一対一では支えられない

昨日、障害者や病気の人、高齢者、保護者に遺棄された子供など、自力で生活するのが難しい人達の多くが、公的な福祉の支援だけではなく“私的セーフティネット”によって支えられているという話を書きました。

その“私的セーフティネットが偏在してるし崩壊しつつある”と昨日は書いたのですが、さらにもうひとつ、この私的セーフティネットが機能しなくなりつつある理由があります。

それは、家族単位の少人数化です。


大家族であれば、たとえば 3世帯 7人で住んでいれば、1名の高齢者や1名の障害者を支援する負担を、大勢で分散できます。

しかし 2人世帯で 1名が支援を必要とする状態になると、ひとりでひとりを支えなくてはなりません。

典型的なのが「母子家庭」です。

子どもが赤ちゃんの間、一定以上の収入を母親がひとりで得るのは簡単ではありません。

赤ちゃんからは目が離せないし、保育所は不足しており、預かってくれる時間にも制限があります。

赤ちゃんはしょっちゅう病気になりますが、そのたびに仕事を休めば仕事を失います。そして実際、日本の片親世帯の 6割が貧困状態と言われています。


赤ちゃんではなく、大人で世話が必要な人がでてきた場合も同じです。

介護保険サービスだって一日数時間しか来てくれません。それ以外の時間に認知症の親がどこかに行ってしまう、というパターンが毎日続けば、息子・娘が会社勤めを継続するのは困難です。

最近ニュースでよく聞く「 80代の母親と 40代の息子が生活苦で・・」という事件はこのパターンです。

40代の息子一人なら貧困状態になることはありません。しかし、誰かの世話をしなければならなくなると働けなくなり、二人とも貧困状態に陥ってしまいます。

唯一やっていける方法は、高齢の親を丸抱えしてくれる施設に預けることです。そうして 40歳の息子がフルタイムで働けば、生活は成り立つでしょう。

しかし、そういう施設はコストが非常に高いか、もしくは安いところは、まず空きがありません。1年待ちですと言われたら、その期間のために息子は仕事を失うことになります。


★★★


現実的な問題として、自立できない人を一人支えるには最低でも二人の家族が必要です。

一人が稼ぎ、一人が世話をする、のです。この分担ができないと、皆で倒れてしまう。できれば 3人対 1人で支えるのが理想です。

重い障害のある子供をもつ親御さんにとっては、自分がなくなった後のことが一番の心配ですが、この場合、障害をもつ子供のことだけではなく、その他の子供達(兄弟姉妹)にかかる負担についての心配も大きいです。

兄弟が 5人もいた昔と違って今は少子化ですから、ひとりあたりの負担も相当です。

家族が助け合うのは当然と言えば当然でしょうが、周囲の人にかかる負担は半端ではなく、時にその人生の選択(就職や結婚や居住地など)にも重大な影響と制限を与えます。

“私的セーフティネットの存在を前提とした福祉制度”は本当に、このままでいいのか、考えさせられるところです。


政府はよく“夫婦に子供ふたりの標準世帯”という言い方をしますが、実際には単身世帯や 2人世帯が急増しています。

「住み慣れた家で老後を送ることが出来る在宅介護を推進する」などと、いつまでも「支える家族がいる」ことを前提に制度設計をしていると、そのうち深刻な事態を迎えることになりかねません。

より現実に即した福祉の在り方、すなわち、「私的セーフティネットを当てにしない公的扶助の仕組み」を考えていくべき時期がきていると思います。



ではでは

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