本音建前変換機構

竹田恒泰さんの「旧皇族が語る天皇の日本史」を読了。戦後に皇籍離脱した竹田宮家の子孫で、明治天皇の玄孫にあたる方ですね。学者さんで、皇室典範改正議論の時にはかなり積極的に発言されていたので、ご存じの方も多いでしょう。

先日からの流れで「誰が継ぐのが正当なのよ?」というのを考えたく、こういう立場の人の意見を知るのもいいかなと。

で、誰が継ぐべきか?に関しては意見変わらず。やっぱ男系維持でしょ〜と思います。が、それとは別にとても大事なことが理解できました。


★★★

何が理解できたか、というと、「天皇ってなにさ」ってことが、理解できたです!


そんなことが、本一冊で理解できるなんてあまりにお手軽なちきりんの理解力ですが、ずばり、天皇とは・・・

「本音建前変換機構である」と。

思ったですよ。



どーゆー意味よって?

★★★

たとえば、


1945年原爆投下後
本音=「やばい!このへんで戦争やめないと日本全滅だ!!」
建前=「我が日本軍は永遠に不滅だ!大日本帝国は絶対勝つ!」

本音建前変換機構スイッチオン!

「我が日本軍は永遠に不滅だが、天皇陛下が民のために降伏するとおっしゃっている。陛下の意思には従わざるを得ない!」


ってな感じ。



幕末も、
本音=「開国を拒み続けるのは無理だ。相手の軍事力は圧倒的なんだから、拒み続けたら武力制圧されてしまう。しかも実際のところ、開国した方が日本も近代化できていいくらいだ」
建前=「開国なんかありえん!不平等条約なんてありえん!黒船なんか撃退しろ!!腰抜けどもめ。戦え日本男児!!」

本音建前変換機構スイッチオン!

「開国を受け入れた幕府はけしからん。幕府は責任をとって退場しろ!朝廷に王政復古だ!」

★★★

つまりね、終戦にしても明治の開国にしても、本音では「しかたない」のだが、建前上それを認めるわけにはいかない。で、天皇制度を利用して建前を崩さずに本音を実現する、ということが行われてる。

「時の政権は、常に天皇を利用してきた」というよく聞く意見って、同じコトをネガティブ側から言ってるんだと思う。


戦前の軍部だけでなく、徳川幕府、源氏や平家、藤原氏など、事実上の権限をもっていた人たちは皆同じように、好き勝手にこの「本音建前変換機構」を利用してた。

つまりさ、天皇制度を利用すれば、「誰にも責任を問わずして前言を翻すことが可能」となり、「やっべ〜、間違ったよ!!」ってなことも、いつでも恥ずかし気もなく「やーめた」と言える。すごい便利な機関である、ということだ。いつでも自分の間違いを訂正できるんだから。

普通はね、権力者が間違いを犯した場合、そんな簡単に「間違ってました」「やっぱりやめます」とは言えないでしょう。言いにくいじゃん。でも、この仕組みによりそれが言えるようになるわけです。


そして、そのことが何度も「日本を守った」と思う。時の政権の上に“スペシャルな立場”の天皇を擁することで、“ジョーカー”を使った勝負ができる、って感じ。

「名誉と体面を守りながら誤った道を修正できる権利」を持つ国、「いやよいやよ」と言いつつ「来て来て」って言える国、ってのは強いじゃん、と思えるわけ。

★★★


それ以外でおもしろかったのは・・天皇家って結構「なんでもあり」だな、と思いました。かなりいろんなドラマがあるよね。怨念とか後継者争いとか暗殺から島流しまで。すごい「人間くさい」ドラマがいろいろある家系だな〜と思いました。“神聖”っていうよりはドロドロなイメージが残りました。


万世一系については、神からつながってるかどーかはしらんが、これしかないんだから、守るべきでは?と思う。それ以外にこの一家の特殊性を担保できるものはないんだから。


あとね、天皇家って、時の権力者が皆、娘を嫁がせてるでしょ。蘇我氏とか藤原氏、北条氏とか。天皇の外戚になりたいから、自分の娘を天皇に嫁がせる。だから天皇家ってのは男系の血はつながってるが、女系の血は基本的に「時の権力者」の血が入れられる、という仕組みになってんのよね。

美智子様だってそうでしょ。あの頃からは「権力者」は「民」なわけで、だから奥様は民間から入るわけよ。

これはねえ、天皇家がこんなに長く生き残っている大きな理由だと思う。権力者の家って、基本的に「強い血」なわけですよ。その時代の実権者の家系の血を常に導入できるって、そりゃあ、血として最強だわな、と思うわけ。

ふむ


えっと、天皇の母は正妻ではなく女官さんの場合も多いので、「時の権力者」もしくは「女性として選ばれた人の血」ということでもいいかも。まあ、女官だって時の権力者の家からたくさん来てたと思いますが。だって、とにかく「ご生母様」を取りに来るわけだからね、権力者の家は。

いずれにせよ、男系はひとつしかないけど、その代わり女性側からは「強い遺伝子を入れまくる」というのは、結構巧い仕組みなんだと思う。

★★★

&戦後はまだ60年ちょいしかたってなくて、確かに二千年も続く天皇家の歴史からすれば“一瞬”にすぎない。60年前に臣籍降下した宮家が戻るのは、たいした問題はないことなんだろう。こういう「時間軸の違い」も理解できて意味があった。やっぱり旧宮宅を戻す案に一票だす。

それと、日本の特徴である政権の二重構造を理解した上で、天皇の日本史を教育で教える意味ってのはあるんじゃないかと思う。別に右とか左とかでなくてさ。ふむ。

というわけで、結構いろいろわかっておもしろかったです。



なお、この本の著者の意見はあくまで元皇族の意見であって、一応この人の職業は学者ではあるけど、事実と論理に基づく中立的な意見とは思えない内容の本ですので一応念のため。&上記に書いたのは、ちきりんの感想であり、この本に書いてあること、著者の意見ではありません。

たとえば著者によると「天皇とは“祈る存在”である」とのことで、ちきりんの言う「本音建前変換機構」などとは全然違うものであると主張されとります。反対にちきりんには“祈る存在”ってなにさ?って感じです。全然わからんです。


んじゃ今日はここまで。

ばい