一生働ける仕事」を勧めたのです。
図解すると下記のような感じ↓
縦軸は学歴の上下で、グレーは未婚のままの人、ピンクと水色は結婚している人です。
昔は女性が「敢えて」自分の学歴を抑えていたので、「学歴の低い」男性でも、「自分より学歴の低い女性」をいくらでも見つけられました。
でも今や、男女の学歴に差はありません。
だから
男性が「自分を超えていない女性」をパートナーに望むかぎり、「学歴の低い男性」は結婚が難しくなる。当たり前の帰結でしょう。番組で紹介されていた男性は、グレーの 4名のうちのひとりですよね。
こうして、「女性が結婚するために、高い教育を受ける機会を自ら放棄する風潮」がなくなったことが、学歴のない男性が結婚しにくくなった最大の理由です。
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もうひとつ、昔は年収の低い男性でも結婚しやすかった理由があります。
それは「時代が右肩上がりだった」ことです。20代で年収が低くても、高度成長期であれば全員の年収が時間とともに上がります。
そういう時代には、20代で年収 300万の男性と、30代で年収 500万の男性なら、前者の方が、20代女性にとっては結婚したい相手だったはずです。前者も 30代になれば、年収 500万円になるとわかっているからです。
でも今は違います。
20代で年収 300万円の人が、30代で年収 500万になれるかどうかは、誰にもわかりません。ならない可能性も十分にあります。
若いから年収が低くてもしかたない、そのうち給与もあがるだろう、とは女性も考えません。
このように、今回紹介されていた、
・若くて
・いい感じの外見&性格で
・学歴はなく
・年収が低い
人は、昔に比べて結婚しにくくなっています。
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最近になって、急に女性が男性に高い年収を求め始めたわけではありません。
女性は昔から男性に経済力を求めていたし、男性は女性に若さや容姿、従順さを求めていました。それは全く変わっていません。
「女性が男性に経済力を求める傾向」に関して言えば、全男性が結婚していた 1970年代の方が、むしろその傾向は強かったはずです。当時は「稼ぐのは全面的に男」の時代だったのですから。
つまり、「女性が男性の経済力を当てにしている」ことが、近年、年収の低い男性が結婚しにくくなってきた理由ではないんです。
もしそれが理由なら、昔だって経済力のない男性は結婚できなかったはず。でも、そうではありませんでした。昔は経済力が低くたって、男性はみんな結婚できていたんです。
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この問題についてメディアはすぐに「女性が男性に高年収を望むが故のミスマッチ」などと、超男目線の(わがままになった女が悪い的な)意見を流布しがちですが、実は、
・女性が「結婚するために、高い教育を受ける機会を敢えて放棄する」ことをやめたこと
・年齢と収入が相関する、高度成長&年功序列時代が終わったこと
が、「結婚できない若い男性」が増えている根本的な理由だということは、きちんと理解しておきたいものです。