兄弟と姉妹たちの人生

少年や少女という年齢の子供が、無差別殺人とかバスジャックとか、同級生や近所の子供を殺すとか、日本中が大騒ぎするような事件を起こしたとき、あたしが一番に気になるのは、その子の兄弟や姉妹のことです。

身内が罪を犯して逮捕されるなんて誰にとっても衝撃的だけれど、その影響がもっとも大きいのは、「犯罪をおこした子供の兄弟や姉妹」だと思います。

自分自身も子供であり、学校に通ってる。そしてある日、自分の兄弟や姉妹が、日本中が大騒ぎするような大きな事件の犯人だとわかる。

兄弟姉妹も、事件を起こした子と同じ性癖や精神的な不安定さがあるのではと疑う人もいるだろうし、時には本人達自身が「自分にも問題があるかもしれない」という不安に襲われる。

あからさまにいじめられなくても、友達の目がどう変わるか。友達の親の中には、「今後一切、○○君とはつきあうな」と言いだす人もいるでしょう。


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自宅には連日のように殺気だったマスコミが押し寄せて来るし、学校にも行けなくなる。そして突然に、すべての友達を失う。

生活が激変してものすごいショックを受けているのに、本来なら自分を守ってくれるべき親は、被害者家族への対応や、事件を起こした子供への対応に手一杯で、そばにいてくれる余裕さえない。

当面は親戚の家に寄宿したり、そこから新たな学校に通うのかもしれないけど、ひどい衝撃を受けてる時に転校したり、見知らぬ親戚の家で寝泊まりするのは、誰にとっても大きなストレスです。


不登校になったり、進学や就職を止めてしまう子もいるでしょう。名字や住む場所を変えたからって、「ここでは誰にも知られてないから」と天真爛漫に新生活を楽しみ、自分の人生をマイペースで進める子がいるとは、とても思えない。

事件前からそれなりに交流のあった親戚が存在する場合はまだマシで、ほとんど没交渉だった親戚に預けられるケースもあるだろうし、親戚家族だって悪気はなくても対応には戸惑うはず。


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大きな事件だと、親が(精神的に)他の兄弟姉妹にかまう余裕を取り戻すまでに一年以上かかるし、その後も、事件を犯した子供の更生のためにすごい時間が取られます。

被害者の家族への配慮から、「この子は関係ないのだから」と家族として遊びに行くなんてことも、親としては躊躇されることでしょう。

引っ越しや改名など、兄弟姉妹らの生活も人生も、事件を機に一変してしまう。それなのに、カウンセラーに事情を詳しく話して相談すること自体、子供にとっては大きな恐怖で、「誰にもそんなことは言いたくない」と思っている限り、その負担は自分だけで受け止めるしかありません。


罪を犯した本人は、刑務所ではなく未成年者向けの施設に入り、多くの場合、精神的な問題のため責任能力が無く、医療的な措置を受けることになります。

そして 10年もすると施設から家庭に戻ってくるわけだけど、本人もその兄弟姉妹も、その時まだ 20代だったりします。

親に覚悟が必要なのはもちろんだけど、自分の人生をめちゃくちゃにした兄や弟や姉や妹が家庭に戻ってくることを、その兄弟姉妹は巧く受け止められるのでしょうか。

てか、「受け止める度量を持て」などと、誰が言えるでしょう。


施設からでてきた本人は、短期的には保護観察官や保護司などと暮らす場合もあるけれど、一生、そんなことを続けることはありえません。

どこかの段階で、家族はその子を受け入れ、共に生きていかなくちゃいけない。少なくとも親はその子と縁を切れないし、それはつまり(その親を共有する)兄弟姉妹にとっても同じだってことです。

そして親の死後は、兄弟や姉妹達がその子の人生の引受人になる。


いやその前に、自分自身に結婚という機会が巡ってきた時、生涯のパートナーに兄弟姉妹の過去を伝えなければならなくなる。でも相手は、そして相手の親は、それをどう受け止めるでしょう?

だからといって、こんなことを隠して結婚できるでしょうか? 一生、パートナーに自分の傷を隠しながら?


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親が自殺をした子供達の会や、小さい頃に家庭内で性的な虐待を受けていたという子供達が、お互いの苦しみや悩みを共有し、ともに乗り越えようとするコミュニティがあります。

こういう立場にいる子供達も、長い間、それを外に訴えることができませんでした。あるとき、勇気のある数人の子供達が声を上げ、「実は私も」という人たちが集まって、そういうコミュニティができたのです。

でも、世の中にはまだまだ、そんな段階にはとても行けそうにない傷を抱えている人たちもいるってことです。


事件が起こった学校の子供らには、カウンセラーが張り付いて心のケアをしてくれるけど、加害者家族の兄弟姉妹らについて、「心のケア」が叫ばれることはほとんどなく、

そういう人たちが支え合って悩みを共有しようという動きを起こすこと自体も(本人達にしかできないことでもあり)そんな簡単には実現しません。


こういった事件以外でも、大きな災害で家族や家を失ったり、危険なドラッグを使った暴走運転手にいきなり命を奪われるなど、世の中には理不尽で残酷な災難に遭う人がたくさんいます。

でも、ここまで誰にも注目されず、誰からも救いの手を差し伸べられることの無い被害者は、他にはないんじゃないかしらと、大きな事件が起こるたびに思います。



そんじゃーね


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