来年の 4月末には現天皇が退位され、翌日には新天皇が即位されます。また今秋には秋篠宮眞子様もご結婚され、皇籍を離脱されます。
おそらく来年以降はふたたび「皇室存続の危機」が取りざたされ、女系天皇ありやなしやの議論が再興するのではないでしょうか。
だからこそこのタイミングで
日本国民全員が!
とまでは言いませんが、少なくとも皇室のあり方について関心のある方、なんらか意見を持ちたいという方にぜひ読んでおいてほしい本があります。
それがコレ。ほんとに MUST READ な一冊です。
知られざる皇室外交 (角川新書)posted with amazlet at 18.01.25西川 恵
KADOKAWA (2016-10-10)
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話を少し戻しましょう。
2005年、今から 13年前、小泉純一郎首相は若い皇位継承者が少ないことを理由に、愛子様にも皇位継承権を認めるべきではないかという議論を持ち出しました。
当時、国民の多くは「女系天皇と女性天皇の根本的な違い」さえ理解していなかったので、
主に人権問題(雅子様にこれ以上、男児出産のプレッシャーをかけるべきではない云々)や男女平等的な観点から、「愛子様が天皇になられても問題ないのでは?」といった気運が高まってしまいました。
当時の小泉首相の支持率は極めて高く、あのままでは本当に法律が改正され、女系天皇が認められてしまいそうな勢いだったのです。
けれど
この議論はあるニュース速報によって瞬時に消滅します。
言わずとしれたそのニュースとは、小泉首相も思わず声を出すほど驚愕した「紀子様ご懐妊」の一報です。
出産時には 40歳、直前のご出産から12年も過ぎてからのご懐妊が、「女系・女性天皇議論」と無関係だと思った人はさすがにいないでしょう。
紀子様の「覚悟のご懐妊」は、直接のお言葉はさすがに(当然)なかったけれど、秋篠宮家からの(もしくは皇室・皇族からの)国民に対する明確な
「女系・女性天皇はありえません」
という意思表示に見えました。
このニュースを目にした時、私は初めて理解したんです。
皇族の方々は、天皇制度のあり方については明確なご意志をお持ちだし、今でも必要だと思われれば躊躇せずそれを明らかにされるんだなと。
★★★
ご存じのように現在の憲法下では、私たち国民が主権者であり、天皇は象徴です。
天皇には政治権限はなく、皇室のあり方を定めた皇室典範の改正も、天皇や皇族の意思ではなく、主権者である国民の代表である国会議員が決めるべきことです。
だから極端なことを言えば、国民は「天皇制廃止」を決めることもできるし、もちろん、女系・女性天皇を誕生させることもできます。
そして実際、小泉政権は「愛子様が天皇になっても問題ないはず」と言い始めました。
もちろん当時から歴史・皇室の専門家の間では「女系天皇なんてありえない」という慎重論が大勢でした。でも一部の人達は彼らを「アタマの古い保守的な学者」とみなし、
「現代的でグローバルスタンダードな人権意識に敏感な私たちは当然、愛子様や眞子様、佳子様など女性皇族の皇位継承にも大賛成よ!」的な意見をブイブイ吹聴していたんです。
でも紀子様のご懐妊報道以降、この話は完全に封印され、今でも(若い皇位継承者がほとんどいないという)問題はまったく解決されていないにも拘わらず、一切の議論が行われなくなりました。
おそらくもはや、政治家や官僚がこの話題を政治日程に載せることは不可能なんじゃないでしょうか。
「天皇や皇族の方々の意向への忖度」は、戦前と同じくらい強く日本国民の間に残っているのです。
★★★
その 10年後。2016年の 7月、NHKが「天皇陛下が生前退位の意思を示された」とスクープしました。
あまりにもキレイなスクープだったので、スクープっていうより、「皆様の NHK は、実は天皇家の広報部門だったのね」ってことがよくわかるニュースでもありました。
とはいえ天皇の意向通りに皇室典範を改正しては「主権は国民にあるの? それとも天皇家にあるの?」という憲法違反問題が出てきてしまうので、
政府はものすごく慎重な手続きを踏みました。
でも
結論は最初から見えています。
私たち日本人とその政府には、「陛下の意向」を忖度する以外の選択肢がありません。
★★★
今回も高齢の陛下のお体やご負担を気遣うだけなら、実は特別な制度改正をする必要はまったくありませんでした。
憲法や皇室典範(=法律)には、摂政という制度が決められていて、
「天皇が,精神・身体の重患か重大な事故により,国事行為をみずからすることができないときは,皇室会議の議により,摂政を置く」って書いてあるんです。
なのにテレビの前で陛下は明確に法律で定められたその制度ではなく、譲位をしたいと意思表示をされました。
そして政府は「ご意向」通り粛々と「摂政ではなく譲位」を決めていきます。
激しい安倍政権批判を続け、9条を巡る憲法違反には驚くほど敏感な野党のお歴々も、まったく議論をふっかけません。
この件に関しては野党もまた、「忖度」の塊なのです。
★★★
付け加えれば、最初に NHK が使った「生前退位」という言葉にたいして、美智子皇后陛下は次のようにコメントされました。
「『生前退位』という大きな活字を見た時の衝撃は大きなものでした」
「歴史の書物の中でもこうした表現に接したことがなかったので、一瞬驚きと共に痛みを覚えたのかもしれません」
たしかに「生前」に「退位する」って「崩御される前に」+「退位する」って意味ですからね。
一般人になら「生前贈与」=「死ぬ前に」+「贈与する」とか言うのはよくても、「生前○○」などという死を想定させる言葉は、陛下に向けて使うものではないのでしょう。
で、その後メディアは一斉に「生前退位」ではなく、「退位」「譲位」という言葉を使い始めました。
あの慈悲深く奥ゆかしく慎重で思慮深い皇后が「衝撃」を受けられ「痛みを覚え」られた言葉(表現)を使い続けられるメディアなんて、日本には存在しないんです。
戦前に天皇のお気持ちを忖度しないメディアなんて存在し得なかったように。
★★★
このように、ここ十数年の皇室に関する動きを見ている限り、「少なくとも皇室制度に関しては、主権をもっているのは国民ではなく天皇家であり皇室の方々なんだな」というのは、明らかに思えるのです。
だとすればそれは、厳密には憲法違反です。
でもね。
それが問題かというと・・・そうも思えません。
私は杓子定規な憲法学者でもないので、「それでいーんじゃないの」と思ってるんです。(ちなみに自衛隊も違憲だと思うけど、それでいーんじゃないのと思ってます)
だってよく考えてみてください。
そもそもなぜ皇室の方々は(憲法違反になる可能性をよくご存じのはずなのに=戦前の歴史的な反省事項を踏まえて制定された現憲法の趣旨を踏み越えてまで)これだけ明確にそのご意志を示されるのでしょう?
答えは簡単です。
国民があまりにも天皇制度について無知だからです。
そんな無知な人達に「民主的な」手続きでぐちゃぐちゃにされてしまっては取り返しがつかないくらい大事なものを守らねばならないお立場にあることを、深く自覚されているからです。
「愛子様が天皇になることの何が問題なの? 時代は男女平等よ!」とか、
「眞子様にはご結婚されても皇族のままでいていただけば? お子様に男児が生まれたら皇位継承者が増えて万々歳じゃない?」
「天皇陛下、あんなご高齢であんなお忙しいのはホントにおかわいそう。当然、退位を認めるべきよ!」
みたいな、情緒的で(歴史をまったく踏まえていない)浅薄な理由で天皇制度が変更されてしまうなんてありえない。
そう思うから、私もまたこの件については、天皇制度についてもっともよく理解されている方々(つまりは天皇であり皇族の皆様)の御意志を汲んで制度設計したほうがいーんじゃないの?って思うんです。
たとえそれが憲法違反であろうと。
たとえそれが民主的でなかろうと。
私たちはそれほど天皇制度や皇室制度について何もわかっていません。
少なくとも下記の本を読めば、私たちがいかに大事なことを理解できていないかよくわかります。
素晴らしい本なので内容は別エントリで紹介しますが(しかもたった 800円!)、この本は、来年以降に再燃しかねない女系・女性天皇を含めた皇位継承問題になんらか意見をもちたいと思ってる日本人にとっては、MUST READ な一冊です。
(次のエントリを待たず)先に読んでおきたいと思われる方は、ぜひこのタイミングで入手しておいてください。そうすれば、次のエントリの内容もより深く理解していただけると思います。
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この件ほんとに大事なので、マジで少しは勉強しましょう。