第6話 グローバル人材の意味、わかってる?

<これまでのあらすじ>
第1話 ウォールストリートから八日市へ
第2話 価値を伝える
第3話 「市場の選択」という幸運
第4話 「買うと決める」と「買う」の分離
第5話 「パジャマを生地で選ぶ」という新しい市場


ラブリー社でいろんなパジャマを見せてもらい、話を聞いていると、「ここのパジャマは、まだいくらでも売れる!」って思えました。

「日本製の手作り」で「圧倒的に気持ちのいい自然素材で作られてる一万円のパジャマ」を欲しがる中国人プチ富裕層はゴマンといそうだし、「この手触りなら欧米でもハイエンド商品として売れるかも!?」とか考えていたら、

「実は国内でもいろんなところから引き合いがあるんです。でも、人手と場所が足りなくて・・・」と北川社長。


たしかに高級スパや一流ホテル向け、デパートでの販売も含め、国内でもまだまだ売れそう。足りないのは需要ではなく、供給能力だったんですね。特に大変なのは人手の確保でしょう。

「どんな人が必要なんですか?」と聞くと、「手先が器用で、細かい仕事に丁寧に、根気強く取り組める人」と。


あー、わかります・・・・うちの母みたいな人ですね。


ちきりんの母は、何をやっても驚くほど丁寧です。

母に洗濯してもらうと、何年も着ていた綿のハイネックが新品みたいになるし、料理でも、野菜の切り方から衣の付け方まで「ここまでやる?」ってくらい丁寧な仕事振りです。


洋裁もめっちゃ得意で、このスーツは母の手作り。着てるのは大学時代の私。超まじめっぽいでしょ。

細かい柄の布でもピッチリ柄合わせをするし、手縫いで完璧なボタンホールを作ります。


ちなみに私も母の影響で洋裁をするんですが、その雑さたるや、自分でもクラクラするくらい適当です。

こちらは学生時代に飲み屋でアルバイトしてる私。着てるピンクのワンピースは自分で縫いました。

当時はお金がなかったので、普段着は安い布を買って自分で作ってたんだよね。母の作品とはレベルが違いますけど・・


というわけで、私にはラブリーが求めてる人材がどんな人かよくわかります。それはまさに私の母のような人であり、かつ、私とは正反対のタイプの人なんです。


★★★


ところが都市部で一般的な就活をすれば、私の方が相当に有利です。

なぜなら、そういう“市場”では多くの企業が「なんでも手早く理解し、要領よくこなせて話の上手い学生」、いわゆる「コミュニケーション能力の高い学生」を求めているからです。


反対に、手先が器用で細かい仕事を丁寧にこなせても、クチ下手で慎重な性格のため行動がゆっくりめの学生は、「ややトロい?」「積極的じゃない?」みたいに思われてしまう。

能力がないわけじゃないのに合わない市場で就職活動をして苦労し、くだらない「面接の練習」とやらでしゃべる練習をやらされたりとか、間違った方向にプレッシャーを掛けられて疲弊してる人もたくさんいます。



実は、ラブリーのようなところで働けている人は、まさに「グローバル人材」なんですよね。

英語が話せる人をグローバル人材と呼ぶなら、彼女たちはグローバル人材ではありません。

でも、「世界に通用する価値を提供できる人」をグローバル人材と呼ぶなら(←私の定義はこれです)、彼女らは間違いなく、グローバル人材です。


マーケット感覚を身につけよう 』の中で、ファミレスで働いてる人の多くはグローバル人材だが、メガバンクの銀行員の大半はグローバル人材じゃないって書きました。

それと同じです。

工業用ミシンを自在に操り、日本で有数の縫製技術をもつ人達とは、事実上、「世界で有数の縫製技術をもつ人」です。こういうモノ作り系、職人系の仕事については、日本でトップクラスなら、世界でもトップクラス、というケースはよくあります。


ラブリーが滋賀県の小さな下請け工場から、楽天の パジャマ部門のトップ 10 にいくつも商品を送り込むメーカーになれたように(注:パジャマ工房と表示されてる商品がラブリーのもの)、個人でもそのレベルの縫製技術があれば、世界で食べていくことが可能になるでしょう。



昨年 「仕事と家庭の両立なんてやめたらどう?」 というエントリを書いたところ、「転職して海外で仕事を得られるなんて、一部のエリートだけでしょ!」と反発した人がたくさんいました。

そういう人が考える「海外で仕事を得やすい人」とは、英語ペラペラ、海外で MBAを取得、専門資格を持ってる、みたいな人なんでしょう。


でも私が考える「海外でも仕事が得られるグローバル人材」とは、そんな人ではなく、まさにラブリーでパジャマを作ってるような「世界最高レベルの縫製技術を持ってる人」なんです。

日本レベルの縫製技術やその工程を理解していて、新人にミシンの指導ができ、商品の品質管理ができる人、そういう人を雇いたい海外のアパレルメーカーや工場はたくさんある。


みんなちょっと、「グローバル人材」の意味をはき違えてるんですよね。

「海外 MBAをもってるエリート」がグローバル人材だなんて思い込んでる人は、マーケット感覚がなさ過ぎです。


★★★


私がホントにかわいそうだと思っているのは、ラブリーのような企業に巡り会い、10年も働けば、確実に「世界に通用する技術」が身につけられる(うちの母のような適性をもつ)人が、

都市部の一般的な就職活動という「自分に合わない労働市場」を選んだがために、正当な評価を得られず、挫折感や劣等感に苛まされ、自分の人生に自信を失ってしまう、という状況です。


親の立場でこのブログを読まれている方。もし自分の子供が、自分を正当に評価してくれない就活市場で苦しんでいたら、ぜひ「市場の選択」についてアドバイスしてあげましょう。

グローバル人材になるのに、一流大学を出たり、英語を勉強したり、「社交的で明るい性格」なんかになる必要は全くありません。世界的に名の知れた大企業で働く経験さえ不要なのです。



「そんな小さな縫製工場で働いても、たいして稼げない」と思います? たしかにお給料がすごく高いわけではないでしょう。

でもね。世界トップクラスの縫製技術とマーケット感覚を身につければ、都市部の会社員なんかより、よほど市場で稼ぐ力が付くのです。


ラブリーの人気パジャマは、1万円もします。そしてパジャマなら、うちの母でも半日で作ってしまいます。プロが専門のミシンを使えば、もっとたくさん作れるはず。 

一流大学をでて大企業で働いてても、個人で それだけ( 1日数万円)の売上げが得られる人は、多くないのでは?


しかも今、楽天のランキングに入っているのは「パジャマ工房のパジャマ」ですが、これからは個人が作った「○○さんが縫ったパジャマ」がランキング入りすることさえ、可能な時代になります。個人が書いてるブログが、ちょっとした雑誌と同じくらい読まれる時代が来たように、ね。


わざわざ自分に合わない就活市場や職場を選び、疲弊するのは止めましょう。「価値を生み出せるスキル」に「マーケット感覚」をあわせて身につければ、コミュニケーション能力なんて、たいして重要じゃないんです。


そんじゃーね!


「市場の選択」について詳しく知りたい方はこちらを。


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<関連サイト>

→ 初コラボ 真夏用レディース ちきりんパジャマが新発売!

→ 真夏用メンズ ガーゼパジャマも開発!

→ 真冬用 信じられない肌触りのオーガニックコットンパジャマ


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/